【1章】異変06
「こらリュシル、二人をいじめたりしたら駄目でしょ?
楽しいのはいいけど、一応あなたも彼らも仕事中なのよ。」
カウンターに入ってきたのは赤のラインが基調の制服を着た司令部員、ナディーヌ・リッジウェイだ。
彼女は手に持っていた分厚いファイルをリュシルの肩に軽く置き、それをリュシルが手に取る。
「だって、この二人すごくいじりがいがあるんだもん。」
「まあそこは同意してあげないこともないけど、ほどほどにしなさいよ。
二人はこの後メサイア上官に呼ばれているんだからあんまり引き止めたりしたらかわいそうでしょ。」
「まあナディーヌの言う通りだけど…。」
先ほどのファイルの中身を確認したリュシルはそのままこのファイルをベルナデットに手渡す。
「この後があるから手短にね。
この中に他の部隊の報告書と二人のバイタルチェック表、そしてカウンセリングのカルテが入ってるの。
このままメサイア上官に渡してくれればきっと上官も状況が把握できるんじゃないかな。
護衛任務の時にいろいろあったみたいだけど、メサイア上官の手に掛かればきっとすぐ何とかなるよ。」
リュシルがそう言うと、ベルナデットとセヴランは彼女に敬礼をする。
「はい、手配ありがとうございました。」
「いいのよ、これが私とリュシルの仕事なんだから。
最前線で戦うあなたたちのサポートは私たちに任せて。」
ナディーヌとリュシルに見送られて指令室を出た二人は地下五階にあるメサイアの研究室に向かった。
ベルナデットが歩きながらファイルの中身を見ている間、セヴランはなんて声をかけていいのかわからなかった。
彼女を巻き込んでしまい、心に傷を負わせてしまったという事実を彼自身痛感していたので、何か下手なことを言ってベルナデットがまた取り乱すのが怖かったのだ。
そうなるんだったら黙っていたほうがいいじゃないか。
自分勝手ではあるけれど、自分も彼女も傷つかないためにはこうするしかなかった。