【1章】異変04
下級部隊が作業を終え、ほとんど撤収し終わる頃になってもベルナデットはその場にぼうっと立っていた。
「ベル、お前大丈夫か? 」
「うん、今はもう大丈夫。さっきよりは落ち着いたよ。」
そうは言うものの、ベルナデットはセヴランと目を合わせようとしない。彼に背を向けてじっと立ったままだ。普段ベルは感情に任せて行動をしたりすることはない。しかし、先ほどの大将戦での行動を見てセヴランは彼女のことが心配になった。
「ごめんね、セヴ。私、いつもあんなこと普通に頼んでたなんて…。私、最低だよね。」
ベルナデットは大将戦でのトドメの引き金を引くのに少しためらった。人を殺すのに慣れないのはいつもセヴランの弓に任せていたからであって、自分の無力さを責めていたのだった。
「あの時、もう少しタイミングがずれていたらセヴが死んじゃうところだった。パートナーのピンチを救えない隊長だなんて失格だよ。」
「もういいよ、僕は大丈夫だったんだから。ね?ベルは何も悪くない。」
「大丈夫じゃないじゃない。弓が壊れるなんてこれまでに一回もなかったよね?」
「それは…。」
「いつも戻ってくるはずの血だってどこかにこぼれちゃった。これで本当に大丈夫なの? 私はそんな風に思えない。」
表情は見えないが、涙をこらえたような声でベルナデットは訴える。セヴランは何も言えなかった。自分だって何があったのかわかっていない。懐に入っている瓶は空っぽだった。急に血が凝固しなくなった、そんな経験はこれまでに一度もない。血が凝固しなくなった以外になにも身体の不具合は見当たらない。表面上大丈夫だよと笑い飛ばしていても、大丈夫じゃないことなんてセヴラン自身もわかっていた。