【1章】異変05
「…ごめん、セヴだって辛いはずなのに私ばかりこんなこと言って。
でももう大丈夫、帰ってメサイアさんに相談しよう?
ここでセヴに心配ぶつけるよりその方がずっといいや。」
セヴランは何も言わずにただ頷くと、歩き出したベルナデットの横に並んで歩く。
やはり泣いていたのだろうか、彼女の目尻は濡れていて、瞼も少し腫れてしまっている。
セヴランはためらいながらも彼女の栗色の髪をそっと撫でる。
「…もう私だって子供じゃないんだよ? 」
「うん、知ってる。」
「知ってるならその手をどうにかしなさい。」
「ん? 嫌ですけど? 」
「そんなことされたら余計泣くよ? 」
「別に僕は大丈夫だけど。」
「こういうところ、全然変わってないよね。」
「ん? 」
「いや、何でもない。でも…ありがと。」
「こちらこそ。」
すべての後始末が終わって基地に帰ったのはもうあたりが暗くなり始める頃だった。
二人揃って指令室に入り、戦況報告を出す。
オペレーションカウンターにいたのは司令部通信班のリュシル・デュベリーだった。
彼女はセヴランとベルナデットよりも少し年上で、青年兵ではないのだが、精鋭部隊発足当時から二人の面倒を見てきている者の中の一人だ。
「リュシルさん、報告書をまとめてきました。」
ベルナデットがモニターに触るリュシルの前に報告書を出すと、彼女はインカムを外しながら報告書を片手で受け取る。
「はい、確かに受け取りましたよ。
…あれ、ベルちゃんもしかしてセヴランに泣かされた? 」
「え? いや、セヴに泣かされたわけじゃ…。」
国境付近から移動してきたとはいえ、まだベルは泣いた痕がうっすらと残っている。
リュシルは冗談で言ったつもりだったが、ベルが慌てふためくのを見て面白がってからかいに拍車をかける。
「セヴラン、女の子泣かせるなんて最低。」
「いやいや、リュシルさんベルの話聞いてました!?
ていうかそんな目で見ないで!
僕が悪いみたいじゃん! 」
「責任逃れるとかもっと最低だねー。
そんなだから女性兵士にモテないのよ。」
「僕が悪かったです!
列記とした事実だから何も言い返せない! 」
「だ、大丈夫だよ。セヴはモテなくっていいの! 」
「ベル!? え、なんで? フォローになってないよ? 」
ベルナデットとセヴランは軍の中でも仲がいい部隊として有名なのだ。
二人とも示し合わせているわけでもないのに、こんな風にいつの間にかちょっとしたコントのようなやり取りになってしまうこともしばしばある。