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若返りの薬の噂

作者: だぶりゅー
掲載日:2025/11/11

 三丁目の路地裏をちょっと進んだ先にいる老婆に若返りの薬をもらえることがある、という噂がある。飲むとたちまち若くなり、昔の自分の姿に戻ることができるそうな。

 もちろん七不思議の一つみたいな感じで、そこに行っても老婆がいるわけではないし、若返りの薬なんてものをもらった人もいない。

 ただ、火のないところに煙は立たぬと言うように何かその噂の元になることがあったに違いない。と言うことで、夏休みの自由研究は噂の調査にすることにした。


 噂の調査をする、とするとどうもあやふやなものだからとりあえず聞き込み調査から始める。


 「三丁目の路地裏の若返りの薬の噂って知ってる?」


 両親に聞いた。


 「あぁ、久しぶりに聞いたね、それ。ママが小学生くらいの時に教室でそんなような話をしてたかしら。まだその話がされてるんだね。昭和の話よ昭和の。お父さんは知ってる?」


 「俺はこの街育ちじゃないから聞いたことないな。なんだそれ?」


 お母さんが子供だった頃からこの噂はあったみたいだ。今度はおじいちゃんに聞いてみよう。


 「おじいちゃん、若返りの薬の話って知ってる?三丁目の路地裏の。」


 「おお、タケルか。若返りの薬の話かい?どっかで聞いたような気もするが、いつ聞いたかは覚えてないねぇ。若返りの薬なんてものがあったらおじいちゃんもう少し長生きしたいものだけど、まあ今の自分に十分満足できてるから、あったとしても必要ないかなあ。」


 「おじいちゃんも聞いたことあるんだ!いつ、どこで聞いたかって覚えてる?」


 「うーんどこでだっただろうなぁ…噂なんて大人になったらめっきりしなくなるものだし、小さい時だったと思うが…」


 おじいちゃんが子供の頃にもあった…と。

 駄菓子屋のおじさんにも聞いてみよう。おじいちゃんと同じ世代だけど、駄菓子屋のおじさんは物知りだから、おじいちゃんよりもっと色々聞けるかもしれない。


 「ねぇねぇおじさん、若返りの薬の話って知ってる?」


 「若返りの薬?知っているとも。三丁目の路地裏にお婆さんが現れるって奴だろう。あの話は本当さ。おじさんが小学5年か6年か、それくらいの時だったかな。どこからかその話が町中に広がって、夏休みなどこぞって見に行こうとしたものさ。人があまりにも集まるもんで警察も出てきてちょっとした騒ぎになってたね。あれはそんな夏休みの夜、おじさんが昼路地裏に行った時にものを落としていたみたいでそれを探しに行った時のことだったよ。」


ーーーその夜はとてもジメジメしていて呼吸が苦しくなるほどの熱気だった。ただ、探し物で三丁目の路地裏に入った途端ひんやりとした空気が体を包んだのさ。

 ちょっと不気味に感じながらも進んでいくと、昼には室外機しか置かれていなかった路地に段ボールで小さな屋台のようなものが作られていたんだ。

 恐る恐る覗き込むと、長い白い髪で肌はシワだらけ、いかにも魔女というようなお婆さんが居た。

 『若返りの薬をくれる老婆ってお前のことかよ』

 『そうさね、小僧。年上に対しては敬語を使いなさい。今にゴキブリにしてやるぞ。』

 『ふん、できるものならしてみろ。…なあ、若返りの薬の話って本当なのか?』

 『本当じゃよ。ほれ、これだ。』

 そう言って老婆は緑色の液体が入った小瓶を目の前で振った。

 『じゃがな小僧、これは若返りの薬なんて都合のいいもんじゃない。昔のお貴族様がそういうのを欲してやまなかった成れの果てさ。』

 『?』

 『不老不死なんてものは昔から権力者が欲していたものだろうが、それはしばらく見つかっていなかった。まあこれがある時発明されたわけじゃが、不老不死の薬ではなかったんじゃ。その本質は肉体の成長を止める薬。もちろん老化も止めれるから不老の薬というのは間違いないんだが、秩序とでもいうんだろうかねぇ。この薬を飲めるのは世界で1人だけなのさ。飲んだ1人が死んだら別の人が飲める。まあ気持ちの悪いことに死んだ人の血が次の不老の薬になるのさ。そんなことがわかってからはしばらく争いが起きたもんだ。やれあの人が飲んだ、それあの人が死んだ。そんなことが幾年も続いた。』


 『まあある時その血を啜ったものが誰にも行き先を告げることなくいなくなって、その話は闇に葬られたのさ。私がなんでその話を知ってるかって顔をしてるね。その最後の人が私の祖父なのさ。若い頃に薬を手にしたはいいものの、周りと時間の流れが変わることに耐えられず、隠れても寂しく、結婚もし子供も産んだがやはり嫁が老いていくのを見ていられない。病みに病んだ爺さんは家でこっそり毒を飲んで死んだのさ。婆さんが私にその話をしてくれてね。一緒にこの小瓶をくれたのさ。ずいぶん気持ち悪く思ってたものだが小僧のようにここにきたやつにその話をしていたら広まってしまったようでね。そろそろずらかりたいんだ。私は静かな余生を過ごしたいからね。何かの縁だ。これをお前さんにやるよ。』


 と言って婆さんの長い1人語りが終わり、小瓶を渡された。探し物も見つかったので家に帰ったが、机の引き出しに小瓶をしまってからしばらくはそのことを忘れてたんだ。

 大人になって引っ越しする時に見つけて夏のことを思い出したが、捨てるのもなんだか不気味でずっと持っていた。会社勤めになって、ちょっと嫌なことがあった時にふとその薬を飲んでみようと思ったんだ。

 で、飲んだ。変な味がして、普通にこのまま死ぬんじゃないかと思うくらいの熱が出て数日寝込んでたが、まあどうにかなったんだ。

 で、その頃からおじさんの見た目は変わってないのさ。ーーー


 確かに、おじさんはおじいちゃんと同じ世代にしてはちょっと若く見える。


 「おじさんが死んだら、不老の薬を飲むかい?」

 「いや、やめとくよ。なんだか気味が悪いし。」

 「ああ。その方がいい。長生きしてもいいことなんてないさ。タケルは今を楽しんで生きなさい。変な薬に縋るよりも、ずっとその方が幸せさ。」


 話を一生懸命メモしていたが、ちょっと現実離れしていて夏休みに研究にはできなさそうだ。

 何回かおじさんのところに通ってその話本当なの?と聞いてもそうだとも。としか答えてくれないし、確かめる手立てが全く思いつかなかったからどうしようもなくこのネタはお蔵入りした。




 ちょうど先日、駄菓子屋のおじさんの葬式があった。確かにおじさんは老けていないように見えた。火葬で、その血が不老の薬になっていたかを知る手立てはもうない。

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