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2・案外、咲のこともチョロいと思っている。

 そして、クリスマスパーティー当日がやってきた。


 ここは九条家の大食堂。長方形の大きなテーブルに集うのは舞香お嬢様のご友人方だ。その数、なんと総勢二十一名。お嬢様がこれだけの人数集まると、とても華やかだ。


 ご友人方は皆、年相応に幼い顔立ちをしている。しかし、いくらか差はあるとはいえ一人残らず気品に満ちていた。さすがは名家のお嬢様方である。

 それだけに、今日はお客様に粗相のないようにしなければ。咲にも十分注意をしておかないといけないわね。


「咲。今日だけは、いつものようなくだけた口調は慎みなさい……咲?」


 私の隣に立っている咲のまつ毛が震えていた。その目には緊張の色が見える。

 へぇ。さすがの咲も、これだけの名家のお嬢様方を迎えることになり、多少は硬くなっているようね――


「メイド長。舞香お嬢様って性格悪いのに、こんなにもご友人がいらしたんですね」

「あなた全然緊張してないじゃない!」


 しかも日常会話のノリで舞香お嬢様をさり気なくディスってるし。


「え? 緊張なんてしませんよ」

「でしょうね。あなた、図太いものね……」

「違います。そうじゃなくて」

「何よ?」

「もしあたしが粗相をしても、メイド長がフォローしてくれるから安心だなぁって」

「なっ――」


 咲はその名前のごとく、大輪の笑顔を咲かせてみせた。

 顔が火を噴いたように熱くなる。


 ずるい。不意打ちだわ。

 あなたはいつもそう。急に可愛い仕草を見せて、とても嬉しいことを言ってくれる。

 そんなこと言われたら……私はますますあなたのことを――


「メイド長がいると、あたしも好き放題できますからねー。これで舞香お嬢様を愛でられる! ミスや面倒なことは全部メイド長がやってくれるはず!」

「それ便利屋扱いじゃない!」


 危なかった。勘違いしてますます恋に落ちるところだった、私。


「やだなぁ。頼りにしてるってことですよぅ」

「ふん。私はそんなに都合のいい女じゃありません!」

「それは意味が違うような気がしますけど……」

「そんなことよりも咲。今日のパーティー、段取りは大丈夫なんでしょうね?」


 語気を強めて問いただすも、咲は得意気にうなずいた。


「はい。ばっちりです」

「進行は?」

「今のお食事が終わる頃にレクリエーションを行いたいと思います」

「レクリエーションをするとは聞いていましたが……何をするのです?」

「一般市民のパーティーゲームです。それを三つ用意しております」


 それはいい考えかもしれない。

 お嬢様方にとっては、一般市民のパーティーなんて知る由もないだろう。未知の遊びに興味を持ってくださるだろうし、一般市民の文化を知るいい機会にもなる。

 なるほど。やはり咲は優秀だ。ああ見えて、ちゃんと考えて行動している。


 ……逆に普段の家事全般は手を抜いているのだというのが、よくわかったけれど。


「いい企画だと思います。ただ、その一般市民のパーティーゲームとやらに危険はないでしょうね?」

「……………………大丈夫です!」

「何よその間は! 本当に大丈夫なんでしょうね!?」

「あーはいはい。では、レクの内容を説明しますね」

「適当にあしらわれた!? あなたって人は……ふん、まぁいいわ。で、内容とは?」

「みんなにはナイショですよ?」


 そう言って、咲は私に近づいた。耳元に手を添えて、レクの内容を小声でささやく。甘く熱っぽい吐息が妙にくすぐったい。無防備すぎるこの子を抱きしめたいという衝動をぐっと抑えこみ、必死にレクの内容を頭に叩きこんだ。


「――という感じのレクなんですけど……メイド長? 顔赤くないですか?」

「だ、大丈夫よ。それよりも、質問があるのだけど」

「なんですか?」

「三つめのプレゼント交換というレクがあるじゃない? お嬢様方はプレゼントをご持参ということかしら?」

「はい。詳細はお伝えしていませんが、ご友人の誰かにプレゼントをお渡しすることになる旨は招待状に書かせていただきました」


 なるほど。では三つのレクの準備はすでにできているというわけか。


「わかりました。あなたに任せますので、この場を仕切ってください。くれぐれも粗相のないように」

「わかってますって。あたし、お手洗いに行ってきますね。戻ってきたらレクを始めましょう」

「お願いするわ」


 返事をすると、咲は食堂から出ていった。

 ……よし、行ったわね。

 すでにレクの内容は頭に入っている。咲がいないこの時間に、クリスマスパーティーを失敗させる作戦の準備をしましょう。


 提案した企画が失敗し、お嬢様に叱られて落ちこむ咲。そんな彼女に私が救いの手を差し伸べる。そして咲は「メイド長……優しいんですね。励ましてくれてありがとうございます。お礼にちゅーさせてください。ぺろぺろ」と私の唇を求めてくるはず!

 咲、チョロい! もはやライトノベルとかいう娯楽小説に登場するチョロイン以下ッ!


 この作戦……名付けて『MI(ミッチョロインポッシブル)』! 作戦の難易度的にはポッシブルですけどね!


「では、準備を始めましょうか」


 ふふふ……私はメイド長。咲がお手洗いに行く程度の時間があれば、レクを台無しにする工作をすることなど造作もなきこと!

 メイドとしてあるまじき行為なのはわかっている。もしも私のやっていることがバレたら、即クビだろう。


 それでも私は実行する。

 あの子が――咲が、好きだから。


 舞香お嬢様。申し訳ございません。私のご無礼をどうかお許しくださいませ。

 ――奈月、ファイト! メイド生命を賭けるのだから、全力で挑むのよ!


 内心で自分にエールを送りつつ、私は『MI』の準備を進めた。




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