後編
謀反だなんて知るはずもない、
その場は難を逃れたけれど、
毎日同じに聞かれるうちに
自分の首が怪しくなった。
仕方なかったと床屋は言ったよ。
耳のことなんて知りもしない、
口の軽い客だけを選んで
王様の耳はロバの耳だと
秘密めかして打ち明けたとね。
もちろんそいつの首は飛んだが、
床屋の首は飛ばずに済んだ。
ところが今度は不思議なことに
誰でも知っている噂話を
口にするものが無くなった。
挙げる名前を無くした床屋は
日毎の尋問に恐れをなして
命からがら逃げて来たんだ。
妙な話もあったものさ、
昔話じゃあるまいし、
王様の耳がロバの耳で
噂をすれば首が飛ぶなんて
まったく馬鹿げた話だよ。
気の毒なことに床屋はきっと
慣れない暮らしに心を病んで
おかしくなったと思ったね。
そのうち床屋は何も言わずに
店から姿を消したのさ。
それがこの前、断頭台で
首を切られたって話じゃないか。
なんでもハサミの手元が狂って
王様の耳を切った罪でね。
何だかみんな夢みたいだよ、
あたしは処刑を見てないからね、
あの床屋が死んだなんて、
まだ嘘みたいな気がするよ。
しばらくすると
まるで冬が終わったように
厳しい暮らしもゆとりができて
あたしは今もここにいるんだ。
昔の仲間は相も変わらず
顔を見せてくれるのだけれど
噂話の飛び交う中に
やっぱり床屋はいないのさ。
ときどき考えちゃうんだよ、
床屋の言ったのが本当で、
王様の耳はロバの耳だったら
一体どうしたことだろうって。
でも何だか恐ろしくって、
まだ誰にも言えずにいるよ。
お天道さまとお月さまが、
まいにち昇って沈んでりゃあ、
あたしらそれでいい訳だからね。