理想郷はここにあったんだ!業火にくべる薪
人々は、ただ幸せになりたかった。
畑を耕した。
子どもを育てた。
家を建てた。
もっと便利に、もっと安全に、もっと豊かに暮らそうとした。
間違ったことなんて、誰もしていない。
みんな、自分と家族のために、一生懸命だった。
少しでも暮らしを良くしようと働いた。
少しでも不幸な人を減らそうと、決まりを作った。
危険なものを取り除いた。
無駄をなくした。
争いを減らした。
昨日より今日。
今日より明日。
人々は、少しずつ世界を良くしていった。
そのたびに、世界は大きくなった。
人間の欲望も、安心も、便利さも、正しさも。
小さな灯火だったものは、いつしか空を覆うほどの光になった。
光はやがて大きく、強く、激しくなり。
世界を燃やす。
家が燃えた。
畑が燃えた。
人が燃えた。
逃げようとした男の服に火がついた。
「熱い!」
男は服を脱ぎ捨てようとした。
指が焼けた。
皮膚が黒く縮んだ。
「助けてくれ!」
「なんで私たちが!」
「こんなこと、あってたまるか!」
子どもを抱いた母親が走る。
けれど、どこへ行っても炎だった。
昨日まで普通に暮らしていた人たちが、今日になって突然、焼かれている。
誰も悪人ではない。
誰も世界を滅ぼそうとしていない。
みんな、ちゃんと生きていた。
だからこそ、誰も理解できなかった。
「こんなはずじゃなかった」
「誰がこんなことを……」
燃えながら、人々は互いを責めた。
逃げようとする者を押しのけた。
助けを求める者を見捨てた。
自分だけでも助かろうと、他人の肩を踏みつけた。
それでも炎は止まらない。
世界を燃やしているのは、悪意ではない。
人間が積み重ねてきた、正しさだった。
誰も間違っていない。
だから、誰にも責任はない。
完璧だった。
完璧に、噛み合っていた。
炎はさらに大きくなった。
空が赤い。
地面も赤い。
人々の叫び声も、もう聞こえない。
最後に残ったものまで燃え尽きた。
灰になった。
家も、畑も、道も。
人間も。
記憶も。
歴史も。
何も残らなかった。
そして、静かになった世界に、
小さな灯火が生まれた。
ぽつん、と。
どこにでもある、小さなロウソクだった。
その火を見つけた誰かが言った。
「もっと大きくしよう」
人々は笑った。
薪を集めた。
畑を耕した。
子どもを産んだ。
ここはユートピアだ。
平等で平和な社会。
貧困や争い、不平等がなく、誰もが満ち足りた生活を送っている。
「ふざけるな!」
ひとりの男が叫んだ。
「こんな場所、出ていってやる!」
その瞬間、男の首が落ちた。
ただ、そうなった。
システムが、異端を排除した。
そして誰も、それを不思議には思わなかった。
人々は幸せのために文明という名の薪を、また一つずつくべ始めた。
世界は、また明るくなっていく。
そして、
次の呪いのカウントダウンが始まった。
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ありがとうございました。
システム=ユートピア。
寛容性のパラドックス。




