過去の夢に生きる人
“奴隷”“貴族”“闇市”
金さえあればなんでも揃うくそったれな世の中で
世界を呪ってる俺は、世界に絶望している君に出逢った
「………新しい方ですか?」
新しく入った貴族の屋敷
一応主人に目通しをされた後、俺の仕事場である炊事場に連れていかれる途中
澄んだ声が響いた
「あぁ、はい、お嬢様。新しく入った奴隷のスタンスです。こちらはお嬢様のリンカスティ様だ」
“粗相の無いようにな”なんて執事に耳打ちをされながら庭先で紅茶を飲む彼女の前に押し出される
わかってるつーの
内心で苛立ちをながらも、表向きはにっこりと腐った社会の頂点の一人のオジョーサマに頭を下げた
「肉体派奴隷のスタンス、22です。これから宜しくお願いします」
「私はリンカスティです。これからお世話になります」
にこにこにこ
まるで木漏れ日のような、なんの不満も無く生きてきた象徴のような笑みを浮かべたオジョーサマは
………俺に手を差し出した
その手を見つめ戸惑う
貴族は玩具タイプの奴隷以外は汚いから側に寄せない輩が多い
今までたくさんの貴族を見てきたが、こんな風にまるで『人』に対するような扱いをする貴族は初めて見た
握手をしても良いのかわからない。握手をした途端『触らないで下さい。汚らわしい』とでも馬鹿にするのが目的なんだろうか
「お嬢様!!奴隷に気安く触れるのはおよしくださいとあれほど申し上げたでしょう!!」
「ジジは黙っていて?私は今スタンスとご挨拶をしているの。宜しくお願いします」
明らかに執事の人は怒っていたが
権力的にはオジョーサマのが余裕で勝っているから
俺は、おずおずと手荒れひとつ無いすべらかな手を握った
…………瞬間、ふわりと華開くように彼女が笑った。俺は、その笑顔から目がそらせなかった─────