3話
姉さんは一命をとりとめた。
私が助けを求めた彼女は意図も容易く魔法で姉さんを治した。
姉さんが助かって凄く嬉しいはずなのに、彼女があまりにもあっさりと治すもんだから何だか拍子抜けしてまった。
回復魔法を使える人間はあんな事が出来るのかと聞いたら、ごく一部の奴だけだと言っていたから少し安心した。
瀕死の人間を簡単に治せる人間ばかりだったらこの世界はインフレしすぎだ。
今はそんな九条さんのお屋敷にお邪魔させてもらっている。
助かったとはいえ姉さんは怪我人だし、そもそも私たちにはまともな家が無い。
だから彼女の屋敷に招待してもらうことが出来て良かった。
「入っても平気か?」
ノックの音がして九条さんの声が聞こえる。
「はい! 大丈夫です」
「そうか」
「改めて、姉さんを助けていただきありがとうございます」
「うむ。少し場所を変えて話しをしよう」
「分かりました」
そのまま九条さんに着いて行くと応接室のような場所に案内された。
「単刀直入に言う」
「はい」
「私の養子にならないか」
「よ…養子ですか?」
「ああ、そうだ」
養子?
いきなりすぎて思考がまとまらない。
「急な話しですね…なんで私なんですか?」
「君にとてつもない才能を感じるからだ。少なくとも私と互角に戦えるようにはなるだろう」
「姉はどうなるのでしょうか?」
「君の好きにしていい。私の養子になったとしても特に何かを強制したりはしない」
「養子にならなかった場合はどうなるのでしょうか?」
「養子にならなかったからといって追い出したりはしない。君の好きにしていい」
「分かりました。この話し受けさせて頂きます。姉さんについては本人と相談してからで大丈夫でしょうか?」
「ああ。私が言うのもなんだが、そんな簡単に決めてしまっていいのか? 私が養子を欲しい理由とか、他にも色々と聞かなくていいのか?」
「はい、九条さんは姉さんを助けてくれた恩人ですから。それに私にとってもメリットばかりの話しですから」
この話しは私たち姉妹にとってメリットばかりの話しだ。
いつ襲われてもおかしくない環境でまともに食事も取れない。そんな場所で暮らすよりも絶対にいい生活が出来る。
当然こんな美味い話しには裏があるのかも知れない。
でも、そんなこと以上に姉さんを助けてくれたこの人に私は感謝している。少しでも恩を返せるのなら返したい。
それに私の直感も受けた方がいいと言っている。前世でも自分の直感を信じるタイプで、その結果いいこともたくさんあった。
何よりこの人は間違いなく私を強くしてくれる。
姉さんを安全な場所に住まわすことが出来て、私の最強になるという目的にも近づける。本当に私にとっては最高の環境だ。
「そうか、ありがとう。君は今日から私の娘になるわけだから敬語で喋らなくてもいいぞ」
「いいんですか?」
「ああ、その方が私も嬉しい。家族なのに敬語なんて寂しいしな」
「了解。なるべく普通に喋るようにするよ」
「それと明日から修行を始めるつもりだが大丈夫か?」
「大丈夫。むしろ望むところだよ」
・・・
さっそく次の日から修行が始まった。最初はランニングを中心としたメニューから始まり、座学や魔法についての勉強も同時に行われた。
最初のうちはそこまで苦しい修行ではなく想像よりもイージーだった。
しかし、戦闘訓練が始まるようになってからは地獄のような時間が私を待っていた。
やることはシンプルで母さんと模擬戦をするだけだ。私は魔法を撃ったり殴ってみたりと攻撃をするが全く当たらない。
逆に母さんからの攻撃を避ける術は私にはない。何度も何度も蹴られ殴られいいようにされる私。
あまりの激痛に涙が止まらないが母さんは攻撃を止める気配がない。それどころか私の傷はすぐに治されて模擬戦がまた始まるという地獄。
痛いし辛いし今すぐ修行なんて辞めたい。でも、もうあんな思いはしたくない。
だから私はこの修行に耐えて世界で誰よりも強くなるってみせる。