【1章】異変09
「私たちの方も慢心してしまって、危うく死者が出るところでした。
精鋭部隊といえども生身の人間ですから、無理はいけませんね。
それでも私たちは怪我しませんでしたけど、ちょっとセヴの血の様子がおかしいのでメサイアさんに診てもらいに来たんです。」
「血の様子? セヴが不調なんて珍しいじゃないか。」
普段体調や不調を起こすのはどちらかというとベルナデットの方なのだ。
その度にセヴランが
『ベルは一人で抱え込むからこうなるんだよ、僕のこともっと頼ってくれればいいのに。』
と声をかける。
今回ばかりはセヴランがベルナデットに迷惑をかける形になってしまったのだが。
「まあな、それで俺が敵方の大将に殺されかけたんだよ。
急に血が分散して攻撃不可能になったんだ。
言うなれば凝固不調かな? それ以外は元気だし。」
「そうか、それにしてもそんなピンチに陥りながらよく無傷で帰ってこれたね。
これぞ第二部隊にはまだ薄い絆の力ってやつかな? 」
「アーサーさん、あんまりからかわないでください、別にそういう浮ついた感じじゃないですもん! 」
ベルナデットは咄嗟にアーサーの言葉に噛みつく。
彼女は彼女なりに他の青年兵や上官たちにセヴランと仲がいいと噂されているのを気にしている。
悪い気はしないけれど、勘違いされると弁解に困る、というのが彼女の本心だ。
だからここ三年間、こういった勘違いともとれる文言に敏感になっているのだ。
頬を膨らませ、前傾姿勢で必死に弁解するベルナデットのすぐ横で、ついさっき戻ってきたメサイアがベルナデットの頭を撫でる。
「はいはい、アーサーもセヴランもあんまり年頃の女の子をいじめたりしたら駄目だろ?
ベル、お待たせして悪かったね。
メディカルチェックの準備が整ったから二人とも奥に来てくれるかい?
アーサーはまだ本調子じゃないんだからおとなしく寝ていたほうがいい。
一番元気のあるイヴにあとはお任せしておこうかな。」
と、メサイアはカーテンの奥にいるイヴにも話を振ると、わかりました、お任せください。という声が返ってきた。