【1章】異変10
「アーサーさん、ヴァレリーさん、お大事にしてくださいね。
それでは私たちはこれで。」
「ああ、ベルちゃんもセヴもお疲れさま。
メディカルチェック頑張ってね。」
互いに軽い敬礼をすると、メサイアの案内で研究室の奥に通される。
メディカルチェックは月に一度必ず受けることになっているのだが、こうした不調が見つかったときだけこの研究室で精密検査を受けることになっている。
発足当時は頻繁にお世話になっていたこの部屋だったが、最近は不調も起きていなかったため、久しぶりにこの部屋の雰囲気を味わう。
発足当時から、セヴランはこの部屋に通されると何故か極度の緊張状態に陥る。
月に1度のメディカルチェックではそこまでの拒絶反応を見せる訳では無いが、この部屋で行うメディカルチェックには敏感なのだ。
幼いころはそうでもなかったのだが、物心ついた頃に急に病院嫌いになり、特に採血が大嫌いだった。
今も病院嫌いは治っていない。
この歳になってまだ病院嫌いだなんて子供みたいだと思われるかもしれないが、彼にとっては死活問題なのだ。
「セヴ、やっぱり駄目そう? 」
「い、いや。
大丈夫だけど…。
でも、やっぱり先にベルが受けてきていいよ。
その間にきっと落ち着くし…。」
「相変わらず検査嫌いだね…。
先に受けてくるから頑張って覚悟決めるんだよ? 」
「あぅ…が、頑張ります。」
ベルナデットは苦笑いしながらそっとセヴランの肩をぽんぽんとたたくと、機械のたくさん置いてある別室に移動をする。
彼女の入った部屋はセヴランのいる部屋とはガラス一枚で仕切られている。
涙目のセヴランは恐る恐るベルナデットが検査の準備をする様子を見守る。
時折ベルナデットがセヴランに向かって手を振るが、彼はそれに応えるのがやっとで、彼女はまた苦笑いをする。
2016.5.26 誤字を訂正し、文章を追加しました。