【1章】異変07
何も話さないままメサイアの研究室の前に着いてしまった。
ベルナデットが先に指紋認証を済ませると、セヴランも同じように認証を済ませ、間接照明が灯る通路を進んでいく。
二つ目のドアが開くと、部屋の中にはメサイアとは別に三人の男性がいて、それぞれ白いベッドの上に腰かけていた。
メサイアはこの男性たちの手当をしていてこちらには気づいていない。
「父さん、【シンツィア】の二人が来たみたいだ。
アーサー兄さんとヴァレリーの手当は俺がやっておくから先に見てやってくれ。」
一番手前に腰かけていた白衣姿のイヴ・アクロイドがメサイアから包帯を受け取る。
「ああ、二人ともお疲れさま。見ての通り【ジュスト】のメンバーもこの有様だ。
少し時間が掛かるかもしれないけれど大丈夫かい? 」
「別に僕たちは大丈夫だけど、兄さんたちは大丈夫なのか? 」
イヴは比較的軽傷で済んだようだが、あとの二人はジャケットに血がにじんでいることから深い損傷を追ってしまっていて、第二作戦班【ジュスト】が激しい戦闘に巻き込まれていたことがうかがえる。
「アーサー兄さんは左腕に深い切り傷を負ってしまったみたいでね。
ヴァレリーはそれに比べたら軽傷で済んでいるんだけれども、彼は精神的に疲弊してしまったようだよ。ちょっと相手を見くびりすぎたかもしれない。
セレドリーナの大群に押しつぶされて、よく死者を出さずに帰ってこれたなっていうレベルだったよ。」
そう話しながらイヴはアーサーの左腕に包帯を巻く。
時々呻き声をあげるアーサーを見てベルナデットは少し顔をしかめる。
「大丈夫かベル? 無理に見てなくてもいいんだぜ。」
「ううん、大丈夫。第二部隊の皆さんがこんな風になっているのに私だけ目をそらすなんてできないもん。」
明日は我が身だよ、と彼女は無理やり強がってみせる。