8話
「なんだと!!」
「残念でした〜」
男の貫手を食らった私は全くの無傷だった。その事実に男は面白いぐらいに動揺している。
「僕の攻撃が……あり得ない! おまえ何をした!?」
「別に何もしてないよ」
「バカな! そんなわけないだろ!!」
「いや、本当に私は立ってただけだよ」
「ま、まさか…!」
「多分あんたの想像通り。あんたごときの攻撃じゃあ私の放つ魔力を突破出来なかっただけ」
この世界は魔力量がものをいう世界だ。極端な話し相手との間に圧倒的な魔力の差があれば全ての攻撃を防ぐことが出来る。
この男は相当自分の力に自信があったようだから、まさか自分の攻撃がこんな形で防がれるとは思って無かったんだろう。
「それじゃあ、今度はこっちから攻撃しようかな」
自分の攻撃が効かず呆然としいた男。だが、私が攻撃しようとするとすぐに我にかえりこの場から離脱しようとする。
しかし、時すでに遅く私の右ストレートが男の顔面に直撃し男は血を吐きながら勢いよく背後にある木に叩きつけられる。
「グハッ…!」
「弱っ…弱すぎて可哀想になってきたわ」
・・・
「ふざけんなよ!!」
(クソクソクソクソクソクソ)
一条智紀は怒り狂いっていた。自分が見下ろしていた相手に手も足も出なかった。そして、そんな自分を相手の女が見下ろしていることに。
「まだ終わってねぇ!! 勝手に勝った気になりやがって!!」
「なんか言った? 雑魚がなんかほざいていた気がするけど気のせいだよね? まさかそんなボロボロの状態で私に勝てるとか思ってないよね?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて煽る朱莉。その目は完全に相手を舐め腐っている。
(ふざけんな! ふざけんなよ!)
「そうだ!」
良いこと思いついたという表情で朱莉はさらに挑発を続ける。
「もう一回私に攻撃させてあげようか? 弱すぎて哀れだし」
「いい加減にしろよクソ女!! 僕を舐めるのも大概にしておけよ!」
「それは無理。だってアンタみたいに強いと勘違いしてる雑魚をイジるの楽しいもん」
一条智紀はクズな性格とは裏腹に強くなるための努力は惜しまず幼少時代から鍛錬を続けてきた。
本人も最強とは言わずとも同年代ではTOP3に入るぐらいの実力はあると考えていた。
しかし、蓋を開けてみたら同い年の相手に圧倒的な差を見せられて自分は起き上がれずにいる。
その真っ赤に燃えるような怒りが一条智紀を次のステージに導いた。
「僕を見下ろすな!!」
先ほどの戦闘とは比べものにならないぐらいのスピードで一直線に朱莉に向かって突撃し、彼が生きてきた今までの人生の中で最高の一撃を朱莉に向けて放った。
「死ねやカス!!」
(これなら殺れる! さっきの貫手と比べたら10倍以上の威力が出ている!)
「は……」
そうして放った渾身の一撃は先ほどのリプレイを見るかのように見えない壁に弾き返された。
「ほら、約束通りわざと受けてあげたよ」
「バカな……最初の攻撃とは比べものにならない程の威力だったはずだ……?」
「そうなの? ごめんなさい…あまりにも弱すぎて気づかなかったわ」
全く申し訳なくなさそうにニヤニヤ言う朱莉に茫然自失とする一条智紀。
当然ながら彼女だって攻撃の違いには気がついている。気づいてないフリをするのはその方が面白いからだ。
「ほら、ハエにぶつかられたって違いなんて分かんないでしょ」
「ハエ…?」
(この僕がハエと一緒?)
「バッジは貰うけどあなたの事は見逃してあげるわ。これ以上の弱いものはいじめは可哀想だし」
「…」
「弱くて良かったわね。そのおかげで助かったんだから自分が弱わいことに感謝しなきゃ」
「クソが!!!!」