生徒会長の先輩
祝!初めての恋愛小説でっす!
恋とかしたことないんで、色んな文章読んで得た知識から恋したらこんな感じかなーというふうに書いたので、こんなの恋じゃねえ!!!という部分もあるかと思います、気をつけて?ください?
ちなみに少年、ものすごいシャイ設定です。
祝恋愛小説うううーとか言っといて大変恐縮ではありますが、メインは少年の独白(全く喋りません!)になりますのでご注意ください。
見上げたステージの上には、いつもその人がいた。
僕が初めてその人を見たのは、生徒会の選挙が間近に迫った、秋のある日の集会。
その集会は、生徒会に立候補する生徒が演説するために、授業時間を削って作られた場だった。
半分以上の生徒が、この時間をつかの間の休息時間として活用している中、僕も例に漏れず頭を垂れていた。
目を閉じて半分眠りかけていた時に、突如聞こえた女の子の声。
「私は、この学校を過ごしやすいところにしたい。一生に一度しかないこの学校での生活を、もっと良いものにしていきたい。そのために、まずはこの学校の生徒一人一人が何気なく意見を言えて、誰もがその意見を認め合える。そんな暖かな雰囲気を作りたいんです」
芯のある、はっきりとした声で、語りかけるように。
普段全く使わないはずの目を開き、目だけ動かして壇上を見る。
なんだか見なきゃいけないような気がしたから。
「どうぞ、よろしくお願いします。以上です」
演説を終えるとまっすぐ前を見据え、一歩下がって礼をし、ステージ脇に控えてある椅子に着席する。
たったそれだけの動作なのに、……美しかった。
眠気が吹っ飛んで見とれてしまうほどに。
真っ直ぐ前を見据えた瞳に、どうしようもなく惹かれた。
目が、離せない。一瞬でさえ。
「ありがとうございました。生徒会会長候補の、白石 彩花さんでしたー!」
白石、彩花。口の中で何度も反芻する。
それが、その人の、名前だった。
無事選挙が終わり、晴れて生徒会長になった白石さんは。
初めて会長としてステージに上ったとき、少しだけはにかんだ。
「これからこの学校をより良くしていけるんだと思うと、本当に嬉しいです。皆さん、ありがとうございます」
一礼し、去っていく後ろ姿。それを、いつまでも見つめていた。
長い髪が歩く度に揺れ、サラサラと靡いていた。
これは憧れなのか、恋なのか。
二回目の時も、白石さんははにかみながら話した。
今時のアイドルのような大きい目ではない細目の目は、その日もなにかを見据えていた。
どちらの感情なのか。分からない。
次の選挙が終わり、白石さんが話す最後の集会で。白石さんは、いつものようにはにかんだ。
「この一年間、精一杯力を尽くしました。目に見えるように、とはいかなかったけれど、少しでもこの学校が楽しくなったなと思っていただければ幸いです。今まで、どうもありがとうございました」
一礼し、前を見据える。
その動作は、最後まで変わらないままだった。
そして、その年の卒業式で。
三年だった白石さんは、笑顔で卒業していった。
凛としたその姿を見送ったとき、何故か視界がぼやけた。
慌てて目を擦れば、手に付いた透明な液体。
それを見つめながら、ふと思った。
――ああ、これって恋だったのかな
一個上の、生徒会長だった先輩。
いつも何かを見据えていた、人に。
恋して、いたのかな。
そして、唐突に気づく。
あの瞳を、僕は。
――もう、二度と見ることができないんだ
式が終わって、校舎の影に隠れる。
その瞬間、初めての恋が去ってしまった寂しさと、もう会えない悲しみが勝手に涙となって溢れた。
目を閉じ、歯をきつく食い縛る。
涙はぬぐわれないまま下へ下へと落ちていき、地面に黒い染みを作った。
少しだけ漏れる嗚咽は、闇に飲み込まれて消える。
「ありがとうございました、先輩。本当に、ありがとうございました」
小さい声で何度も呟いた。
先輩に宛てて、心から。
恋、という感情。
惹かれる、という言葉の本当の意味。
強い意志、というものが放つ光。
全部、全部先輩がいたから、理解できた。
言葉でなくても、教えてくださった。
振り返ってみれば。
先輩をずっと見ていたこの一年は、とても充実していた。
見ていただけで、幸せだった。
他のことをあまり記憶していないほど。
睡眠時間と化していた集会が、先輩を見るための時間になって。
とにかく待ち遠しくて待ち遠しくて、仕方がなかった。
『私は、この学校を過ごしやすいところにしたい。一生に一度しかないこの学校での生活を、もっと良いものにしていきたい。そのために、まずはこの学校の生徒一人一人が何気なく意見を言えて、誰もがその意見を認め合える。そんな暖かな雰囲気を作りたいんです』
最初に声を聞いたときに、起こった謎の胸騒ぎ。
それがなければ、得られなかった日常。
先輩がいてくださったお陰で、僕の日常は変われた。
つまらなかったものが、一気に楽しくなった。
だから、これだけは言える。
先輩、僕の学校生活は。
――あなたのお陰で楽しくなりました――
僕が積極的な少年だったなら、あの時先輩を追いかけていけただろうか。
何かを目指して躊躇うことなく進んでいた、先輩のように。
しかし、僕は消極的で、暗い人間だった。
いつも教室の隅で静かにしているような少年だった。
でも、だからこそ、先輩の声や姿に惹かれたのかもしれない。
人は自分には無いものを求める。
その言葉通りに、あの凛とした輝きを。
お読みいただき、ありがとうございましたm(__)m