【夢幻】潔血の忌子03
セヴランには人とは違う特異な体質が備わっている。
一言で片付けることはできないのだが、簡潔にまとめると、彼の身体を流れる血は赤色ではなく白色なのだ。
ということはもちろん出血すれば赤黒い液体が染み出すのではなく、牛乳をこぼしたような状態になる。
それだけでなく、彼の血液は凶器ともなりうるのだ。
一般の人がこの血液に触れることも許されない。
軍にとって殺傷能力がある血を持つというだけで優遇されそうだが、元帥はそれだけではないと言う。
「それでは私に他の相応な理由があるということなのでしょうか。」
喉から搾り出した精一杯の声でセヴランは元帥に問いかける。
もちろん上官に物申すというだけで緊張するし、
それもこの軍を統括する元帥と対話しているだけでも下っ端士官の彼にはプレッシャーが大きいことなのだ。
本当は私ごときの士官が言うことではありませんが、と何かにつけて前置きをしたいくらいだ。
そんな彼の心の内を知らない元帥は彼の搾り出した質問に答える。
「ああ、血も確かにアクロイド中尉を選んだ理由のひとつでもある。
しかし、私は君の戦果の挙げ方や人間性に一目置いているのだ。
士官学校をトップクラスで卒業した士官たちでも実力だけあって心のないものを私は多く見てきた。
アストラの士官に必要なのは心と力、君はこの二つを兼ね備えている。
どうだね、納得いくまでの理由にはならないか? 」
「お褒めに預かり光栄です。」
確かにセヴランにも心当たりがあった。
実力はあれど部下を育てられない上官はたくさんいる。
実力主義は軍にとって大切だが、個人の実力だけではどうにも足りないというのが組織というものだ。
セヴランはまだ年が若すぎて直接部下を育てるというまでにはいかないが、同じ年齢の軍人たちの憧れとなっているのは事実なのだ。
元帥は彼の人間性までもを考えて直接精鋭部隊候補に選定したのだ。
これまで光栄なことはこの後他にあるのだろうか。
「それでだな、アクロイド中尉は第一青年部隊に配属されることになる。
精鋭部隊は第一第二部隊合わせて五人を配属することになっている。
それで今、同じ青年部隊に配属される者を呼んである。
そろそろ所定の場所に到着する頃だろう。あとの説明は私ではなくメサイアに頼んである。
彼に指示を聞くように。以上だ、下がっていいぞ。」
「はっ、失礼いたします。」
いつの間にかまた忙しく仕事に戻っていた司令部の部員たちに軽く会釈をして部屋のドアを開ける。
背後のドアが完全に閉まったのを確認し、彼は大きく息を吐く。