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第五幕一場 危険な賭け

「源馬様、着きましたわ」

 渋谷に向かう国道二四六号沿いに加賀はアルファードを止めた。

 さすが最先端ヤクザらしく魚崎組組長の自宅は真新しいタワーマンション上層階にあった。

「ようし、赤城と僕とでちょっと行ってくるから加賀は待機していて」

「御意」

 運転席の加賀は無表情に返した。

「あのぉ、我々はどうすればいいでしょうか?」

 三列目から安藤が顔を乗り出して聞いた。

「君たちは念の為の控え要員だ、加賀と一緒に警察無線を傍受して敵の出方を伺って下さい」

 そう言い捨てて源馬は車を降りた。

「控え要因って、それに敵って誰のこと」

 安藤は唖然とした。

「お二人共、逃がしませんわよ」

 運転席加賀の切れ長の目はヤクザより怖かった。

 その隣でワンピースを脱いだ赤城は武闘派らしく全身黒のタイトジャージに着替えていた。

「源馬様、武器はどうしましょう?」

 その手には日本刀らしきものが握られていた。

「心配はいらない。それはしまっておきなさい」

 源馬は刀を収めさせた。

「ではいくぞ」

 黒づくめの赤城と薄いマントをなびかせた源馬の二人は、軽やかにガードレールを跳び越えてマンションに向かった。


 エントランスから入口に近づくと高級タワマンだけに警備は厳重。正面エントランスの防犯カメラとオートロックを前にして二人は立ち止まった。

「小型爆弾を仕掛けますので、少々後ろにお下がりください」

 赤城が真顔で言った。

「おいおい、私たちはオーシャンズの金庫破りじゃないよ、物騒なことは必要ないよ」 

 あきれ顔で源馬は言うと、加賀が調べてくれたメモを取り出した。そしてドアロック解除の暗証番号を入力した。

 ロビーは白い大理石が敷き詰められ分かりやすい高級感が、いかにも荒稼ぎしている暴力団組長の自宅に相応しい。

 目指す先は最上階の四〇階。高層階用のエレベーターホールには今度は黒い御影石が敷き詰められている。

 赤城が見回してもエレベーターを呼ぶ通常のボタンがない。

 壁にモニターパネルがはめ込まれており、ここで再度の確認がないと高層階には上がれないセキュリティーになっていた。

 源馬は手元のメモから部屋番号を入力した。

 しばらく間が空いた後、

「なんだ」

 パネルのスピーカーから野太い声が聞こえた。

「すいませーん。警視庁から来ました源馬警部補です。亡くなった御影組トップの件でお話し伺いに来ました。このままだとオタクの下っ端が逮捕起訴されちゃいそうなので来ました。入れていただけますか?」

 いつも通りに屈託ない明るい源馬の声。さすがファン歴の長い赤城も心配になった。

「なんだと! おい、テメェ警察が何しに来た」

 予想通り向こう側からは暴力的なダミ声の応酬があった。

「大丈夫でしょうか、ヘリを今からチャーターしましょうか?」

 早速の対戦モードに、屋上ルートからの侵入を赤城は提案した。

「ここまで話したら、みすみす帰すことはないと思うよ」

 そう源馬が言った途端、静かに高層階専用エレベーターが開いた。

「ほらねっ」

 二人はそのまま乗り込んだ。エレベーター内にはフィガロの結婚の序曲が流れていた、

「部屋についた途端、中に引き込んで我々を殲滅するつもりでしょうね」

「その時はその時さ、私の本番の強さは知ってるだろ」

「それはもちろん……ですが」

 赤城は出たとこ勝負を好む源馬の気質が心配でしょうがなかった。新人時代の源馬が二日酔いで自分のセリフを忘れてしまい地獄のアドリブ劇を展開した伝説の舞台を思いだした。大好評だったが、巻き込まれた周りの生徒はトラウマになったという。

 そんな赤城の心配をよそに、魚崎組組長の住む四十階へ向かう源馬の心は弾んでいた。

 上昇が止まりLEDが点滅、

「ご用心下さいませ」

「ワクワクしてきた、初めてのせり上がりの気分だよ」

 二人は態勢を整えた。

 扉が左右に開く。

 赤城の予想通り目の前に背の高い厳つい男が左右に立っていた。

 扉が完全に開ききる直前、赤城は腰を屈めて前面に突出した。

 一瞬先んじた足払いで目の前の男二人を一度に倒すと、すかさずペン型護身具スティンガーを左右に持ち男たちの額に強く押し付けた。

「赤城さらに早くなったな」

「光栄です、今日初めて実戦で使用します」

 源馬が部屋を探して廊下を奥に進むと、監視カメラでもあるのか奥から四人の暴力団らしき男たちが現れた。赤城は手にしたスティンガーの先を、制圧した二人の額に強く押し込み、相手に警告をする様子を見せた。

「赤城、それくらいでいいだろう」

「……しかし、源馬様」

「大丈夫だよ。心配はいらないよ赤城」

「あぁ、源馬様」

 そんな二人だけの世界が展開する一方で、一瞬怯んでいた後発四人のうち一人が前に出て来た。アジア系外国人の面相で源馬を見て挑発的な笑顔を見せた。両手を顎の横に当て、猫背気味になり、前足をトントンとリズムを取り始めた。

「ほほうムエタイだな。今度は私の出番だ。赤城見ていなさい」

 そういうと源馬は一礼し、幼少期から馴染んだ柔道の構えをとった。

(出た、寝技投げ技両刀使いの源馬様の構え!)

 赤城は心をときめかせた。

「ふふ、相手に飛び込めばこっちのもんだ」

 間合いを取るムエタイに、源馬が一瞬の好きを見て相手の右手を掴んだ。

「もらった!」

 そこから一気に背筋を使って廊下の端まで投げ飛ばそうと源馬が屈んだ。

 しかし、その時、

「ちょっと待って! ちょっと、ストーップ! 皆なストップ! やめい」

 廊下の奥から別の野太い声がした。

 声のする方に目をやると俳優の西岡徳馬に似た初老の男が立っていた。

「魚崎だな!」

 源馬は止まらぬ流れでムエタイ男を軽く壁に投げつけた。

「誠にご無礼申し訳ございません」


 魚崎組組長・魚崎祐司は頭が地面に付くほど突然下げた。

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