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最初のフラグ回避と王太子の驚愕

いよいよ運命の入学式。原作ヒロインとの最悪の出会いを回避すべく慎重に行動するも、運命は容赦なく私を試す。破滅か、それとも…? 咄嗟の判断が、冷徹なはずの王太子の視線を変える。

エルドラント王立魔法学園の大講堂は、新入生たちの期待と緊張の熱気に満ちていた。高い天井には魔法光がちりばめられ、まるで星空の下にいるかのような荘厳さだ。私は公爵令嬢として最前列の席に案内されたが、心臓は早鐘のように鳴り響き、冷や汗が背中を伝う。


『ここでヒロイン、エマ・ブライトンが遅れて駆け込んでくる。そして焦るあまり、リリアナの足元で派手に転んでしまうんだ』


原作のシナリオが脳裏をよぎる。そこでリリアナは「汚らわしい平民が、私の視界に入らないでちょうだい!」と罵倒し、周囲の貴族生徒と共に彼女を嘲笑う。それが、全ての破滅への序曲だった。


「絶対に回避する……!」


私は人混みを避け、壁際の目立たない場所へ移動しようと試みる。しかし、ゲームの強制力というべきか、運命のいたずらか。私の目の前で、まさにその瞬間が訪れた。桜色の髪を揺らし、「すみません、通してください!」と慌てた様子の少女――間違いなくヒロインのエマが、バランスを崩して大きく体勢を傾けたのだ。

周囲の時間がスローモーションになる。彼女が床に倒れ込み、悲鳴が上がり、私が嘲笑の言葉を口にする。そんな破滅的な未来予想図が脳裏に閃いた瞬間、私の体は思考より先に動いていた。


「――風よ」


短く、しかし明確な意志を込めて囁く。私の指先から放たれたのは、攻撃性の一切ない、極めて精密に制御された魔力の流れだった。それは柔らかな突風となり、エマの体を優しく包み込む。倒れ込むはずだった彼女の体は、まるで羽毛のようにふわりと浮き、やがて何事もなかったかのようにそっと床に足をつけた。


「え……?」


何が起きたかわからない、といった顔で目を丸くするエマ。私は作りうる限り最も優雅な笑みを浮かべ、彼女に手を差し伸べた。


「お怪我はありませんこと? 急いでいらっしゃったようですけれど、お気をつけにならないと」


講堂内が、水を打ったように静まり返る。誰もが予想していた展開と真逆の光景に、言葉を失っているのだ。エマはしばらく呆然としていたが、やがてハッと我に返り、顔を真っ赤にして深々と頭を下げた。


「あ、ありがとうございます! ごめんなさい、私……!」


「いいのよ。席が空いているわ。こちらへどうぞ」


私はエマの手を取り、自分の隣の席へと導いた。周囲の貴族生徒たちの驚愕と戸惑いの視線が突き刺さるが、知ったことではない。最初の、そして最大の破滅フラグは、今、見事にへし折られたのだ。安堵のため息をついたその時、私は感じた。壇上の貴賓席から放たれる、射抜くように鋭い視線を。

恐る恐る視線を上げると、そこにいたのは、この国の王太子であり、リリアナの婚約者であり、そしてゲームのメインヒーローであるアークライト・ノア・エルドラントだった。氷のように冷たいと評される青い瞳が、驚きと、そしてこれまで私に向けられたことのない種の――探るような、強い興味の色を帯びて、真っ直ぐに私を見つめていた。

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