表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

ー1ー



「やっと魔王をやっつけたわね!乾杯ー!」


 クレアが明るく盃を掲げる。深い森のなか焚き火を囲み、旅の仲間が顔を揃えていた。



「世界を救った英雄よ、すごいわよね」

「……ああ、どんな褒美がもらえるかな」

 クレアの言葉に、戸惑いがちにフェリクスが応える。

「あの王様はケチだって司教さまが言ってました。期待はできませんよ」

「アリシア、それは不敬だから───」

「本当のことです」

 嗜めるライリーを切って捨てアリシアはみんなに向き直る。

「さて、これでわたしたちのお役目も終わりです。色々とぶっちゃけてしまいましょう!」

 聖女の言葉遣いが下町育ちのクレアたちに影響されてしまった。教会の重鎮からの叱言を予想し既に憂鬱なライリーが、八つ当たりのようにアーヴィンに言い放つ。

「まずリーダーに手本を見せてもらおう」


「え、ぶっちゃけ……、って俺?」

「そう。全部終わったんだもの。言いたいことあるよね」

 クレアとアリシアがにまにまと目で催促してくる。


「いやいや! 無理無理、無理だから!」

 闘いでは頼りになるアーヴィンだが、日常で女性陣に勝てた試しがない。

「それは明日が終わってから……!!」

 アーヴィンの言葉を遮り、チッチッと人差し指を動かしてクレアが宣う。

「こらこら、あたし達はもう()()()()()()けど、明日でも何があるか分かんないよ。フェルが転んで頭打ったり底なし沼にはまったり」

「おい! 僕がそんなヘマをするか!」

「似たような事はしてたでしょ、いくら大魔道士様でも運動神経は……ね?」

「そのニンジンみたいな髪でも燃やすか?」

「ちょっと二人ともやめようか」

 見かねたアーヴィンが間に入る。本気ではなくじゃれ合いだとは判るが、舌戦が続けばフェリクスの精神が削られるだけだ。


「せ、聖騎士さま……ライリーさま! わたしはその、あの、───、あなたの妻にして下さいっ!!」

「!?」

 空気を読まず、唐突に告白したアリシアにみんなが驚く。

「お付き合いすっ飛ばして求婚!? 聖女様、アリー、落ち着いて!」


 全く想像もしていなかったらしく、しばし固まっていたライリーが堰を切ったように喋りはじめた。

「あ、いや、私は歳で男やもめで娘も大きくて、教会からあなたの世話役を申しつかっておきながら聖女様を娶るなどそんな、孫のようにあなたを愛おしむあの方々が許す訳が」

 焦りながら早口で話すライリーなど初めてだ。落ち着いた普段の姿からのギャップに、アリシアは一段と思慕を深める。

「全て終わった今、わたしは聖女ではありません。アリシアです! ライリーさまとの差はたったの二十一ですっ。娘さんも大事にします! わたしのこと好きですか嫌いですか!?」

「き、きらうなど」

「では良いですよね!?」

 普段淑やかな風情のアリシアがぐいぐいと押している。誰かが無茶をしたあと治癒を施す際に見せるような、逆らえない迫力があった。

「良かった。みなさん式には来てくださいね。わたしかライリーさまの故郷でします」


 え、ライリー返事してない……とアーヴィンが呟いたが聖女らしい笑顔でスルーされる。


「あーあ、フェル可哀想。振られちゃって」

「だから! なんで僕が聖女を好きだと思うんだ!!」

「泣くな泣くな。やけ酒付き合うから」

「泣いてない! ほんっとお前はなあ」


 またクレアたちがやり始め、きりがないなと溜息をついたアーヴィンが傍らのエルフに話しかける。


「セレスは、まだ未分化なんだろ」

 その通りなのでセレスは頷く。エルフとしては赤子に分類される若さで、実年齢は仲間と同じくらいだ。

 長い銀髪に紫の瞳の神秘的な美しさが、性別を曖昧にしていた。


 この世界のエルフは無性で産まれる。何もしなければ成人した辺りでどちらかに分化し、強く願えば希望する性に変わるのだ。

 その仕組みから、誰かを愛して性別を決めることが多い。


「エルフって不思議だな」

 そう言われても自分はこれが普通なので、特に返す言葉はない。


「セレ」「アーヴィ」

 同時に互いに話しかけて止まる。何故か色々な場面で行動が重なる、ふたりの間でよくある出来事だ。


 お先にどうぞ、の仕草をセレスが見せれば、咳払いをしてアーヴィンが改まった。


「えーと、その、さ───、全て終わったら、じゃなく、終わったんだけど、、、あの……、その」

「うん」


 口元に手をやり唸ったあとに頭を掻いたと思えば、項垂れて諦めたようにぽつりとこぼす。

「……やっぱり俺は明日言うよ」

「そう」

「セ、セレスも何か言おうとしてた?」

「明日にする」


「………」

 気づけばふたりに注目が集まっていたらしい。かぶりを振りながら大げさに溜息をつくクレアと、物言いたげにふたりを見る仲間たち。



 

 セレスは手のなかの水晶を大事にそっと握りしめ、炎に揺れる彼らを見続けた。焚き火の向こう、ひとりひとりの全てを眼に焼き付けるかのように。



 今代の勇者パーティー。


王国騎士団不動の盾、聖騎士ライリー。

五属性持ちの天才魔導士フェリクス。

罠破りと支援魔術を得意とする盗賊クレア。

神に愛され治癒魔法を極めた聖女アリシア。

様々な特殊魔法で仲間を助ける精霊の愛し子、エルフの精霊士セレス。

そして勇者アーヴィン。



 彼らでなければ不可能と言われた魔王討伐を、パーティーは成し得た。

 彼らは確かに、やり遂げたのだ。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ