4話
「ふぁ〜」
眠りから目覚めて徐々に意識が覚醒していく。ふかふかのベッドに寝るのが当たり前になって7年が経ち私も14歳になった。
あの日、母さんからの提案を受け入れて九条朱莉になったのは私の人生におけるターニングポイントになった。
母さんとの戦闘訓練は修行とは名ばかりの拷問みたいなものだったけど、並の修行ではなかったかわりに凄く強くなれた。
あの訓練に比べればほとんどのことは大したことないだろう……
最初は普通にボコボコにされるだけだったけど、途中からは腕や足を斬られては回復させられて、また母さんと戦わせられるという地獄を見た。
魔法で全身を貫かれたり、首を斬られても死ななかった時にはもう笑うしかなかった。
でも、良かったこともある。それは母さんが人類の中で最強だと分かったことだ。
つまりは母さんを超えることが出来れば私が最強だ。分かりやすい目標があったことは励みになったし、1番強い人間と私の間にどれくらいの差があるのかという事も理解出来て良かった。
今日はそんな修行の成果を見せるのにとっておきの日だ。
なぜなら今日は騎士になる為の学校、王立バウアル学園の入学試験が行われる日なのだから。
ちなみに騎士とは魔物と呼ばれる人に害を与える化け物からこの国を守るために生まれた組織だ。
そして、騎士になる人間の9割以上が王立バウアル学園の卒業生。つまり基本的にこの学園を卒業出来ないと騎士にはなれないなのだ。
どちらにせよ母さんには学園に行くように言われてるから、騎士とは関係なしに学園には通うんだけど。
・・・
王立バウアル学園の試験会場に到着した。ざっと100人以上の有象無象がいるようで空気がピリピリとしている。
今のところ私の視界に入る範囲で強そうな受験生は見受けられない。
「あ…」
だんだんと試験がめんどくさくなって早く帰りたいなーと思い始めていた私の前に天使が現れた。
艶のある綺麗な金色の髪、筋が通った小さな鼻、二重で大きな瞳、エメラルド色の美しい瞳。幼さを残しながらも色気を感じる風貌の彼女に私の目線は釘付けだ。
「ねぇ、そこの彼女。ちょっとお茶しない?」
しまった!
なんだかナンパみたいに声をかけてしまった。というか、これから試験なんだからお茶なんてするわけないだろ!
「いいですよ〜」
そんな私の内心とは裏腹に天使はあっさりと了承してくれた。
「あー、誘った私が言うのもなんだけど……もうすぐ試験も始まるし、お茶はやめて少しお話でもしない」
そもそも今からカフェに入る時間なんてないし、私はお茶の準備なんてできないし。
「いいですよ〜。私も試験が始まるまで暇でしたし〜」
「今さらだけど私は九条朱莉っていうの! よろしくね!」
「はい、私は相沢柚月です。よろしくお願いします〜」
「今年の試験って何やるんだろうね?」
「毎年違うんでしたっけ?」
「そうらしいよ。今年はどんな試験だろうね?」
当たり前かもしれないけれど試験内容は毎年変わるらしい。だから予想して対策する事が難しい。
「去年は確か座学と模擬戦でしたよね〜?」
「らしいね。なんか普通だよね」
「確かにそうですね〜。どうせならお昼寝大会とかがいいです〜」
「それなら平和でいいね。私も昼寝は好きだけど、柚月ちゃんも好きなの?」
「はい、誰にも負けない自信があります〜。本当は家でずっと寝ていたいんですけどね〜」
そうやって柚月ちゃんと雑談をしている間に時間が過ぎていたらしく試験管らしき男が出てきた。
それを見た周りの受験生たちもより一層と引き締まった表情になっていく。
「ただいまを持って受付時間を終了とする! これより王立バウアル学園の入学試験を開始する!」
こうして、男の宣言と同時に王立バウアル学園の試験が始まった。