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  作者: るーく
1/8

戦士という職業は人気がないらしい。


剣士と違うのは、盾を持たないために大剣や斧を使うところだ。



簡単に言えば。

攻撃速度は遅いが一発は重い。

盾がない分受けるダメージが大きい。



大剣や斧はハンパじゃない重さなので、扱うのも難しい。












なぜだろう。

この傭兵団には戦士隊がないらしい。


おかしいな。

ちゃんと自分が戦士であることを伝えたはずなんだけど。











僕は今年、士官学校を卒業して、ある国の傭兵団に入団した18歳の戦士だ。


名前は、ウォル。


所属している隊はまだない。











戦士隊が僕一人でも、やるしかないんだ。




結局、戦士隊は僕一人で構成された。


普段の訓練は剣士隊と行う。

指導する教官も剣士ということだ。


これじゃ、自分でよく考えていかないと戦士として上達することができないだろう。












一ヶ月が過ぎた。


剣士隊との訓練はつつがなく行われていた。


だが戦士相手だと勝手が違うと言う奴がいて、打ち合いなどの訓練の相手が見つからないときもあった。



そんなときは素振りや藁人形に向かって打ち込みなどをしていた。













訓練場のどこかから歓声があがる。


またあいつか。


魔法剣士隊に所属しているブラックエルフの女。


同期入隊なんだが、圧倒的に力が違うらしい。


エルフと人間を比べるのが間違っているんだけどな。



とにかくエルフは人間の何倍もの能力を持ち、魔力も比べものにならないほど持っている。



『私と互角に戦えるものはいないのか!!』


あの女が叫んでいる。

周りの魔法剣士たちからは、誰も挑戦するものはいないらしい。



いずれあの女はトントン拍子に出世して、隊長や騎士になるのも時間の問題だな。




まぁいい。

僕は僕のやるべきことをやらなければ。


今日は打ち込みの相手が見つからなかったので、相手は藁人形だ。












『そこのお前、戦士か?』


あの女がいつの間にか僕の背後にいて、声をかけてきた。


打ち込みに集中していて気付かなかった。



『そうだけど、何か?』


『戦士隊は一人しかいないらしいじゃないか』


『うん』


『私の所属する魔法剣士隊では、もう相手がいなくなってしまった。

よかったら手合わせしてもらえないか?』


『・・・』



まさかこんな展開になるとは思ってなかった。


実際、この女は手加減というものをせず、相手が動かなくなるまで叩きのめすらしい。





『僕も相手がいなくて困っていたんだ。お願いできるかな』


『そうか、それは好都合だな。戦士を相手にしたことがないので良い経験になりそうだ』



僕はそれほど強いわけではない。

この女が相手が見つからないのとは理由が違う。


まず秒殺だろう。












『それではいくぞ。魔法は使わないので安心しろ』


『うん』


『私の名前は知っていると思うが、ライザだ』


『同期で有名人だから知らないわけがない』


『そうか』



僕の名前を聞いてこないってことは、興味がないのか、既に僕の力量を把握しているためか。


まぁいい。

僕は戦士であり続けられれば、勝ち負けや名声など興味ない。


戦士が好きなんだ。













ライザの攻撃は凄まじかった。


まず動きが見えない。

今日は斧を使っている僕には、攻撃を寸前で受け止めるのが精一杯だ。




『どうした?受けているだけじゃ意味がないぞ』


挑発と余裕の笑みは無視することにした。




戦士の心得。

一発を当てるために我慢して隙を狙え。





僕が繰り出す攻撃は盾にはじかれた。


斧の重量を考えると、人間じゃ片手で受けられないため避けるはずなのだが。


さすがはエルフ族の中で最も強いブラックエルフだ。




斧を繰り出すのも、また構えるのにも時間がかかる。


そこを狙われてダメージが増える。




隙を狙うっていったって隙がないんだからしょうがない。




僕は割り切った。


もう負けだ。













ただ打ち込み続けた僕は当然モロにライザの攻撃を受け、じきに倒れた。


いつの間にか集まっていたギャラリーからは、やっぱりかというため息が聞こえた。





『ふむ。戦士という性質がよくわかった。ありがとう』


『・・・どう、いたしまして』


僕は倒れたままそう答えた。

体中の痛みやらなんやらで、意識を保っているのがやっとだ。



『一人だけの戦士、か。お前、名前はなんという?』


『僕は・・・あんたに名前を聞かれるほどの人間じゃないよ・・・』


『答えたくないならしょうがないな』




そのままライザは僕に背を向けて訓練場を出ていった。


他の隊のファンの女からタオルやら食い物やら受け取っている。



くそう。

何か悔しかった。


今まで、勝ち負けにこだわったことがなかった僕だ。


斧を振れればいい。

大剣を振れればいい。

ずっと戦士でいられればそれでいい。




だけど。

今日のライザとの一戦は何か引っ掛かる。


圧倒的強さ。

そこからくる自信。












もっと強くなりたい。


地面に横たわり、まだ動かない体のまま、僕はそう思った。





強くなるためにはどうしたら良いか。


それだけを考え、僕は必死に努力を続けた。












一年が過ぎた。


あの女、ライザは隊長の座を手に入れ、自分独自の隊を編成するまでの地位になっていた。












僕に辞令書が届いた。


ライザが指揮する隊への異動が書いてあった。












僕は直接、ライザの執務室まで会いに行った。

断るためだ。


だがライザからの返答は


『だめだ。これはもう正式に決まっている』


『自分は、ライザ様の意に添えるような人間じゃありません』


同期とはいえ、今はもうライザは上司だ。

言葉遣いも敬語を使わなくてはならない。



『それは私が決めることだ。お前は私の隊に必要な人間だ』


『入隊を拒否します』


『なぜそこまで、かたくなに拒否をするんだ?』


『・・・』




ほかに理由はある。

さっきのなんて取り繕っただけだ。





『何かあるのだろう。魔法でお前の心を読みたくはない。言ってみろ』


『自分は去年、ライザ様と手合わせをするまで、勝ち負けにこだわりませんでした』



正直に言えば、わかってくれるだろうか。



『ライザ様に打ち負かされて以来、自分は勝つために強くなる努力を一人でしてきました。

目標であるライザ様の下に入ることはできません』


『私に剣術を教わりたくないと言いたいのか?』



ライザは長い銀髪をかきあげ、赤い瞳を細めた。

その姿はとても美しく目を奪われた。




『そうです』


『なるほどな』




ライザは僕の側まで歩いてきた。


僕より身長が高い。

僕の顔はライザの喉元あたりだ。





『去年、お前と手合わせをしたときは、覇気のない弱い人間だと私は思った』


『・・・』


『だがあの後から、お前は人が変わったように貪欲に訓練をしていた。私はその姿をよく見ていたよ』


『・・・』


『一人だけの戦士隊で、指導者もなくお前はよくやっていた。

今回、私が隊を作るにあたって、お前を入隊させ力になってやりたかったのが本音だ』


『・・・』


『強くなりたいと願うお前のために、私は力になりたいんだ』





『何かあるのだろう。魔法でお前の心を読みたくはない。言ってみろ』


『自分は去年、ライザ様と手合わせをするまで、勝ち負けにこだわりませんでした』



正直に言えば、わかってくれるだろうか。



『ライザ様に打ち負かされて以来、自分は勝つために強くなる努力を一人でしてきました。

目標であるライザ様の下に入ることはできません』


『私に剣術を教わりたくないと言いたいのか?』



ライザは長い銀髪をかきあげ、赤い瞳を細めた。

その姿はとても美しく目を奪われた。




『そうです』


『なるほどな』




ライザは僕の側まで歩いてきた。


僕より身長が高い。

僕の顔はライザの喉元あたりだ。





『去年、お前と手合わせをしたときは、覇気のない弱い人間だと私は思った』


『・・・』


『だがあの後から、お前は人が変わったように貪欲に訓練をしていた。私はその姿をよく見ていたよ』


『・・・』


『一人だけの戦士隊で、指導者もなくお前はよくやっていた。

今回、私が隊を作るにあたって、お前を入隊させ力になってやりたかったのが本音だ』


『・・・』


『強くなりたいと願うお前のために、私は力になりたいんだ』





『おいウォル、ライザ様に贔屓されているからって調子に乗ってんじゃねぇぞ』



訓練後、剣士のエルフから人目のつかない場所に呼び出された。




『贔屓されていないし、調子に乗ってもいないよ』


『ライザ様はこの人間の男のどこがいいのだろうか。

戦士なんて職業をやっている、しかも人間に何を期待しているんだか』


『・・・』



戦士は弱い。

そして辛い。


戦士になる人間が少ないのはそのせいだ。




『ウォル、こんなところで何をしている』


『ラ、ライザ様』


『レイジィ、ウォルに対して文句があるなら今度から私に言え』


『は、はい!』


『ウォル』


『なんですか、ライザ様』


『誰に何を言われようとも、種族や職で何を言われようと、揺るがない自分を作り上げろ』


『はい』





レイジィと呼ばれたエルフ剣士は、ふてくされながらもライザと一緒に去っていった。



ライザがここに来ていなかったら。

僕が隊をやめると言うまで叩きのめされていたんだろうな。




エルフに勝てるように、僕はもっと力をつけなければいけない。

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