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029

作者: 月子

僕が何気なく開発した人の気持ちが分かる薬「029」…まさかこんなことになるなんて…。


西暦30XX年。科学の時代。全ての事が機械で出来、人が自ら何かをすることなどほとんど無くなっていった。人の変わりに何でもするロボット、多機能な機械…人は機械にまみれた生活をしていた。こんなに豊かな生活を手に入れたのに人は貪欲な生き物で、まだ開発をしている。今開発されているのは人間の感情をコントロールする薬。人は機械を手に入れただけじゃ飽きたらず、人は人までも手に入れようとしている。そんな開発チームに参加していた僕は人の気持ちが分かる薬「029」の開発に成功した。動物実験も成功して、いよいよ商品化に。ただ僕が気になったのは、一日の投与数を増やしたマウスが痙攣を引き起こし、死んだことだ。他のマウスには何ら異常が無かったのに、このマウスだけ…。何かあっては困るので、一日の投与数を三回にするように使用法には書き、副作用の危険があることも書いた。

そんな不安だらけの中「029」は発売になった。「029」は発売前から凄い噂になっていた。発売されてすぐ完売になる店が続出。僕たち開発チームは製造に追いやられた。作っても、作ってもキリがなかった。人はどうして人の気持ちを知りたがるのだろうか…。

僕たちが製造に追われている中、一本の電話がなった。

「029の大量服用により死人が出た」

と。僕たちの過失は認められなかった。投与回数も副作用のこともキチンと書かれていた。僕たちはその死人のことを詳しく調べた。その死人の部屋には大量の「029」が…。調べていくとその死人は死ぬ間際幻聴が聞こえていたらしい。「029」を大量に服用すると幻聴が聞こえるのか…。僕たちは「029」の正しい使い方をあらゆるメディアを通して知らせた。一日一回はどこかで「029」の使い方を耳にする程流した。もう二度とこんな被害者を出さない為に…。

それでも死人は続出した。人の心を知る為に自分の身を犠牲にする。何故?僕は一度も「029」を使ったことが無かった。開発者でありながら一度も使わなかった。開発した僕が一番怖かったのだ。「029」が…。自分が死ぬかもしれないということを分かっておきながら、使う。僕には信じられないことだ。どうしてそんなに人の気持ちが知りたいんだ…どうしてそんなに「029」に依存するんだ…。僕には理解出来なかった。

しばらくして「029」の製造は中止され、店にある「029」も回収された。遅すぎる処置だった。最初に死人が出た時点で中止するべきだった。これで平和が訪れたと思っていた…。

回収された「029」は研究所の倉庫に保管されていた。僕は何故こんなに死人が続出したのか一人で研究していた。この薬に中毒性はないはずなのに…。僕は何かミスを犯したのだろうか?

ある日倉庫に「029」を取りに行ったら心無しか数が減っている気がした。気のせいだと思い、放置していたがやはり気のせいでは無かった。明らかに減っている。誰が持ち出しているんだ?これはこの世に出回ってはいけない薬…。倉庫に隠しカメラを設置して、犯人を探すことに。次の日見てみたら僕たちと一緒に「029」を開発した研究員の安西の姿が映っていた。

安西を研究所に呼び出し、問い詰めた。

「この薬は…神になれる薬なんです…」

安西の話によると知り合いに「029」を売ってくれとせがまれ、小遣い稼ぎのつもりで売り始めた。「029」に依存していた人たちがその噂を聞きつけ、安西から「029」を高値で買い取っていった。安西も僕と同じで「029」を使ったことが無かった。だから安西は不思議でしょうがなかった。何故この薬をみんなが欲するのか…。気になったので、「029」を服用してみたらしい。

「飲んだ瞬間…神になれたんです。人の心が手に取るように分かる…あの快楽と言ったら…」

安西の恍惚とした顔…。そんな力があったのか…。それからは自分が飲むために「029」を盗っていたらしい。

安西はかなりの「029」中毒者。これ以上飲んだら、安西は死ぬかもしれない。安西には「029」の服用を禁じ、安西の手に渡らないように「029」を自宅に持ち帰った。

安西の言葉が頭から離れなかった。「神になれる薬」…僕はそんなスゴい物を開発したのか?神に…なれる…。僕は「029」を手に持ち、口に運んだ。「029」を飲んだ後街に出掛けた。街にいる全ての人間が何を考えているか分かる。心の声は鼓膜を揺らさない。直接脳に届く。脳に声が溢れている。何なんだ…この感じ…人間を支配したような感覚…そうか…これが神ということなのか…。僕は神になったんだ…。

それからの僕は「029」の服用続けた。最初は一日三回の投与を守っていたが、服用を続けていると「029」の耐性が出来るのか、すぐに効果が無くなるようになった。神から人間に変わる瞬間の絶望感と言ったら…。僕は神であり続ける為に量を増やした。四回、五回、六回と…。僕は誰よりも「029」に溺れていった。

その内本当に神の声が聞こえるようになった。

「君は人間の姿をした神だ」

「君は神の子だ」

「君は最も神に近い存在だ」

やっぱり僕は神なんだ…。


「029」が無くなった…


大丈夫


僕は開発者だ


いくらでも開発出来る


もうすぐ切れる時間だ


飲まなきゃ…


飲まなきゃ…


飲まなきゃ…


もっと飲まなきゃ…


もっと…


もっと…


僕が神であり続ける為に…



~*~*~


「本日ご紹介する商品はこちら。何と飲むと人の気持ちが分かっちゃう薬、029です」






人は何故人の気持ちが知りたいのだろうか?


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