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プロローグ

「電磁シールドオーバーヒート、ミサイルランチャー、残弾なし。左腕損傷、動作不能。機体破損率五〇%突破。戦闘続行、かろうじて可能」


 AIがそう告げた。


「なら十分だ」


 そう言ってから電磁シールド、ミサイルランチャー、そして左腕をパージする。

 左腕パージで、バランサーがイカレたが、バランサーは強引にAIに修復させる。


 その間に爆炎を割って、一気に四脚型へ接近。

 案の定、四脚型もタダでは済んでいなかった。

 近距離でミサイルの爆炎に巻き込まれたのだ。四脚型からオイルと人工筋肉用の冷却液が漏れている。


 あれだけの図体だ。動かすにも相当の冷却が必要になる。

 ならば、内部に熱を送り込み、その冷却液を漏らさせる。


 相手がオーバーヒートをしている瞬間に、零距離。

 残っていた右腕のブレードで、四脚型の首を切る。


 まるで血のように、人工筋肉の冷却液と培養液が飛び散った。

 そして、切った場所にブレードを突き刺し、そのまま一気にアサルトライフルを放った。

 銃弾が、なくなるまで。


 撃つ度に響く、空薬莢が四脚型に当たる、鋭い金属音。

 まるで、それがスローモーションのように、ハングドマン05には聞こえた気がした。

 そして、撃ち終わると同時に、轟音を立てて、四脚型が地に伏せた。


『……あ、お、空』


 ノイズ混じりに、四脚型のパイロットから通信が響いた。

 ブレードを抜く。


 同時に響くのは、気の抜けたパレードで聞くような、軽薄なファンファーレの電子音だった。


「ミッションコンプリート。おめでとうございます、勝者はあなたです。これで我が国家は相手国家より賭け金三〇〇億ゴールドと、十年分のワイズを獲得しました。我が国家の財政も潤うでしょう」


 AIがそう告げた。


 そう、これが、今の戦場だ。

 国家と国家による、賭け金の生じるゲーム。


 MAや兵器を戦わせ、勝ったほうがその国に金を払う。

 そして、それに使われているのは、囚人だ。相手もまた、それは同様だ。


「ハングドマン05、あなたの懲役についてですが、これで二〇年の返済に当てられました。完全に返済するまであと一二四五年となっております」


 ハングドマン05も囚人だし、今戦った相手もそうだ。

 ハングドマン05の場合、ちょっとした喧嘩で、相手を死なせてしまった、殺人犯。その時の自分は、ワイズの注入で空が赤くなってしまった状態である今のように、返り血で真っ赤だった。

 その殺人犯の刑期を少しでも減らすため、戦場に出続けている。


 戦い続けていれば、生きているうちにシャバに出られるかもしれない。

 そう思って、倫理観の麻痺した、合法的に人を殺せる唯一の場所、即ち戦場でMAに乗って戦い続けている。

 本当の名前も、すべて消されて。


 逆らったら、ワイズが爆発するように仕掛けられている。だから首輪付き。

 ワイズはそれ自体がエネルギー体だ。今や日常生活にすら欠かせない。

 それをもぎ取るためのゲームでもある。

 だが、接種で常時三〇〇を超える心拍数が起きる物質だ。いつ心臓が破裂するか分かったものではない。

 クソみてぇな世界だ。




「シーサイド、あんたに乗ってから、もうそんなに経ったのね」


 呆れたように、エンプレス24は呟いた。


 しかし、これは戦争といっていいのだろうか。

 大した犯罪でなかったとしても法外な反則金や罰金、懲役刑などがつけられた囚人による戦。

 どの国も囚人を兵士とし、それで戦争をしている。


 悪法も法だと、昔誰かが言っていたように、そんな悪法が、世の中のシステムとして支配するようになってもうどれだけ経つのだろう。

 それがいつ始まったのかも、もう誰も覚えていない。


 それでも、自分が何故囚人になったかはハッキリと覚えている。

 駐車違反で出された反則金が原因だ。その額は自分の生涯年収の二〇〇回分を優に超えている。


 それを返済したければ戦え。そうでなければ死ね。


 それが国から突き付けられたルールだった。


 夕焼けの空が見られなくなるのは、嫌だった。

 家族で、よく夕焼けの海を散歩した。父母はもういないが、自分にとってそれはかけがえのない思い出だ。

 その夕焼けの空をもう一度見たい。そう思ったから返済できる可能性に賭けて、戦場へ行くことにした。


 そんな自分の心情と裏腹にこのクソくだらない戦を、ギャンブルや残虐ショーとして勝敗を見る国家。

 クソくらえだと、心底思う。


「ねぇシーサイド。今からここ破壊して自由になろうか?」


 そんなことを小声で呟くが、すぐにシーサイドは


『マスター。それはルールに違反しています』


と、当たり前のルールを言ってくる。

 こうしたパイロットのことは『首輪付き』と呼ばれることがある。その呼称は、自分がリードに繋がれた犬だと気付かされるには十分だった。




 ワイズを注入されて以降、ハングドマン05の視界が変わった。

 これまで青かった空だけが、赤く見えるようになった。


 まるで、血のような赤。


 夕暮れの赤とは違う赤。




 偶然発見された未知の物質『ワイズ』を、人間に注入することで用いて動く人型兵器『MAマルスアーマー』。

 ワイズを打つことで見ることになる、血のような赤い空の元、MAを用いた戦場で、戦い、生きて、死んで、その世界で生きる囚人兵達のドラマである。

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