No.01 Girl Friend...?(1)
「戯言は良いのでさっさと要件だけを述べてくれませんか」
目の前に立っているのは学校内でも有名な女子、名前は如月という。
学年は僕と同じ二年生である。
何故有名なのかといえば、まず容姿が目を引くほど綺麗ということが挙げられる。男女問わず、校内で綺麗な人とは誰かと問われれば、まず如月の名前が出てくるはずだ。内的な部分でも概ね評価がよく、大人しくて気品あふれるお嬢様という噂だ。
しかし、外見ならともかく内面の部分は単なる噂に過ぎないと、数分前の僕は気づくべきだった。噂なんていうものは尾ヒレがつくものだが、まさか此処まで変わるとは思いもしなかった。
外面も内面も理想的な人間なんて居ない。
出っ張っている部分があれば引っ込んでいる部分がある。
そんな単純な人間の真理に気づいているべきだった。
とはいえ、時すでに遅し、僕は一歩も引けない場所にまで来てしまった。頭の中が段々と冷えていき真っ白になっていく。人生において勝負となる時は指で数える程しかないだろうが、その内の一つは間違いなく今の状況である。今やらなければ悔やんでも悔やみきれない。
さぁ、伝えるべき言葉を言わなくては。
手を強く握りしめて閉じようとする口をこじあける。肺から空気をゆっくりと吐き出し、上ずりそうになっている声を強引に抑制する。
「き、如月さん、実は、その……」
***
遡ること数十分前。
僕は帰宅するために廊下を歩いていた。僕と同じように帰宅する者や部活へと向かう生徒でごった返している。その中を縫うように歩いていると、正面からひょっこりと親友が現れた。
「おい、ヒナタ。一緒に帰ろうぜ」
彼はカナタと言い小学生からの親友である。自宅が隣ということもあり親ぐるみでの付き合いだ。お互いのことはよく知っており、気を許せる数少ない人物。
同時に隠し事ができない仲でもある…お互いを知り過ぎな程知っているので、嘘や誤魔化しは意味を成さない。
例えばカナタの場合、嘘をつくと必ず右手で左の腕を掴むのだ。それで幾つもの嘘を暴いてきた。僕自身にも何かしらの合図があるらしいが、それを教えてくれたことはない。
そのようなわけで、お互い心から信頼しあえる仲になっている。
「いいよ、今日は何処かに寄ってから帰る?」
「その前に一度職員室に呼び出されているんだよ。そっちに行ってからで良いか?」
「わかった」
職員室に呼び出しとは珍しい。何かやらかしたのだろうか。
「別に変なことはやってねぇよ。進路の話」
「ああ、なるほど」
カナタは進路において何やら迷っているらしかった。僕は昔から成りたい職業が決まっていたので、比較的スムーズに進路は決まった。そのことについてよく羨ましいと言われたものだ。
ざわついた廊下から階段へ移動し職員室へと向かう。
「失礼します」
カナタが職員室の中へと入っていった。僕は廊下で暫し待つ。
しかし、程なくして扉から出てきた。
「あれ、どうしたの?」
「先生が居なかったんだよ…呼び出しておいて居ないとか論外だろ」
若干イライラしているらしく、視線が穏やかではない。
「このまま帰る?」
「いや、それはそれでマズイ。此処で待つよ」
「りょーかい」
取り敢えず、職員室の前で時間を潰さなければならなくなった。持っていた鞄を廊下に下ろし、壁にもたれかかる。
「ヒナタ、お前って好きな人いるのか?」
「これまたいきなりだね」
突然の問いかけに暫し考える。
「うーん、最近は考えたことないや」
「お前高校生としてそれはどうなんだ…」
「どうなんだって言われても、カナタこそどうなんだよ」
「俺も居ないが考えたことはあるぞ。ヒナタは好きなタイプとか居ないのかよ」
「居ないよ」
「即答かよ…」
そもそも僕の場合は好きな人というのは、感覚的でしかなく言葉にすることができない。今まで好きになった人には共通点が存在するが、それを言語化できないのだ。
「俺は普段はしっかりしていて、一緒の時だけ甘えの一面を見せてくれるのが良いな」
「カナタらしいというか何というか…でもそんな人うちの高校にはいないよね」
「ああ、居ない」
「よさそうな女子は既に彼氏いるし。早い者勝ちだから仕方ないよね」
「で、ヒナタは本当に好きなタイプは居ないのかよ」
「うーん、昔も言ったような気がするけど感覚なんだよ。だから言葉にしろって言われてもなぁ」
「それじゃあそこにいる如月とかどうよ」
そう言ってカナタの指差した方向には、一人の女子生徒が立っていた。ある先生と話をしており、カナタによって指を刺されていることには気づいていない。
「そういえば如月さんって綺麗だけど、彼氏がいるって噂は聞かないよね」
「だな、何かしら理由があるんだろ。で、ヒナタどうなんだよ」
「外見も良い好みではあるけれど、好きってわけでもないしなぁ」
「試しには自分から知ろうといてみろよ。意外とピッタリかもしれないぞ」
「でもなー…」
好きでもない人を知ろうとするのは何だか恥ずかしいものがある。しかし、カナタの言うとり知らなければ好きになれないということもあるだろう。
そうはいってもだ、僕自身…
「別に彼女が欲しいわけでもないんだよね」
「………」
訝しげな視線を親友から差し向けられる。
「お前、本当に高校生かよ」
「い、一応高校生だよ」
よく周りでは彼女が欲しいという声を聴く。しかし、僕にはその気持ちがよくわからない。そりゃ恋人が居れば日常生活は格段に面白くなり豊かになるかもしれない。学生生活における醍醐味の一つと言っても過言ではないだろう。
それでも、僕は別に彼女が欲しいとは思わない。どちらかといえば、好みに合う人が居れば彼女にしたいと思うタイプで、そうでなければ欲しいとは思わないのだ。
「何か綺麗事に聞こえるが…嘘はついていないみたいだから本心なのか」
「こんなことで嘘をついてどうするんだよ。それじゃカナタは何で彼女が欲しんだよ」
「そんなのに理由はないっつの…多分」
といいながら右手で左の腕を掴んだ。どうやら、僕には言えない理由があるらしい。
こうなってくると、どうしても聞き出したくなるのが人としての性ではないだろうか。
「で、本当の所どんな理由で彼女作りたいの?教えてよ」