5人目の彼女
「今日は何て素晴らしい日なんだ」
今日ほど素晴らしい日が今までにあっただろうか?僕が覚えている限りでは無い。
今日は雨。湿度も高く、気温も高いじめじめした日。僕の体も濡れている。辺りもビチャビチャだ。
普通ならこんな日を素晴らしい日だなんて思わない。
だけど、僕の心の中は快晴。さわやかな風が吹いている。例えるなら五月の風。
ここ数ヶ月、僕の気分は沈みっぱなしだった。職業柄疲れることが多かったし、色々悩んだりもした。
本当に疲れた。
彼女にも心配をかけてしまった。そんな僕に彼女はできる事ならなんでもすると言ってくれた。
思わず泣いてしまった。
僕には付き合って一年になる彼女がいる。僕にはもったいないくらいの良くできた人だ。いつもこの時間になればその彼女が僕を起こしてくれる。
おかげで寝坊することも無くなった。今ではもうすっかり早起きが癖になりこの時間になれば自然に起きてしまう。しかし、僕が一人で起きられる様になっても電話をかけてくれる。本当に良い人だ。
本当に良い人だ
だけど、今日は携帯が鳴らない。まあ、こんな日もたまにはあるさ。
彼女だって完璧じゃないさ。
トントンと音が鳴る。
家のドアを叩く音。おや、いったい誰かな。今日は誰も尋ねてこないはずだけど。自慢ではないが僕には友達が少ない。
何故だか分からないがみんな僕を近寄りがたい人だと思っているようだ。だけど、彼女は違った。
ガンガンと音が鳴る。
おっと思い出に浸りすぎてしまった。だけど、ちょっと待ってくれそんなに叩かれちゃドアが壊れちゃうよ。
はいはい、今行きますよ。
全く。僕は多少の怒りを覚えながらドアに近づく。
「助けてっ。殺される」
その声は彼女だった。
彼女は必死にドアを叩き助けを求めている。
ダンダンと音が鳴る。
僕はさらにドアに近づく。
「嫌っ。嫌っ。来ないで」
彼女は走り出した。
タッタッタと音が鳴る。
カツカツと僕が彼女を追いかける。
実は僕は警官だ。常に訓練で体を鍛えている。そのせいで中々疲れ取れないんだけど。
だけど、こんな状況になれば普段から訓練を怠らなかった自分を褒めてやりたい。
本当に警官気質とでもいう、この性格を褒めたい気分だ。
一方、彼女はハイヒールにスカートという実に走りにくそうな格好だ。走っているとはいえやはり遅い。
彼女との距離は縮まる。
「嫌っ、嫌っ、嫌っ。やめて。来ないでっ」
彼女は必死に走っていく。
だけど、僕との距離はどんどん縮まっていく。
音が鳴る。
ついに彼女を捕まえた。
「どうして逃げるの」
僕は彼女に聞いた。
だけど、彼女は答られない。
雨水ではできていない水たまりが足元に広がっていく。
終わり
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