2話
「姉さん!! 姉さん!!」
朱莉ちゃんが私を呼ぶ声が聞こえる。
「あ…朱莉ちゃ…ん…よ…よかった」
本当は体中が痛くて、息をするのも辛い。まともに返事を返すことも出来ない。でも、朱莉ちゃんが無事で本当によかった。
「姉さん!」
朱莉ちゃんが悲しんでいるのを見るのは嫌だけど…私の死で悲しんでくれるなら嬉しい気もする。
朱莉ちゃんはお母さんが亡くなって深い悲しみの中にいた私が生きるための原動力になってくれた。
横にいた幼い朱莉ちゃんが無邪気に笑っているのを見て、彼女を守るために私は生まれたんだと思った。
でも、この街では私みたいな子どもが1人で生きるのは大変で、それが2人ともなると難しかった。
パンを盗もうとしたら大人に捕まって殴られたり、せっかく見つけた食料も他の集団に奪われたりしたこともあったり最悪だった。
朱莉ちゃんを捨てて1人で生きる事を考えたこともあるけど、嬉しそうに私の名前を呼ぶ朱莉ちゃんの顔を見たらすぐにそんな考えはなくなった。
だから朱莉ちゃんを守ることが出来て本当に良かった。
本当は最後に世界一可愛い妹の可愛い顔を見たかったけど、それも叶いそうにない。
「生きて…し…幸せに…なって…ね」
・・・
「姉さん!! 返事をしてよ姉さん! いつもみたいに笑ってよ!」
(なんで! なんで姉さんが私の前に倒れてるの!? 身体中から血が溢れて止まらない!?)
「グハハハハハ!! 思い知ったかクソガキ!!」
私の前に現れた10人以上の男たちとリーダーらしき男。
(こいつらが姉さんを……)
「俺様の縄張りで好き勝手しやがって! 俺様の力を思い知ったか!」
「…」
(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!)
「グハハハ! 恐怖で言葉も出ないか!!」
「アイスランス!」
怒りによってリミッターが外れたような感覚を覚えた。
このまま怒りに任せて魔法を放つだけでアイツらを簡単に殺すことが出来るような気がする。
「ふん! 俺様にそんな技は効かないぜ! ウインドカッター!」
相手が魔法を放とうが関係ない。
「グハッ!!」
「死ね」
私の魔法は相手の魔法を打ち破りそのまま体を貫通させる。
「デッケン!!」
「おい、なんかヤバいぞ!!」
「ど、どうするんだよ!!」
ゴミどもが騒いでいて不快だ。目の前の奴らを早く殺して姉さんを助けないと。
「死ね」
残りのゴミどもにもアイスランスを放つ。
「ぬわぁああああ!!」
(邪魔物は排除した! 早く姉さんを助けない!)
「姉さん! 死なないで!」
(どうしよう!? 医者の場所なんて分からないしお金もない…いや、金はなくても脅せばいい)
「姉さん! 病院を探すからもう少し頑張って!! お願い!! 私を置いてかないで!」
(どんどん姉さんの体が冷たくなってる! この状況の姉さんを医者まで連れてけない! )
「助けが必要か?」
「誰!?」
私に突然話しかけてきた相手を見る。そこにいたのは、首元まで伸ばした燃えるような赤髪が特徴的な美女だった。
「私の名前は九条望。この場で唯一お前を助けることが出来る女だ」
「私を助ける…」
「お前の姉は死にそうなのだろう? 私なら助けてやれると言っている」
この女は信用出来るのか?
悔しいけどそんな事を考えている余裕は無い。なぜなら今の私には姉さんを助ける手段が無いから。
「姉さんを助けて下さい! お願いします!」
私は彼女に向かって頭を下げる。例え騙されていたとしても姉さんを助ける手段が無い私は彼女を信用するしかない。
「私のことを警戒しないのか?」
「こっちにはそんな余裕は無い。姉さんを害さないのら貴女の要望は聞く」
もちろん私だってタダで姉さんを助けてもらえるとは思ってないし、交渉している時間も勿体ない。
姉さんの命は今まさに消えかけている。くだらない事に時間を使って助かるはずだった姉さんが死んだりしたら後悔しきれない。
それに、困っている私たちを見て無償で助けてくれる物語のヒーローのような人なら、どのみち私に報酬を求めるような事はしないだろう。
「そうか」
「だから姉さんを絶対に助けて!!」
「ああ、任せろ」