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1.クラス転移は突然に

「く~~やっと昼休みだ。朔は今日学食か?」


「いや、朝コンビニ寄って買ってあるから教室」


 そうかと言うとクラスメイトで友人である相澤(あいざわ) 陸斗(りくと)が朔の座席に近づく。

 陸斗は高校に入学してからすぐに意気投合して会話するようになった。

 出会ってから一年半ぐらいだが親友であると言える。


「私たちも一緒していいかな?」


「よっすー」


「あぁ。全然いいよ」


 朔と陸斗が会話をしていると二人の女生徒が話しかける。

 一人は朔の小学校からの幼馴染の浜瀬(はませ) 藍花(あいか)だ。

 家が近所ということもあり昔はよく遊んでいた。

 中学生辺りから二人で遊ぶことはなくなってはいたが交流はあった。

 朔も所属する二年二組の学級委員長で人当たりが良く誰にでも優しい藍花はクラス内外を問わず人気者だ。


 そんな藍花といつも一緒にいるのが秋麗(しゅうれい) 静奈(せいな)は朔と特別仲が良い訳でもないが藍花とセットで行動しているため話す機会も多かった。

 藍花の落ち着いた清楚な外見とは変わって、金髪で派手な外見をしている。    

 静奈の性格も相まって金髪ギャルとして有名だ。


「もうすぐ文化祭だね。朔君なにかしたいことあるの?」


「俺は、そうだなお化け屋敷とかかな一度は作ってみたいかな。静奈さんは?」


「あたしもお化け屋敷やってみたいかもやっぱ王道っしょ」


「俺は飲食店なら何でもいいかな」


「陸斗はつまみ食いしたいだけだろ」


 陸斗がバレたと言うと四人が笑いに包まれる。

 その様子を見て朔は充実した高校生活だなと思う。

 


「ねぇ、あれなに・・・?」

 楽しそうに笑っていた藍花の顔が一瞬にして困惑の表情に変わった。

 藍花が指をさした先の黒板に血液にも見える赤い文字が刻まれる。

 全く知らない言語、言語なのかすら怪しい。

 歴史の授業で学んだ古代文明の文字に近い。

 黒板の周りには誰一人居ない。

 怪奇現象や超常現象といった説明不能な状況が今まさに目の前で起きている。

 当然クラス中が混乱し、悲鳴を上げるものもいる。

 教室から逃げ出そうとした生徒もいたが扉がピクリとも動かない。

 黒板の文字の進行が止まると同時に床一面にまるで魔法陣を描くように広がった。


「これは・・・まじでやばいかも」


 完成されたと思われる魔法陣は赤い光を放ちクラスにいた全ての生徒を飲み込んだ。


 ____


「・・・・おい・・・おい・・起きろ朔」


 意識の外側から聞こえていた声が段々と内側へと侵食していき朔の意識に届く。


「あ、あぁ陸斗か・・・。ここは・・・」


 目が覚めて辺りを見回すと全く身に覚えのない場所に倒れこんでいた。

 先ほどまで教室で談笑していたはずなのに。

 朔より早く目覚めた者たちも居たようで当然皆、混乱していた。


 両側を見ると木製の長椅子がずらりと並べられていた。

 その様子を見て真っ先に思いついたのが教会だ。

 前方に目をやると案の定十字架が掲げられている。

 装飾品も一つ一つが繊細で神秘的ではあるのだが何故かどことなく不気味さを覚えた。


「二人とも大丈夫?」


「うん。俺は大丈夫。藍花たちは?」


「私たちも大丈夫だよ。ここどこなんだろう・・・」


「どんくらい意識失ってたかわかんないけど少なくとも日本じゃないだろうね外みてみ」


「雪降ってる・・・」


 静奈が指をさした先にあった長方形の窓の外には雪が降っていた。

 九月である日本の気候を考えれば雪が降るなんてまずない。

 理解できない出来事の連続で脳が情報を処理できなかった。


「皆さんお目覚めになりましたか」


 どうにか整理しようとしていると正面から修道服を身を包んだシスターや鎧を纏った騎士たち数名が歩み寄ってきた。


「ここは一体どこなんでしょうか。私たち教室にいたはずなんです」


 クラスを代表して学級委員長である藍花が質問を投げかける。


「その質問には私が答えよう」


 そう言って入ってきたのは煌びやかな装飾品を身に着け高貴な服装をした男だ。

 男が現れるやいなや周りにいた人間が膝を地に着きこうべを垂れる。


「ここはベナウェースト王国の大聖堂だ。そして私はこの王国の国王、サライグ・ベナウェーストだ」


(言われてみれば確かにいかにもな見た目だけど聞いたことがない国名だ)


「諸君がここに呼ばれたのは魔導士を集め転移の魔法を使用したからだ」


「我々からすれば諸君らは異界の地からやってきた転移者といったところだ」


 話は理解できても納得するかはまた別の話だ。


「そんなん急に言われて納得できねえよ。魔法だとか転移だとか何言ってんだ?」


 クラスのお調子者、オブラートを溶かせば問題児である一人の生徒が当然である反論をする。

 話を静かに聞いていたほかの生徒達も便乗して声は大きくなる。


「貴様ら王に向かって無礼だぞ」


 騎士の一人がそういうと腰に帯刀した剣に手を掛けた。

 その騎士の胸には多くの勲章が並べられていた。

 騎士の威圧感に圧倒され騒ぐように文句を言っていた全員が口を紡ぐ。


「よい。当然の疑問だろう。詳しく説明しよう」


 国王がそう言うと一人の魔導士に魔法を放つよう指示した。

 指示を受けた魔導士が詠唱をすると、手に持った水晶からこぶし大の氷の塊が放出された。

 氷が飛ぶだけならマジックのようにタネや仕掛けがあるのではと考えたが、空中に浮かんだ文字がそれを否定した。

 その文字は黒板や床に広がった文字と酷似していた。


 その時初めてクラスの全員が本当に異世界転移してしまったのだと認識した。


「確かにここが別世界だって理解はしましたけどなぜ私たちが呼ばれたのでしょうか」


 藍花が丁寧な言葉で王に再度問う。


「諸君らが意図的に選ばれた訳ではない。偶然であるとしか言えない」


(意図的じゃないってことは無作為に俺たちが選ばれた、あるいはその座標って感じか)


 一個人ではなく二年二組の教室に居た生徒を転移させていることからそこの座標が選ばれたのだと解釈した。


「別世界からの転移者を呼んだ理由は、大迷宮アヴェントを攻略してほしいからだ」


 朔が想像していたのは魔王を倒してほしいとか魔物から国を守ってほしいなどというありがちな話だったので少し拍子抜けした。


「迷宮には膨大な資源が存在する。国の繁栄のためにはそれらが重要なのだ」


 迷宮内には魔物が出現してそれらを討伐することで魔石と呼ばれる魔物の核や様々なアイテムをドロップする。

 それだけではなく迷宮内には鉱石や薬草など多くの資源が存在するらしくそれらを集めて国を発展させたいということだ。


「転移者には強力な加護が備わっている。諸君らが協力してくれれば攻略の速度も格段に上がるはずだ」


「それに迷宮の最深層には帰還の魔法具も存在する」


 その言葉を希望と捉えた人物もいれば当然そうでない人物もいた。


「おかしくねーか。勝手に呼び寄せて、元の世界に戻る方法自分たちで探せって?」


 朔も正直そう思っていた。

 そもそも正しい情報かも曖昧である。

 元の世界に戻りたいなら命を懸けてアイテムを取りに行け、そんな風に撮れえることもできる。

 ただそれは現状を嘆き悲観するだけで意味のない主張でもある。


「でも元の世界に帰るには迷宮?に行くしかないんじゃないかな?」


「あたしもそう思う。ここでグズグズしてたって一生帰れないじゃん」


 藍花と静奈の二人が発言すると確かにその通りだと同調する人物が増えた。

 彼女らはクラスの中心人物でもあったからこの結果にも頷ける。


 全員が全員納得していたわけではなかったが全体の考えとして迷宮を攻略し帰還の魔法具を探そうという形におさまった。


「協力に感謝する。諸君らの生活で必要なものは全て私が出す」


(異世界での衣食住は保証されたらしいな。まぁ勝手に転移させたんだから当然のことか)


 異世界転移させられた二年二組の生徒達は大迷宮アヴェントの攻略を目標に定める。


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