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  作者: るーく
2/8

レイジィは男勝りな女剣士だ。


肌は白く、短めのブロンドの髪。

華奢な外見からは想像もできないパワーを持っている。


プライドや種族意識が高い。

黙って何もしなければ美人なのにな。











あ、ライザだ。


『今日も一人で打ち込みか、ウォル』


『相手がいませんからね』


『レイジィはどうした』


『レイジィは・・・』


『ふむ』




レイジーは訓練場の隅っこで体育座りして、いじけていた。


のの字を書いてどよんとしていた。




『ライザ様に叱られてしょげていますね。』


『叱ったつもりはないのだがな。

いずれまたいつもの状態に戻るだろう』


『そうですか』




穏やかな笑みを浮かべてそう話すライザは、とても美しかった。


同時に、同じエルフ同士通じるものがあるのか、と思ってしまう自分もいた。













普段の訓練とは別に、ライザの公務を手伝うことが多い僕は、ライザの執務室によく出入りをしていた。



『いつもすまないな、ウォル』


『ライザ様に迷惑がかからないように必死にやっています』


『迷惑などない。とても助かっている』




ライザはよくねぎらいの言葉を僕にかけてくる。





『ライザ様、この書類はいかが致しましょう』


『ん、どれだ』



ライザは僕が使っているデスクに寄ってきた。


僕の後ろから両肩に手を置き、目の前の書類を覗き込んだ。



『これか。全く上は何を考えているのだか・・・』



ライザ様からほのかに香る甘い髪の匂い。



『ライザ様』


『なんだ』


『スキンシップにしては刺激が強いのですが』


『お前はいつも私が体に触れると文句を言うな』


『文句ではないのですが』




執務室で二人きりになると、ライザはよく僕の体に触れてきた。


それも手を触れたり、肩に触れたりする程度だったが。



『自分からはライザ様には触れませんし』


『なぜだ』


『きっと、触れたら手を離したくなくなるからですよ』


『お前は世辞がうまいな』



そう言ってライザは、肩に回していた手を僕の首に巻きつけ、後ろから抱き付いてきた。


背中に伝わる胸の感触。


すぐ横まで近づいた綺麗な顔。


恥ずかしさで、体温上がる。




『耳が赤いぞウォル』


『申し訳ありません。平常心を保つことができません』


『フフ、顔まで赤いぞ。修業が足りないな』





『私から体に触れる男など、お前だけだぞ』


『ライザ様の肌に触れたい男なら何百人といるでしょうね』


『私の体に触れたのはお前だけだ』


『とても嬉しいことですね』



憧れでもある女性。

憧れていなくても、容姿だけなら目を引く女性。


それがライザ。




『私とお前は同期入隊じゃないか。

二人きりのときくらい名前を呼び捨てても構わないぞ』


『そんなことできるわけありません』


『私が隊長だからか?』


『憧れの存在だから、では理由になりませんか』


『ならないな』



ライザは後ろから僕の顔を覗き込んできた。


唇が触れ合いそうなほど距離は近い。




『私と対等でいてくれないか』


『え・・・』


『二人きりのときくらいいいじゃないか』


『・・・』


『気を許す相手が欲しいってことだ』




お互い少しでも動けば唇が触れ合う。


僕の目を見つめているライザは、とても真剣な瞳だった。




『対等でいるには近すぎる距離だと思うのですが』


『そんな赤い顔で言われても説得力がないな。

私と口付けを交わしたいと顔に書いてあるぞ』


『ライザ様と口付けを交わしたくない男なんて、この世にいませんよ』





『全く、お前は世辞しか言わないな』


『それだけ、ライザ様のことを評価しているんですよ』


『私が口付けをしてもいいか、と聞いたらどう答える?』


『・・・』


『断るか?』


『いいえ』


『口付けをしてもいいか?』


『・・・』


『はい、とは言わないんだな』


『言えません』




ここまで積極的なライザは初めてだった。

僕は動揺している心を必死に落ち着けて、言葉を選んでいた。





『私じゃ不満か?』


『そういうことではありません』


『では理由を言ってみろ』


『・・・』


『ウォル』


『今の自分のまま、ライザ様のお誘いに乗っても良いものか悩んでいます』


『わかった、今日のところは引いてやろう』


『申し訳ありません』


『だが、肩でも揉んでもらおうかな。

私の肌に触れるのに慣れさせないとな』


『深くは考えないようにします』


『お前はからかいがいがあるな』




ライザは僕から離れて自分の席に戻った。


そして、早く来い、と言わんばかりの視線を僕に送ってきた。





ライザは訓練のときに手を抜かない。



『はぁっ!!』


『ぐ・・・』


『ウォル、前にも言ったはずだ。隙が出来やすい分、それをカバーする動きが重要だと』


『はい・・・』


『もう一度だ』


『はい』





手加減をいっさいしない分、生傷は絶えない。


訓練が終わったあとは、いつも同じ隊の僧侶であるミィルに傷を治してもらっていた。




『ミィル、いつもありがとう』


『別に・・・これが仕事だから』




ミィルは口数が少なく、神秘的な印象を持つエルフだった。


体は小柄で眼鏡をかけている。

髪型は肩にかかる程度の蒼髪だ。




『ウォルはいつもライザ様にボコボコにされてるよねぇ』


ケタケタ笑いながら僕らを見ているのは、魔導師のエナだ。

黒のロングコートに赤いロングヘアー。

切れ長の目は少々きつい印象を与えるが、性格はどっちかといえばおちゃらけている方だ。



『僕が中々上達しないからね』


『そのうち殺されたりしちゃうんじゃないのぉ』


『エナ、言い過ぎ』


『・・・そうならないように頑張るよ』




ミィルとエナは、静と動というかウマが合うみたいでよく一緒にいる。

身長の差で表面的には凸凹だが。





『あたしらもライザ様と魔法訓練すると、足下にも及ばないからねぇ』


『・・・ライザ様、強い』


『そうなんだ。すごいね、ライザ様』




本当になんでもできる人なんだな。

みんなが憧れるのもしょうがないという感じだ。




『ウォルも魔法覚えてみる?

なんならあたしが手取り足取り教えるよぉ?』


『・・・エナ、下品』


『遠慮します。斧や大剣が好きだから』


『あらそぅ、残念ね』


『・・・回復魔法なら私が教えてあげる』


『ちょっとぉ、私に下品だって言ったばかりじゃないのぉ!』


『・・・スパルタ』


『あらぁ、激しいのねぇ』


『・・・』




治癒魔法はかけ終わっていたので、僕は音を立てないようにその場を去った。













『ウォル、何度言ったらわかるんだ!!』


『・・・ぐ、申し訳ありません』



今日も激しく怒られている僕。



『レイジィ、お前もだぞ!!』


『は、はい!!(なんで私までブツブツ)』



レイジィは僕のとばっちりを受けていた。

あとで謝っておこう。





『よし、今日はここまでだ。各自、後始末をしたあとにゆっくり休んでくれ。明日は訓練はないからな』


『『『はい』』』


『・・・・・・はい』



僕が返事に遅れた理由はボロボロで横たわっているからだ。




『あぁそれとウォルは、このあと私の執務室にくるように』


『・・・』


『わかったか(ギロリ)』


『・・・了解です』




そのままライザは立ち去っていった。




『アンタねぇ、アンタができないせいで私にまで被害がきたじゃない!』


『・・・ごめん・・・レイジィ・・・』


『あーもうミィル!治癒してあげなさい』


とレイジィがミィルを呼んだとき、


『ウォルには治癒魔法かけるんじゃないぞ!!』


とライザの叫び声が訓練場に響いた。












コン、コン


『ウォルです・・・』


『入れ』



壁に手を付きながら、体を引きずってライザの執務室まできた。




ガチャ


『し、失礼します』


『ウォル、あのソファーに横になれ』


『・・・え、は?』


『肩を貸してやる』




僕が入室したとき、ライザは扉の目の前にいた。


そして僕に肩を貸すと、ソファーまで連れて行ってくれた。





『体を楽にしろ』


『・・・はい』



ライザはソファの前に膝をついて、横たわった僕に治癒魔法をかけ始めた。



『・・・ライザ様』


『なんだ』


『ライザ様に治癒してもらわずともミィルが・・・』


『私に治癒されたくないと言うのか』


『そういうわけでは・・・』



ライザは自分で僕に治癒したかったのだろうか。



『・・・お前は、肌の白いエルフの方が好みか?』


『・・・ライザ様?』


『私がつけた傷だ。私が治癒してやるのが筋というものだ』


『・・・ライザ様の褐色の肌、僕は好きですよ』



僕は意識朦朧としている頭で言葉を出す。



『本当か?』


『・・・はい』


『そうか。ならば特別な治癒をしてやろう』



目に見えて機嫌がよくなったライザは、両手で行っていた治癒魔法を中断して、僕の顔に自分の顔を近づけてきた。



『人口呼吸みたいなものだ。意識しないでいいぞ』


『そ、それって』


『ん・・・』




ライザは僕に口付けをしてきた。

喋っている途中に口付けされたため、僕の口は開いたままだ。


口から魔力が全身に流れた。


すごい。

みるみるうちに体に力が戻ってくる。





『どうだ、あっという間に治癒できたろう』


『はい、でもなんていうか・・・』


『意識してしまったか』



しばらくして唇を離したライザは、僕をからかって笑った。



『するなと言う方が無理ですよ』


『ふふふ』












ライザによって全快した僕に待っていたのは、公務だった。


例によってライザの仕事を手伝った。




『ウォル、それが終わり次第上がっていいぞ』


『わかりました』


『どうだ、今夜は一緒に食事でも』


『恐れ多くて自分にはお相手が務まりません』





食事に誘われたのは初めてかもしれなかった。


なんていうか、今日のライザは積極的だな。





『なぜだ』


『自分はライザ様より背が低いですし、顔も』


『表面的に釣合いがとれていないと、私は男と食事に行ってはいけないのか?』


『そういうことでは・・・』


『じゃあどんな意味なのだ、言ってみろ!!』




デスクを両手で強く叩きライザは立ち上がった。


赤いルビーのような瞳は僕を貫きそうだ。




『ウォル、お前わざとやっているなら私は怒るぞ』





『・・・自分で構わないのなら、お食事にお供させてもらいます』


『始めからそう言えば良いものを・・・』




ライザはそう言ったあとに、着替えてくると言って自分の部屋に入っていった。


ライザの執務室の奥にあるドアの向こうは、私室になっているのだ。












『待たせたな』


『ライザ様』


『どうだこのドレスは』


『お美し過ぎて声が出ません』


『それは本心か?』


『はい』


『ふふ、その顔を見ればわかることか』




黒のノースリーブのドレスに身を包んだライザは、とても美しかった。


あまりごってりとしているものではなく、普段着るにも申し分ないものだった。


どこぞの貴族か王家の令嬢にしか僕には見えなかった。





『では行こうか。良い店を知っている・・・というか予約をしていたんだがな』


『はい』


『女のエスコートの仕方を叩き込んでやろう』


『お手数かけます』


『まず、私がリラックスするために上司と部下という関係はやめろ』


『は?』

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