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  作者: るーく
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目隠しを外された僕の目に飛び込んできたのは、ごく普通の山の景色と小さな山小屋だった。


山小屋の裏には畑が見える。




『今日からお前はここで一人になる』


『・・・』


『自給自足で生活をして毎日一回、王国の法律書物を読んでもらい反省文を書いてもらう』


『・・・』


『私は監視役だ。お前に更正する意志がない場合は即、制裁を与える』


『隊はどうするんだ』


『そんなことはお前に関係ない』











手錠を外され、足の拘束も外された。



『私は一日に一度監視に訪れるからな』


『・・・』


『詳しいことは小屋にある書類に書いてある。

せいぜい頑張ることだ』













どこだかわからない山奥に放置された。


小屋がある。

畑がある。



でも人は僕しかいない。





僕は、とりあえず生活をし始めた。


日が経つにつれ、色々と慣れてきた。


畑を耕し。

水を汲み。

山で動物を狩って食料を確保する。



夜には毎日ライザがやってくる。












『ウォル、山奥の小屋に二人きりだぞ』


『・・・』


『私の機嫌をとることができたら、ここから出してやろう』


『殴られようが蹴られようが構わない。

そんなことするくらいなら一生ここで暮らすよ』


『よく言った。

剣を持て、相手をしてやろう』




指の一本さえ動かなくなるほどに、ライザに叩きのめされた。












昼間は畑に出ている時間が長い。


ライザのいない時間帯は平和そのものだ。












反省文。

毎日毎日同じようなことばかり書いている。


法律書。

毎日読んだところで、僕はやっていないのだから意味がない。





『ウォル、うちの隊のエルフたちが私に抗議してきたぞ』


『え』


『ウォルはあんなことする人間じゃない。

私たちエルフを尊敬しはするが侮辱はしない人間のはずだ、と』


『・・・』


『レイジィにミィルにニナ。

ウォルが本気で戦っても僧侶のミィルにさえ勝てないぞ』


『・・・』


『お前は三人の中で誰が好みなんだ?』


『誰でもない』




にやにやと探りを入れてくるライザにボロを出さないように必死だ。

心を読まれている気がする。











昼間は畑に出ている。


誰もいない。

何もない。

静かだ。




半年も過ぎると、僕が育ててきた作物も充分になってきた。


もう狩りに山に行くのも減らしていいだろう。












『ウォルがここに来てもう半年か。逃げ出さずによくやっているな』


『・・・』


『私はここに来るのは空間転移の魔法を使うからどうってことないが』


『隊のみんなは元気か?』


『くくく。人の心配より自分の身を案じるべきなのではないか』


『・・・』














それから数日後。


『ウォル、今日は隊のメンバーを連れてきたぞ』


『え』





『ウォル、ライザ様から話を全部聞いたよ。

お前には今の生活がお似合いだ』


『レイジィ・・・』


『あんたのこと信用していたんだけど、残念だよ』


『ニナ・・・』


『・・・最低の人間』


『ミィル・・・』




『ライザ、みんなに僕のことを何て言ったんだ』


『ライザ様を呼び捨てにするなんて』


『やっぱりだね』


『・・・救いようがない』



みんなの意見は今はどうでもいい。




『何を言ったかだと?

ありのまま伝えただけだ』


『く・・・』




僕を信用していたみんなの気持ちを裏切ってしまったのか。


ライザの手によってだけど。












そのあとは、訓練だということで四人にボコボコにされた。


女とはいえ、エルフ。



僕からは、攻撃をしたり反撃をしたりはしなかった。

意味がないと思ったからだ。



半殺しで済んだのは奇跡というしかないのだろうか。

国の軍隊に入隊して色々あったが、結局僕は大した力をつけられなかったことを実感した。





次の日、僕は畑仕事から何からサボった。


ライザに殺されかけても欠かさなかったことだったのに。




絶望だった。

人から信用されないというのが辛かった。



本当に一人なんだと痛感したとき、何もする気が起きなかった。













僕は小屋の近くにある森の中を歩いていた。


あてもなく。

方向や方角も気にせず。





少し疲れを感じたので、木の根本に座り込んだ。


見上げると、いくつもの木が枝を伸ばして、たくさんの緑があった。












『ねぇ、そこの人間』


『え?』


『こんなとこで何してんの?』



どこからともなく声が聞こえた。

周りを見ても誰もいなかった。




『あはは。私はここだよ』



僕の目の前に、フェアリーが現れた。


小さい。

僕の顔ほどの大きさもない人型の妖精だ。





『フェアリー?』


『そうだよ。見るのは初めて?』


『うん』


『どうせ、おとぎ話の登場人物にしか思ってなかったんでしょ』


『うん』


『す、素直な人間ね』




よく見ると可愛い顔をしていた。

小さくて羽根が生えてるエルフとでもいう感じだろうか。




『あら、ありがと』


『へ?』


『人間の心が読めちゃうんだよね』


『そうか』


『驚かないの?』


『前にいた軍隊の隊長がエルフだったから』


『そうなの』





僕の目の前を飛んでいたフェアリーは、疲れたと言って僕の肩に座り込んだ。




『で、あなたの名前は?』


『ウォルだよ』


『ふーん。アタシはチェインっていうんだ。よろしくね』


『よろしく、チェイン』











『で、ウォルは人里離れたこんなところで何をしてたの?』


『別に何も』


『・・・言いたくないなら心読むけど?』


『ご自由にどうぞ』





『・・・そっか。無実の罪を償っていたんだね』


『・・・』


『ライザのことは私も知ってる。有名人だからね』


『へぇ』


『とっても優秀なブラックエルフなんだよ。

お姉さんは女王様だしね』


『姉がいるんだ?』




知らなかった。

聞きもしないし、言われもしないし。


心を読む魔法は、そのとき考えていることを読むものだと思っていたが違うようだ。

すごく便利であり、怖い魔法だ。




『でもいくら相手が人間だとしても、無実の罪をきせるなんて。

何かあったのかなぁ』


『わからないよ』


『ウォルのこと好きなのかもね。もしかしたら初めての恋で暴走してるとか』


『まさか』




チェインは楽しそうに足をパタパタさせている。




『うーん。でもあまりこの辺は来ない方がいいよ』


『なんで?強い魔物でも出るのか』


『エルフの国の近くなんだよね。

もちろん一般人は入れないようになっているんだけど、周辺警備してるのとかいるから』


『なるほど』


『私も偵察していたんだけどね』





これ以上ここにいたら迷惑かな。


僕は立ち上がった。





『きゃっ、急に立ち上がらないでよ』


『ごめんね。僕がいつまでもここにいたら迷惑だろうから、帰ろうと思ったんだ』


『・・・あの小屋に?』


『帰る場所は、あそこしかないからね』


『・・・むむむ』




チェインは腕を組んで何かを考え始めた。


僕はチェインが何かを言うまで待っていた。





『ライザのお姉さんに事情を話して、エルフの国にかくまってもらおうよ』


『そんなこと』


『できるよ、きっと。ライザのお姉さん・・・レイザはとっても優しいんだよ』


『でも僕、人間だし。エルフの国に入ること自体できないんじゃない』


『アタシに任せておきなさい』



ドンと胸を叩いて咳込んだチェインは、小ささもあいなってかとても可愛らしかった。














チェインの後に続き、森を歩く。


ある地点で立ち止まり、チェインが魔法を唱えると体が軽くなる感触を覚えた。





『うわ』


『空間転移の魔法、初めてだったのね』


『うん、ってあれここはどこだ』


『エルフの国の入口だよ』



一瞬で移動は終わっていたようだ。




僕から離れ、チェインは門番のエルフと何かを話していた。


もめるのかなぁと思っていたが、案外すんなりと門を開けてくれた。












街を通り抜けて城に行くらしいが、やはりエルフの国だけあって、エルフしかいなかった。












『あなたがウォルさんですか』


『はい』


『楽にして構わないですよ』


『お気遣いありがとうございます』




レイザ女王との謁見はすぐだった。


女王は玉座に座り、片肘をついていた。


僕は少し離れた位置で片膝をついている。






『今チェインからざっとあらましを聞きました。我が妹がご迷惑をおかけして、申し訳ありません』


『いえ、そんな』


『人間の国ではエルフの意見は絶対だという風潮がありますね。

比べてしまうと、どうしても力の差が出てしまうから』


『・・・』


『妹が私利私欲のためにあなたを陥れたのは、姉としてとても悲しいことです』


『あの、なんで私のことを信用できるんですか。

私が嘘をついていたらどうするのですか』


『ふふふ。エルフの力を侮っていますね。

真実かどうかくらい、あなたの目を見ればわかることなんです』


『はぁ』




どこまでも見透かされているのだろう。


エルフと人間。

まともにぶつかったら人間に勝ち目はない。


人間がエルフと争いがないように、下手に出ているといっても過言ではない。




『いずれ妹がここを嗅ぎつけてくるでしょう。

それまでこの城でゆっくりなさい』


『・・・ありがとうございます』


『部屋を用意させましょう。

誰かウォルさんを案内してさしあげなさい』

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