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第十二話 屋敷前の騒動

 フェルレノがいない。どこにいった?

 リーゼもいない。まぁ、問題はない。

 俺は二人を透視能力を駆使して探しつつも、結局見つからずに暫定俺の屋敷へとたどり着いた。

 いったん捜索を中断し、屋敷の全貌を眺める。

 ふむ、なかなか立派。さすが勇者とでもいうべきか。この非凡たる俺の転生先なのだから、ある意味当然か。俺の非凡たるは運命なのだろう。

「……くっくっく」

 屋敷だ。元の世界では固定の住所を持つよりもマンションを借りたほうが足が軽かったので自分の家は持たなかったが、いざ目の前にしてみるとなかなかどうして良い気分だ。自然と笑みがこぼれる。

 汗水たらして建てた家は己の城、という話をどこかで聞いた気がするが、なるほど頷ける。俺の場合汗水どころか指先一つ使っていないが、これを建てたオリオンは救国の英雄だという。俺が丸ごと譲り受けるのはどこか背徳感があるものの、他人の所有物を合法的に奪い取る感じがぞくぞくしてむしろイイ。

「はーっはっはっはっはっはっ!!!」

 屋敷の前で高笑いする男の姿があった。言うまでもなく俺である。高笑いは気分がいい。今度フェルレノにもやらせてみよう。

 そう思い、フェルレノが高笑いする様子を想像する。

 小さい身長ながら精一杯胸を張って腰に手を当て笑う少女。中身は手のひらサイズの足りない子。

 ……、駄目だ。ヤツでは外面も内面も迫力がない。威厳のいの字もないだろう。俺はそんな妄想を頭を振って追い出す。

 改めて屋敷に目をやる。

 黒々とした金属製の門をくぐる寸前、ここで万が一オリオンが別に存在していて、俺がとてつもないそっくりさんである可能性を考えたが、考えたところでどうにもならない。

 どちらにせよ、今は俺が勇者オリオンということになっている。気にせず使っても問題はあるまい。

 俺は堂々と門を通り抜けた。家の管理はされていなかったようで、広い庭園には雑草が伸び放題であった。この分だと、埃生活はまだ続くようだ。

 しかしあれだ。俺の異世界人生、初回転生時はすぐに殺されてしまったが、二度目はなかなかいい感じである。

 さすが俺。運も実力のうちとはよく言ったものだ。

 ずかずか進み、屋敷への扉にたどり着く。当然と言えば当然だが、南京錠みたいな鍵がぶら下がっていた。

 …………。さて、こいつをどうするか。

 解錠の方法は二つ。地道に管理者を探して鍵を開けるか、さっさと破壊するか。

 幸い鍵のほうは頑丈そうな金属だが、扉のほうは木製である。俺に壊せないということはないだろう。それに、鍵のほうもやってみれば意外と壊せるかもしれない。まだまともに魔力を使っていないから、試しにやってみるというのも良い。

 屋敷の前の通りから屋敷の扉にたどり着くまでは広い庭を挟んだおかげで距離がある。庭園にはまばらだが樹木もあり、一メートル程度だが敷地の外側に塀もある。

 偶然誰かに見られる、という可能性は低いだろう。

「……ふむ、やってみるか」

 魔力塊を形成してみたり、体内の循環をいじったりはした。しかし、フェルレノのように魔力を水に変換したり、ということはやったことがない。

 どうやってやってみるのかフェルレノに訊いたところで、どうせグニグニするとかネチョネチョするとか足りない答えが返ってくることは予測済みである。ならば自分で考えても同じだろう。

 俺は右手に魔力を集中させ、試しに火をイメージしてみる。ぞわり、と魔力に反応するような感覚があったが、火は発生しなかった。

 やはり何か違うようだ。

 そもそも、魔力とは一体何なのか。元が純人間の俺には魔力という概念を理解しきれていない。気力とか精神力といったようなものなのだろうか。見えるし少しならば扱えるが、ではこれが具体的にどんなものかと問われれば俺には何も言えない。

 改めて自身の身体に目をやる。時間もたっていないのに身体に馴染んでしまった黒い魔力は、今もぐるぐると俺の身体の中を循環している感覚がある。

 一番分かりやすいのは呪文。何かブツブツつぶやいていれば勝手に魔力を使用して魔法が使える、というのなら楽なことこの上ない。

 今まで魔法っぽい魔法を使ったところを見たことがあるのは、三回。

 一度目は、初回魔王転生時に、女の魔法使いが火球を生み出した時。

 二度目は、老婆が村に結界を張った時。

 三度目は、フェルレノが魔力で水を生み出した時。

 一番参考になるのは俺と同じく魔族のフェルレノ。注目すべきは、人間の二人は呪文のようになにかを呟いていたこと。魔族のフェルレノは何も呪文など使わなかったことだ。

 ならば俺も呪文などないのかと思ったが、何度念じても火は発生しなかった。火が悪いのかと思って水を出そうとイメージしたが、やはり魔力がそわりと変化する感覚はあるものの、発生にまで辿り着かない。フェルレノが簡単そうにやっていた気がするのに、魔王でもあるこの俺がこんな初歩的な部分で躓いているのは魔族連中からすれば笑いものであろう。

 少々不愉快だが、俺の問題だ。なんとかするしかない。

 だが元の世界という、この世界からすれば当然ながら異世界から転生したのだから、そう簡単に魔法を使おうとしてもできるわけがなかった。というか魔力を少しでも扱えている時点で奇跡だ。

 当然呪文なんか知らない。

 く……、この非凡たる魔王兼勇者の俺が、魔法を使えないなんて……。魔法を使えない魔王なんて麺のないラーメンみたいなものだ。風味は保たれるが全然満足出来ない。

 ある意味、非凡だな。

 そんな思考に到達した瞬間、ならば俺にふさわしいのでは? と心のなかの誰かがつぶやく。

 いや、しかし違う気がする。っていうか違う。俺が非凡なのは突き抜けて優秀な存在である意味であり、突き抜けて低能ではないのだ。非凡なら何でもいいってわけじゃない。と自らに言い聞かせる。

 あいや、しかし逆にいえば体術だけで最強の魔王となることもできるのか……。そこに勇者も加わる。うーん。悩みどころかもしれない。

 …………ハ。ままま間違えるな俺。考えてもみろ、勇者だって最近は魔法を標準で使うじゃないか。というか元の世界では大抵のファンタジーゲームでは誰でも魔法を使っていたぞ。俺だけが使えないなどと、そんな無能ではこの俺の沽券にかかわる。やはり是が非にでも魔法は習得すべきだ。うむ。

 俺は決意も新たに、指先の魔力を意識する。

 濃度が足りなかったのかもしれない。

 俺は指先の一点に魔力を集中させていく。右手人差し指の一点集中だ。

 だんだんと指先が重く感じ、質量まで得たようなそれは黒く周囲の空気を染めていく。黒いガスが指先にまとわりついているようだった。それでも飽きずに込めていく。どこまでいけるのか試してみるのも悪くない。

 そんな好奇心に駆られ、俺は自分の力が許す限りの魔力を込め続ける。

 指先は最初はなんでもなかったが、だんだんと痺れに似た感覚に襲われる。無視して続けていると、今度は痛み。針で刺すような痛みが何度も発生し、すぐに痛みが連続的なものになる。

 ずきずきと痛む指先は、真っ黒に染まっていた。薄く光っているようにも感じる。黒い光なんて、有るわけないのだが。そこは魔力的な波動を目で感じた結果だろう。正直なんでもいい。

 思った以上に維持がきつい。このくらいでいいか。

 しかし光る指というのはなんだ、空間とか断ち切れるような、そんな全世界の男子が一度は必ず夢見ることをしたくなってしまう。

 ――ぞわり、と魔力が蠢いた。

 ん。なんだ?

「ま、魔王様っ!」

 ちょうどその時、背後でフェルレノの絶叫が聞こえた。久々に彼女の焦った声を聞いた気がする。全力で走ってきたのだろう、額には玉のような汗が浮かんでいる。気のせいか全身が小刻みに震えていた。よほど探し回らせてしまったのだろう。少し申し訳ない。

 だが、この場で魔王様と絶叫することはどこまでもマイナスだ。即座に周囲を透視で確認するも、フェルレノの声が聞こえる範囲には幸運にも人がいなかった。

 よかったと胸を安堵しつつも、これは注意を促すべきである。

「フェルレノ」

 振り向く。その瞬間、当然俺の指先も動く。

 なぜかフェルレノは焦ったように俺の指先を見ていて、しかし振り向こうとした俺の体はそのまま動き続ける。

 ぴっと、何かが切れる音がした。俺の指先から。

 フェルレノの表情からものすごく嫌な予感がしつつも、それを見つめる。

 くるり、と背後のフェルレノに向かって俺は振り返った。つまり、指先はそれに合わせてほぼ百八十度動いたことになる。俺を囲むように半円。

 その軌跡がよくわかった。なぜなら、切れているのだ。空間が。

 ……俺は正気か?

「なんだ、これは」

 その奥は何もない。ただひたすらに暗い闇が指先から、まるでそこだけ異空間のように広がっている。

 空間を直線で切られたようなそれは、だんだんと広がっていく。じわりじわりと、空間そのものを蝕むように。わずか一センチほどの闇の線は、俺が眺めている数秒の間にどんどんと広がる。

「や、止めてください! こんなところで開くのは危険です!」

 開く? 何をだ?

 俺の表情を見て、本当に何が起きているのかが理解できていないことに気付いたのだろう。フェルレノが顔面を蒼白にして、その場にペタンと崩れ落ちる。自分自身を抱きしめるように腕を身体に回し、フェルレノはガクガクと震えていた。その表情は、恐怖。

 ――なにか、非常に、やばい。

 その間にも暗闇は広がり続け、とうとうそれは一メートルほどの穴に広がった。暗闇だけの空間に日の光が飲み込まれ、しかし闇が晴れることはない。むしろ光を飲み込もうと、より世界を飲み込もうとするかのように暗闇は膨れ上がった。

 爆発的に広がろうとする闇を眺めつつも、俺はなすすべなく立ち尽くす。向こうから懐かしいような嫌悪感がわくような、なんとも表現しがたい匂いが漏れる。

 ちらっと、何かが視界に入る。

 闇の向こうに何か――二つの赤い光が見えた。

 それはゆらゆらと揺れつつも、だんだんと大きくなっていく。それが近づいてきているということに気がつくのに、俺は数瞬の時間を要した。

 暗闇は広がりに広がり、すでに二メートルほどの大きさになっている。俺の身長を超えてしまった。

 奥に見える光は、俺を目指すようにまっすぐこちらへ向かってくる。直感した。アレは、なんというかマズい。

「やだ……、嫌です……」

 フェルレノが泣き言のように弱々しく呟き、両手で頭を抱える。

 その言葉を聞いて、ようやく俺は動くことを思い出す。

 即座に指に集まった魔力を霧散させ、どうやってこの暗闇が膨張するのを止められるか考える。

 いや、無理じゃね? 予想すらつかない。

 だが、そんなことを言っている場合でもない――!

「よっ!」

 とりあえず魔力で開いたのだから、魔力でつなげるしかないだろう。

 俺は両手に魔力をありったけ込めると、今も広がり続ける暗闇の境界を適当につかんだ。

「――――ッ?!」

 激痛。掌を切り裂かれるような感覚とともに、俺の両手から何かが飛び散る。血だろう。間違いない。

 まともに掴んでいられない激痛だが、そんなものよりも奥に見える光のほうが強烈な危険信号を発し続けている。幸運なことに、暗闇は浸食を止めた。これでいいようだ。

 俺が何をしているのか気付いたのか、光が上下に揺れながら速度を上げる。光の真ん中より少し下に、赤い何かが広がった。

 膨大な魔力が凝縮されるのを感じた。嫌過ぎる。

 ――魔力を全身へ全力で展開。一撃耐える。

 いやしかし、いくら非凡たるこの俺でも、これ直で受け――


「オオオォォォォオオォォォオオオオオオ――――ッ!!!!」


 光が、吠えた。遠雷のようなそれはビリビリと空気を震わせ、直後に暗闇から噴き出た光と熱が俺を襲う。凄まじい圧力に吹き飛ばされそうになったが、無我夢中で踏ん張る。

 俺が受け止めないと、フェルレノが危険だ。

 灼熱の吐息。全身が猛烈に痛い。全身火傷を負ったようだ。目も開けられない。

 だが、別に眼球を使わなくても俺には見える。透視能力を使って作業を続けた。

 遠くに見える赤い線は、時折真っ赤な光をちろちろ漏らしている。俺は直感した。あれ、たぶん口だ、今は閉じてるけど。火、漏れてる。さっきの熱は火だったのか。

 地響きも凄まじく、かなりの速度で走ってきていると思われるのに、距離はまだ先のようである。だというのに、真っ赤な口腔ははっきり見えた。

 どんだけ本体はでかいのか、想像すらしたくない。

 あんなものがこちら側に出てくることは、すなわちこの国の壊滅を意味するのではないか? フェルレノの反応を見るに、あながち間違ってもいないのかもしれない。

 俺の背中に嫌な汗が滝のように流れた。猛烈に嫌な予感が、あの暴虐の持ち主から伝わってくる。

 俺はさらに魔力を掌に込め、痛覚の情報を無視。ぐいっと、カーテンを引っ張るような感覚とともに暗闇を引き寄せた。

 がむしゃらに引き寄せたそれらは、暗闇の淵と淵を合わせると勝手にくっついた。俺はそれを確認すると、痛みなんて無視して可能な限りくっつけ作業をする。

 もう一度火を吐かれたらまずい。距離も近づいてきたことだし、余波の圧力で吹き飛ばされる。

 今度は本体が消し炭になるかもしれない。

 俺は焦りつつも、迅速に腕を動かした。痛みはない。もはや感覚がなくなった。だが、痛みさえ度外視すれば作業そのものは簡単である。

「これで――ッ!」

 手早く淵と淵を繋ぎ合せ、なんとか暗闇を抑え込んだ。

 くすぶるようにして黒い線が完全に消えたことを確認して、ほっと一息つく。

 次の瞬間、目の前の空間が振動した。ビリビリと空気が震えるが、暗い空間は出現しない。この空間一枚向こうで想像もつかないような化け物が暴れていると思うと、ぞっとしない。

 俺はそれでも慎重に観察を続ける。少しでも黒い線が生まれたら、即座にくっつけ作業を開始するつもりで、掌に魔力だけは集中させておく。

 肝を冷やす空間の衝撃は二、三度続いたが、効果がないと解ったのか静かになる。気のせいか圧迫感も失せ、ようやく諦めたのではないかと悟った。

「……ふう。ぎりぎり、だったな」

 ズキ、と咽の痛みに呻く。喉まで焼けたようだ。

 作業があと少しでも遅れていたら、間に合わなかっただろう。あの正体不明の化け物なら、暗闇を引き裂くようにして飛び出してくるに決まっている。

 俺は何もかもがどうでもよくなるほどの疲労を感じ、その場に腰を下ろした。全身に倦怠感がある。魔力を使いすぎたのだろうか。確認してみると、循環している魔力がいつもの半分も感じない。

 かなり消費してしまったようだ。

 安堵すると同時に、だんだんと手の感覚が戻ってくる。激痛に顔をゆがめつつも手をよく観察すると酷い有様になっていた。掌の肉が全部剥がれている。指先は溶け落ちており、もはや手ではない。指の名残は関節一つ分の白い骨だけだ。残った手の甲のわずかな肉も、黒く焦げている。

 淵を掴んでいた両手の魔力防御を、逆に減らし過ぎてしまったようだ。もう元の世界なら切り捨てるしかない状態だった。

 しかし、たかが両手を犠牲にしてあの怪物の侵攻を止められたなら御の字だろう。あんなのに襲撃されたら死ぬしかない。

 俺は透視を使って自分自身を確認する。やはり体全体が赤くなており、全身に軽くではあるが火傷を負っているようだった。服なら当然、すべて焼け焦げている。

 遠距離からの攻撃で、このダメージ。どうやら、俺が最強だと息巻くのは随分先のことになりそうだ。

 よわよわしい足取りが背後に近付いてきた。視界をそちらに移動させると、そこには怒ったような安堵したような申し訳なさそうな、本当に微妙な表情のフェルレノが立っていた。

「フェルレノ……」

「魔王様」

 まだ少し震えているが、フェルレノは気丈にもしっかりと立っている。

 フェルレノは俺の両手を見、少し泣きそうな顔のまま俺の隣に正座する。俺の手の残骸にフェルレノが自身の手を当てる。緑色の魔力が光って見えた。

 量より質。フェルレノの温かな魔力が今は非常に気持ちいい。

「魔王様……、何故、魔界へのゲートを開いたのですか?」

 え。あれ、魔界なの? と、一瞬間抜けな感想を胸に抱く。

 あそこの頂点、俺なんだよな。

 ……いや、それより……俺、部下にやられたのか。

 この非凡なる魔王の俺が、単なる魔族に恐怖したとは……屈辱すぎる。

 強くなればあんなのにも勝てるのか?

 ――違う。勝つのみだ。

 この俺にでかい顔したツケを、必ず払わせてやる。

 まぁいいか。ひとまず今は落ちついて休みたい。

「知らなかったんだ。すまない」

 ゲートに関しては、正直に答える。フェルレノは苦笑するように眉を寄せた。

「そうじゃないかって、思いました」

「すまない」

 重ねて謝る。今回は考えなしだった俺の浅慮が招いた結果だった。最初からフェルレノがあの場にいれば、この事態は回避できただろう。

 しかしまぁ、本当に危なかったな。

「手、大丈夫ですか?」

「ああ、両手で済んでよかった」

 フェルレノが俺の手首をそっと持ち上げ、溶け落ちた手を痛々しそうに確認する。

 だんだんと肉が盛り上がり、骨が再生されていっていた。驚異的な回復だ。この分だとそう時間もかからずに完治するだろう。

「どうにかなりそうだ。魔族の体も便利なものだ」

「え?」

 おっと。今のは失言だったか。

 つい口を出た感想に、フェルレノは首をかしげる。彼女の中では、俺は最初から魔王で、今は記憶をなくしているだけ、というものだったことを思い出す。今の発言は不可解だったろう。いまさら何を当たり前のことを、と思うはずだ。


 この世界のすべてに嘘をついていることに、今更気付いた俺だった。


 どっと疲れる。

 とりあえず少し休みたい。こんな手を誰かに見られるのも事だ。また裸だし。

 俺は何気なしに鍵を見やる。光と熱。その光景が脳内にフラッシュバックする。ああ、これでいいのか。


 ――鍵はすぐに赤熱し、どろどろと溶けて落ちた。


「……?」

 フェルレノが驚いているが、俺はとにかく疲れている。

「休もう。魔力が減るのはきついものだと、知らなかった……。今は、何も考えたくはない」

 なぜ見ただけで鍵が溶けたのか。頭がうまく回らないせいで仮説すら立てられない。

 ただ、できると思ったのだ。

 フェルレノに肩を借り、扉を開けて中にはいる。

 豪華な家具やらなんやら、全て後でいい。

 透視を用い、俺は一番近い寝室をフェルレノに指差した。

 身体を引き摺るようにして最初に見つけたベットに倒れこむ。やはり少々埃ぽいが、今はそんなことを気にしている余裕はない。

 俺はフェルレノが隣に潜り込むのを意識の隅で感じると、そのまま暗闇に落ちて行った。

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