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第十五話 ギルドの仕事(1)

今回短いですが、内容は次回にも続くので続きものにしたいと思います。

「よお。また会ったな。俺の宣言通り」

 開口一番、何が面白いのかニヤニヤと笑いつつそんな口をきく男。

 もしかしたら普段からテンションが高いフェルレノと似ているのかもしれない、と俺はそれを聞きつつ思った。

「えらく不景気な顔してるが……何かあったのか?」

 燃えるような赤い髪を持つ青年、赤獅ウェルザが俺の顔を見て早々にそんなことを言う。そこまで分かりやすい顔をしているのか、俺は。


 俺は結局、戦士ギルドに来ていた。屋敷の中の物を売り飛ばす手もあったが、そんな先のない手段はこの非凡たる俺に相応しくない。

 今は午後三時ごろ。俺の空腹もかなり機嫌がいい。けっこう辛い。

 早く金が欲しい。そして飯。

 異世界だろうが何だろうが、ギルド(職業組合)なのだから、一つくらい仕事だってあるだろう。それ目当てだ。

 戦士ギルドの中では、テーブルに何人かが集まって静かに話をしている。

 そして、今日もウェルザは奥のテーブルで一人で飲んでいた。もしかして朝っぱらからずっとここにいるのだろうか。まさかとは思うが、ここに住んでるんじゃないだろうな?

 それは置いておいて、今は話が優先だ。少し事情を話すのに躊躇するも腹をくくった。

「……金がないんだ」

「は?」

「昨日、すべてどこかに落としたみたいだ」

「っぶ?!」

 リーゼに話したものと同じ説明をする。だが、フェルレノの踊り云々は秘密にする。いずれウェルザの耳にも入るかもしれないが、バラす必要はあるまい。

 案の定、ウェルザはテーブルを叩いて遠慮なく笑う。ゲラゲラと耳障りな笑い声だ。くそ、腹が立つ。

 ……っていうか悔しすぎる。

 今に見てろよ、と俺は見返してやることを心の中で誓いつつ、爆笑するウェルザを睨みつつも辛抱強く待つ。

「あー、笑った。つまり金が欲しいんだろ? ならカウンターいけよカウンター。あそこが受付だ」

 ウェルザはそう言って店の奥を指さす。

 そこには一人のおっさんが座っていた。受付というと女性をイメージするのは、俺の先入観なのだろうか。まぁどうでもいい。

 俺はなんのためにウェルザに声をかけたのか自分で混乱しつつも、カウンターの前に立つ。

「ギルドの仕事を受けたい。今日が初めてなんだが、大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない」

 打てば響くように返事が来た。なんとかなりそうだ。しかし頭のどこかで助からないような気がしたのは何故だろう。気のせいか。

「だが、戦士ギルドの仕事を受けるときは戦士ギルドに登録している必要がある」

「それも一緒に頼む」

「わかった。じゃあ、まずは名前と……」

 そこまで言って、受付のおっさんは俺を見た。瞬間、おっさんの表情が驚愕に染まる。

「勇者オリオン! 記憶を無くして帰ってきたって噂だが……本物か!」

 ……そんな話で伝わってるのか。

「残念だが記憶は戻らないままだ。それより仕事が欲しい」

「おいおい、とうとうあの勇者オリオンが戦士ギルドに入ってくれるのか! 夢じゃないよな?!」

「…………」

 何がそんなに感動なのか、おっさんは自らの頬をつねる。

 痛がって嬉しそうなおっさん。うわ……ちょっと、引く。

 俺の引き攣った表情に気付いたのか、おっさんは慌てて営業スマイルを浮かべる。頬が赤くなっているが、そんなに強くつねる必要があったのか?

「よし、面倒な手続きは全部こっちでやる! どれでも好きな依頼を選んでくれ!」

 おっさんは嬉々としてカウンターの横にあるボードを示す。木の板に何枚もの紙が張り付けられていた。

 近づき、そのうちの一枚を眺める。


 ――――――――――――――――――――


 ライナム森林のゴブリン討伐依頼

 ランク:D

 報酬:500ガルド

 内容:ゴブリン十匹討伐。

 証明部位:ゴブリンの角

 期日:受諾後4日以内


 ――――――――――――――――――――


 ゴブリン、か。こいつは魔族だな。

 暇な時にフェルレノに聞いていた魔族の知識を思い出す。ゴブリンは亜人族だ。

 正直、予測はしていたが。ここは俺のような魔族にとっては楽しい空間じゃないな。人間からすれば魔物でも、俺からしたら同族だ。仲間が平気で狩りの対象にさせられているのは、かなり精神的にくるものがある。賞金首というのとも違うようだしな。

 とにかく、この依頼は俺にはできない。あとでフェルレノとも相談し対策を練る必要がある。

 俺はその紙から手を離し、他の紙を見た。依頼内容は……商人の護衛か。む。しかしこれは人数制限がある。二人以上いないといけないのか……。

 討伐の依頼を除外すると、一人でできるものは採集やら荷物の配達やらだ。しかしそれらは日時が今日じゃない。最速で明日だ。これ以上は腹の減りを我慢できん。

 明日になると考えただけで、もう何もかもを壊してしまいたい衝動に駆られるのは何故だ。

 俺は一度掲示板から離れ、カウンターの向こうのおっさんに話しかける。

「すまないが、一人で可能な即時の依頼はないか?」

「悪いが、そこにあんのが全部だ」

 ……少ないな。もっとたくさんあるものかと思っていたが、そんなものか。まぁ、俺が無視をした討伐の依頼がほとんどなのだから仕方がない。

 しかしリーゼとフェルレノの二人に大見得切ったからには、意地でも稼がなくては。

 俺がどうしようかと掲示板の前で悩んでいると、背後から声をかけられる。

「何を悩んでんだ?」

「ウェルザ……、依頼がな。ちょうど良いものがない」

「なんだそりゃ? アレとかソレはどうだ?」

 ウェルザが適当に指で示すものは、すべて討伐依頼だった。俺は黙って首を振る。

「討伐依頼は……今は遠慮したい」

「ふーん」

 つまらなそうに鼻を鳴らし、ウェルザはもう一度掲示板を見る。何か事情があると察してくれたのか、理由を聞かないのがありがたい。

 ウェルザはざっと掲示板を眺め、即日で討伐以外の依頼を一緒に探してくれた。気遣いはありがたいが、もうすべて見てしまった後だ。

 俺が悩んでいるのは、諦めて別のギルドに依頼がないか探すべきか、討伐以来で魔族を殺さなくて済むような内容がないかを考えることだ。……ゴブリンの角ってまた生えたりしないだろうか。

 うーむ。戻らないとしたらまずいな。フェルレノがいたら……こんなことを相談したら怒られるかもしれん。

「お。即日のいい依頼があるじゃん」

「何?」

 俺が悩んでいる隣で、ウェルザが一枚の紙を指差して喜んでいた。

 見落としていたか? いや、まさか。俺がそんな凡ミスをするなどあり得ない。

 ウェルザの指の先を目で追う。それは先ほどの商人の護衛以来だった。

「ウェルザ、その依頼は二人以上だぞ」

「いるじゃねぇか」

 そう言って、ウェルザはぽんと俺の肩を叩く。親指で自分を示しつつ、笑みを浮かべた。

「この俺が」

 赤獅ウェルザ。なんともいい奴であった。


 彼から言い出したのだから、何度も確認するのは野暮というものだろう。

 俺はウェルザに礼を言い、商人の護衛依頼の紙を剥がしておっさんに見せる。

「ああ、それか。突然の依頼だったから受けてくれる人がいるか気にしてたんだが……、さすがオリオンさんは、こういう依頼を選ぶんだねぇ」

 なぜかおっさんは納得したように頷き、俺から紙を受け取る。

 なんだ、オリオンは護衛の依頼をよくするのか? いや、そんな記憶はない(・・・・・)が。

 ……いや、俺は何を考えているんだ。俺に勇者オリオンの記憶なんてない。ない、のだが、何故かほぼ確信している自分がいる。

 おっさんの言葉に頷いて見せたのは、ウェルザだった。

「だろうな。普通護衛の依頼ってのは少なくとも三日か、それより前に出しとくもんだ。俺が覚えてる限り、この依頼は今日出たやつだからな」

「ああ、しかも赤獅ウェルザと勇者オリオンのタッグ! これ以上頼もしい護衛はそうそうないね」

「はっはっは。止せよマスター、本当のこととはいえ照れるじゃねぇか」

 鼻高々、といった具合にふんぞり返るウェルザ。態度も言葉もどこも照れてはいないのだが、そこは付き合いが長いのかおっさん、もといマスターは何も言わない。ただ笑って流しただけだった。

 というか、なんだそのだらしのない表情は。

 俺はウェルザの姿に呆れを覚えつつ、マスターから依頼の話を続ける。護衛する商人は城門近くの宿屋で待っているそうだ。


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