プロローグ『父の失踪』
20XX年1月1日、父が失踪した。なに不自由ない、至って普通な……いや、順風満帆な家族であったと思う。
つい数秒前に母と共に毎年恒例の年越しジャンプをしたのだが、年越しと同時に送られた一本のメールでハッピーなニューイヤーはアンハッピーなニューイヤーへと様変わりした。
嗚咽混じりの母の泣き声が家中を駆け巡る。曇り一つない晴天のような性格の母が流す涙は、どこか新鮮でとても不格好であった。なんで、なんで、と見つかるはずのない問いをまるで壊れた玩具のように繰り返し垂れ流している。
見るに耐えないほどの酷い空気感に俺の身体は固まって動かない。ただただ、壊れた母を見つめるしかできなかった。
机の向きや形とまるで合わせる気のない携帯が机の上に寝転んでいる。母の携帯だ。その画面には、この惨状を引き起こした1通のメールの内容が映し出されていた。
『突然で申し訳ないが、俺はもう家には帰れない。正義を頼んだ。愛してる、星。』
そう書かれていた。差出人は金富 慈鳥。父の名前で間違いない。家族思いな父にしては、あまりに無鉄砲で自分勝手な内容のため、誘拐や事件に巻き込まれたのだと思った。しかし、俺宛に届いた1通のメールでこの失踪が父本人の意思によるものだと俺は悟った。
『20XXIX年12月31日から20XXX年1月1日に変わる時、世界が更新される。年越しジャンプは絶対にするな。お前はスペースウェポンの適合者だ。あっちで待ってる。』
世界の更新、スペースウェポン、と意味が分からない言葉だ。しかし、父は何かを知っている。家族を捨てるほどの何かが。俺は再度母に目を向ける。俺宛に送られてきたこのメールを伝えるか否か。
俺は何事もなかったかのように携帯の電源を消した。父曰く世界が更新されるのは20XXX年。あと10年後だ。この父との約束は俺だけに留めておこう。土砂降りな母を眺めながら俺は早く晴天になることを祈った。
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また次の話でお会いしましょう。




