↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

理想郷はここにあったんだ!業火にくべる薪

作者: 山田りく
掲載日:2026/09/12

 人々は、ただ幸せになりたかった。

 畑を耕した。

 子どもを育てた。

 家を建てた。

 もっと便利に、もっと安全に、もっと豊かに暮らそうとした。

 間違ったことなんて、誰もしていない。

 みんな、自分と家族のために、一生懸命だった。

 少しでも暮らしを良くしようと働いた。

 少しでも不幸な人を減らそうと、決まりを作った。

 危険なものを取り除いた。

 無駄をなくした。

 争いを減らした。

 昨日より今日。

 今日より明日。

 人々は、少しずつ世界を良くしていった。

 そのたびに、世界は大きくなった。

 人間の欲望も、安心も、便利さも、正しさも。

 小さな灯火だったものは、いつしか空を覆うほどの光になった。

 光はやがて大きく、強く、激しくなり。

 世界を燃やす。

 家が燃えた。

 畑が燃えた。

 人が燃えた。

 逃げようとした男の服に火がついた。

「熱い!」

 男は服を脱ぎ捨てようとした。

 指が焼けた。

 皮膚が黒く縮んだ。

「助けてくれ!」

「なんで私たちが!」

「こんなこと、あってたまるか!」

 子どもを抱いた母親が走る。

 けれど、どこへ行っても炎だった。

 昨日まで普通に暮らしていた人たちが、今日になって突然、焼かれている。

 誰も悪人ではない。

 誰も世界を滅ぼそうとしていない。

 みんな、ちゃんと生きていた。

 だからこそ、誰も理解できなかった。

「こんなはずじゃなかった」

「誰がこんなことを……」

 燃えながら、人々は互いを責めた。

 逃げようとする者を押しのけた。

 助けを求める者を見捨てた。

 自分だけでも助かろうと、他人の肩を踏みつけた。

 それでも炎は止まらない。

 世界を燃やしているのは、悪意ではない。

 人間が積み重ねてきた、正しさだった。

 誰も間違っていない。

 だから、誰にも責任はない。

 完璧だった。

 完璧に、噛み合っていた。


 炎はさらに大きくなった。

 空が赤い。

 地面も赤い。

 人々の叫び声も、もう聞こえない。

 最後に残ったものまで燃え尽きた。

 灰になった。

 家も、畑も、道も。

 人間も。

 記憶も。

 歴史も。

 何も残らなかった。

 そして、静かになった世界に、

 小さな灯火が生まれた。

 ぽつん、と。

 どこにでもある、小さなロウソクだった。

 その火を見つけた誰かが言った。

「もっと大きくしよう」

 人々は笑った。

 薪を集めた。

 畑を耕した。

 子どもを産んだ。


 ここはユートピアだ。

 平等で平和な社会。

 貧困や争い、不平等がなく、誰もが満ち足りた生活を送っている。


「ふざけるな!」

 ひとりの男が叫んだ。

「こんな場所、出ていってやる!」

 その瞬間、男の首が落ちた。

 ただ、そうなった。

 システムが、異端を排除した。

 そして誰も、それを不思議には思わなかった。


 人々は幸せのために文明という名の薪を、また一つずつくべ始めた。

 世界は、また明るくなっていく。


 そして、

 次の呪いのカウントダウンが始まった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

何かしらのリアクションを頂ければ励みになります。

ありがとうございました。


システム=ユートピア。

寛容性のパラドックス。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。