中編
何だかうまく飲み込めない、
嘘みたいな話だけれど、
みんなじきに慣れちまって、
そんな床屋のことなんか
気にも留めなくなったのさ。
お天道さまとお月さまが、
まいにち昇って沈んでりゃあ、
あたしらそれでいい訳だからね。
それから恐慌がやって来た。
あたしでも知っているような
大物貴族や大臣たちが、
あの広場で何十人も
首を切られて死んでいったよ。
でもそんな些細なことは
厳しい暮らしに紛れちまって
そのうちみんな誰が死のうと
気にすることもなくなった。
商売なんてあがったりだよ、
店も客もしけたもんでさ、
なけなしの金をいただこうが
スープも酒も水っぽくって
腹の足しにもなりゃしない。
あたしは店をたたんじまって、
田舎に引っ越む考えだった。
かんこ鳥鳴くあたしの店に
青い顔したあの床屋が
転がり込んできたのはそんな時だよ。
涙ながらに床屋は言ったよ、
口が堅いのが取り得であるし、
黙って仕事をしてさえいれば、
心配いらないはずだったとね。
でもお歴々の髪を刈れば
噂は嫌でも耳に入った。
その度ごとに王様に
報告は欠かさなかったけれど
何事もなく時間は過ぎた。
そしてある日、
床屋が前に名を挙げた
大臣の首が飛んだんだ。
何か悪事をしたんだろうと
初めは軽く考えたのさ。
でもそれから次々と、
床屋の客の首が飛び、
しかもそれがひんぱんに
日を空けなくなって来た。
さすがに床屋も怖かったんだろ、
しばらく報告を控えたそうだ。
そうしたらある日、
床屋にクシを入れられながら、
王様がこう言ったんだとさ。
「最近どうも宮中に
謀反の兆しがあるというのに
誰かが私をとやかく言うのを
近ごろとんと聞いていない。
お前は何か隠してないか」