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VTuber、今日も頑張る

作者: サチ

 テレビ離れが急速に進む昨今の日本。今最も強いメディア媒体と言えばYouTube含めた配信サイトだろう。古のニコニコ動画ももちろんだが、最近ではTwitchなども普及しており、比較的簡単に配信者としての活動をスタートさせることも出来る。

 そんな配信一強時代において完全な1つのジャンルを確立した人達がいる。

 virtualの体を持つYouTuber。

 彼、彼女等の事を世間はこう呼ぶ。



 VTuber、と。




◆◆◆




 VTuber飽和時代の現代、企業勢VTuberが跋扈し牛耳るこの業界で唯一と言っていいほどの輝きを放つ個人勢の希望の星がいた。

 彼女の名は「万極絢鬼」。

 見た目は角の生えた鬼、顔は愛くるしい少女。体型は変化の術で大人モードと通常モードの使い分け、新衣装は現代風のものから昔のものまで、とまず見た目で他に劣ることが少ない。

 加えて彼女の武器はその口調だろう。昔の作り話に出てきそうな古典的な喋り方。語尾が「〜じゃよ」や一人称が「わっち」などキャラクター性が完成されている。

 そこにさらに加えて彼女の声質も素晴らしいスパイスとなっている。柔らかい包み込むような声。鬼とは言うけれどどこか天女のような優しさを孕んだそんな声。寝ながら聞いていると安眠効果も得られそうなそんな声質なのだ。

 さて、そんな彼女は個人勢ということで万極絢鬼に関わる全ての業務を1人でこなしている。企業からの案件や他事務所のVTuberとのコラボの打ち合わせ。はたまた新規衣装の依頼や、税金関係のあれやこれやなども。

 事務所所属のVなら全てマネージャーにお願いできる仕事の全てをだ。

 当然これだけの仕事量、配信時間も平均3時間という事もあって中々に過酷な生活を送っている。その代わり収入面ではかなり良いのだが。けれど時々人の生活を捨てたような生活スケジュールのようになってしまい、ファンのリスナーに心配されることも少なくない。

 そんな彼女は今日も配信開始のボタンを押す。

 とは言ってもまずは待機画面から。ここではオリジナルBGMに加えて依頼して作ってもらった簡単なループアニメーションを再生している。この時間は絢鬼自身のコンディションを整えると同時に、リスナーの集まりを確認する場でもある。


「うん、今日もいい感じにみんな来てくれてる」


 初期の頃は全くと言っていいほど人が集まらなかった。その頃から事務所所属のVTuberの勢いは凄まじく、正直なところを話せば絢鬼はどちらかと言えば出遅れた方だろう。

 しかし、そんな逆境を覆すほどの魅力が彼女にはあった。だからこそ今では100万人を超える登録者のいる大人気VTuberになれたのだ。

 待機画面を解除しついに配信画面に彼女のアバターが登場する。彼女はルーティンとして決めていることがある。


『今日もいい笑顔!』

『可愛いー!』

『今日の配信は何時まで?』

『うぉー!この前出した新衣装だー!』

『ホラゲ祭りだァ!』


 爆速で流れるコメントの中彼女の笑顔を指摘するコメントが散見される。

 そう、彼女のルーティンとは必ず満面の笑みで登場することなのだ。この笑顔が非常に可愛く、アバターのもちもちほっぺたが強調されてなお可愛らしく映るのだ。彼女が人気になった理由の一つだろう。

 そしてもう1つのルーティンがある。


「みんなー!今日も今日とてのんびりまったり配信日和!万極絢鬼の配信が始まるぞよー!」


 この独特な挨拶こそが彼女のルーティンだ。

 多くのVTuberは端的に自分のコンセプトや特徴を使った挨拶をするだろう。しかし彼女は違う。この長ったらしくも間延びしたようなのんびり挨拶こそがファンを魅了する彼女の武器なのである。


「今日はホラゲ配信じゃ!……といってもわっち鬼だから全然お化けとか怖くないけどね!」


 絢鬼のセリフに対しコメントが多く流れ始める。


『嘘つけやい』

『この前泣いてたじゃん笑』

『本当はビビりなくせに〜』

『ホ・ラ・ゲ!ホ・ラ・ゲ!』


 彼女を追ってきたリスナーなら全員承知の事実。鬼なのにビビりな万極絢鬼の配信。煽りコメントが多く流れる中で絢鬼お決まりの返しが炸裂するのだ。


「う、うるせいやい!!」


 お決まりのノリのようなものでこれに対してもファンは『はいはい、そうだね』といった素っ気ない返事だけで済ませてしまう。この空気感が好きだというリスナーも少なからずいるだろう。


「む、むぅ……と、とにかく始めるぞ!今日は「写るんです」とかいうホラーゲームじゃ!」

『あー、めっちゃ怖いやつだ』

『それ知ってる』

『なんだっけ、恐怖の森の作者さんと一緒なんだっけ?』

「え、あの恐怖の森の作者さんと一緒なのか!?」

『あ、この前やった恐怖の森で大絶叫してたもんね』

『あれより正直怖いから失神しないか心配笑』

「心配しながら笑うやつがどこにいるか!」


 タイトルコールだけでこの盛り上がりだ。本題のゲームを始めるまでに既に10分ほど経過している。


「と、さっさと始めなきゃつまらんな。さぁ!強くてニューゲームじゃ!」


 そう言って新しく始めるのボタンをクリックする。


「んーと?操作方法は恐怖の森とほとんど同じ感じなんじゃね。カメラ酔いするかもしれないから、困ったら右下のわっちのことを眺めておいておくれ。可愛さで酔いなんか吹き飛ばしちゃる」

『そうだねぇ、可愛いねぇ』

『この前みたいにビビりすぎて、間違えてアバター消さないでよ?』

「安心せい!多分大丈夫じゃ!」

『不安だぁ』


 そんな呑気なやり取りをしながらチュートリアルを一通り終える。


「ん?鼻歌?」


 どこからともなく聞こえてくる鼻歌。若干の不気味さを感じながら彼女はこのゲーム最大の特徴であるカメラのフラッシュを使用した。すると突如目の前に現れる人影。いや、人ならざるものの姿が映し出される。


「おぉ……少しだけ驚いたがこの程度か。なんじゃ!このくらいならちょちょいのちょいでクリアしてみせるぞい!」

『いや、そいつ癒し枠……まぁいっか』

『フラグ回収楽しみ』

「ふっふっふ〜、今回は騙されんからのう!」


 自信満々にそう語る彼女は一旦僅か数秒後に響く化け物の叫び声で大絶叫を繰り出すのだった。



◆◆◆



 配信時間の3時間を大きく超過した5時間後、彼女の配信はようやっとエンディングを迎えることが出来た。


『ホラゲ苦手なのに全ルート回収して偉い』

『よしよししてあげよう』

『スパチャで殴るのもありだぜ』


 などなどリスナーからのお疲れ様の声が沢山届く。

 かくいう彼女はモニター前でヘッドホンを首にかけながらぐでんとへたり込んでいた。


「想像以上にしんどいし疲れるし怖いし……なんじゃこれ、作者さんは天才か何かなのか?」


 疲れで若干震えた声をマイク越しに全国にお届けする。


「ま、まぁでもクリアはできたし……こ、今回はここまでにしようか。スパチャも沢山ありがとうのう!またスパチャ読み雑談も行うからその時を楽しみにしとっておくれ!よしっ、お前らー、歯はちゃんと磨いてから寝るんじゃぞ〜!ほな、またの〜」

『おつかれ〜』

『またあした!』


 いつも通りの決まり文句を言ってから彼女は配信画面を閉じる。

 急に静かになった部屋。といってももとより彼女の声しかこの防音室には響いていなかったのだが、コメント欄の賑やかさが彼女をある種の錯覚に陥らせていた。


「ふぅ、疲れたぁ」


 配信を終えた彼女はいつも通り誰とも変わらぬ一般ピーポーになる。

 少し怠惰で、鈍臭いところのあるただの女性だ。けれどその可愛さはアバターの万極絢鬼と比べても遜色ないだろう。

 彼女は配信を終えるといつもコンビニに出かける。

 最近はその行きしなに出会ったお隣さんと話すのが密かな楽しみだ。どうやら彼女、万極絢鬼としての彼女のリアルファンらしい。とは言っても正体をばらしてはいないのでそのお隣さんには気付かれていないけれど。


「あ」


 今日もそのお隣さんをエレベーター前で見つけた。少したるんだジャージ姿でほんの少し生えた青髭が目立つ。眠そうな表情がどこか可愛らしい人だ。


「お、おはようございます」

「んぁ、おはようございます。今日も寒い……ふあぁ……ですねぇ」

「ですね。もうすぐ11月になりますもんね、朝は寒いです」

「昼はまだ暑かったりするんですけどね、おかげで服装が難しい」

「ふふっ、私もよく悩みます」


 なんて何気ない日常会話をする。

 この何気ない会話が最近の彼女の配信のモチベーションそのものだ。


「今日もコンビニ行かれます?」

「はい。なにぶん晩ご飯を食べれてないもので……いやまぁもう朝なんですけどね」

「そうですね。夜ご飯は私もたまにスキップしちゃいます」

「意外としますよねぇ、忙しかったり眠いとなおさら」

「はい」


 隣合って歩きながらマンションからほど近いコンビニに着いた。店内に入ると一旦ばらばらに買い物をするのだが、購入を終えたあとは示し合わせたわけではないがどちらともなく入口でいつも待っている。


「すみません、おまたせしました」


 今日は彼の方が早い。


「いいえ〜。さ、帰りましょうか。そろそろハトが鳴き出しそうだし」

「そうですね。急ぎ足で戻りましょう」


 別に急ぐことになんの意味もない。

 ちょっとしたいつもの日常の思い出作り。

 2人して小走りしながら帰る道はいつもよりも楽しい。競争する訳じゃないがマンション自動ドアまで走りきって「ゴーール!」なんて言うのが楽しいのだ。


「それじゃあまた」

「はい。また」


 友達とも違うお隣さんの距離。約束していつも会ってるわけでは無いので正直次があるのかは分からない。だからこそ、祈りを込めた「また」の挨拶。

 背を向けて部屋に帰る彼を見送ってから、彼女もまた部屋に帰るのだった。


「今日の夜も頑張ろっと!」


年が明けました。みなさんお年玉は貰えましたか?作者はギリ20歳なので最後のお年玉を貰うことが出来ました。来年も諦めずいとこからかっぱらいたいと思います。目指せ100万円。

なんてお話は置いておいて、今回はVTuberが題材のお話でした。といっても過去に出した短編に出てくるVTuberと一緒なんですけどね。視点がお隣さんからVTuberサイドになっただけです。時系列は今回の方が後ですけどね。

さて、ここまで書いておいてなんですが、今回は楽しめたでしょうか?作者は書きながら「明日の学校いつもより早いんだよなぁ!なのにもう朝の五時」なんて思いながら後書きを書いています。みなさん早寝は大切ですよ。夜更かしは程々に。

面白いと思っていただけたなら幸いです。

後書きってみんなあまり読まないと思うんですけど、作者はなんか沢山書いちゃうんですよね。自我を出せるからかしら。っと、そろそろ締めなきゃ。明日遅刻……いや今日の朝遅刻しちゃう。

それではまた次回お会いしましょう!そいじゃ!

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