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第94話 チーム流星の裏切者

「そんで? 桑園さんとやら。言いたいのはお礼だけじゃないだろぉ? なにが用かねぃ?」


 クルッとターンして、長身の誠を下から覗き込む龍弐さん。


 チーム流星は埼玉ダンジョンでひとりの少女を犠牲にした。その時点で、龍弐さんは名都含め、すでに信用しない方針でいるらしい。参謀であっても、どこか試すような目をしているのが証拠だ。


「そこまで見抜かれているとは。ああ、どうかそんな警戒なさらないでください。参謀というのはただの肩書で、私自身、そこまで大した男ではないのです。用件といえばそのとおりなのですが………実は、あなたたちに個人的なお願いがあります」


「なんでしょう?」


 ニヤニヤする龍弐さんをグイッと押し退ける奏さんが問う。


「これは私の依頼と考えてくださって結構です」


「依頼ですか?」


「はい」


 ただでさえもクソ面倒な依頼なのに、さらに更新、追加となると億劫になる。マリアが対応していなければ、俺は即却下していた。


「まずは、これを」


「………どういうことでしょう?」


 マリアは龍弐さんの話しをすべて聞いていた。今でも忘れていない。


 チーム流星は敗走し、群馬ダンジョンに戻ってきた。ディーノフレスター一匹に追われ続けて。


 そのため貯金を切り崩す生活を送り、食事だって満足にできていない。偵察任務に出ている連中らが採取した素材を売り払って食費に充てていると聞いた。


 そんな資金難に陥っている連中のひとりが、俺たちにポンと十万円を手渡した。疑う以外なにもない。


「これは前払い金と考えていただければ」


「どこからこんなお金を?」


「私個人の貯金です。もしあなたたちが現れず、いよいよ食べることが困難になれば、これを出して当面の生活費にするつもりでした。………依頼というのは、チーム流星の内部の観察です」


「観察?」


「はい。現在、チームは大変不安定となっております。やっと逃亡の兆しが見え、ディーノフレスターから解放されそうな現状は、チームワークもいずれ回復するでしょう。………しかし、なぜこうなったのか。名都はあなたたちに十分な説明をしていませんね?」


 桑園は偵察任務を指揮するため、俺たちが訪れた際はあの巣穴にはいなかった。よって、その場にいた者から経緯を聞くしない。で、全貌を知って慌てて俺たちに接触したというところか。


「いえ、お伺いしています。埼玉ダンジョンでディーノフレスターと会敵し、逃走した。これがすべてでしょう?」


「いいえ。私の予想では………それだけではありません」


「どういうことでしょう?」


「チームの崩壊を目論む者がいます」


「崩壊?」


「はい。そもそも、なぜ我々がディーノフレスターと遭遇することになったのか。ただの偶然か。いえ、私はどうもそうとは思えない。何者かの手引きがあった。ディーノフレスターを誘導し、戦わせ、敗走へと繋げた。………そんな画策があったとしか、思えないのです」


 いきなりなに言ってんだこの男。


 つまり、チームのなかに裏切者がいると。


「ディーノフレスターは、なぜ我々を執拗に狙うのでしょう? モンスターが長期間に渡り、県境さえも越えて追いかける。きっと………あれを怒らせた者がいるのかもしれません。そしてアレを怒らせた者がいる限り、ディーノフレスターは我々をいつまでも追いかける」


「それってなんの根拠もない仮説なんじゃないの? 確証もないのに、それを信じろって?」


 馬鹿じゃないの? と貶す視線を飛ばす鏡花。


 そう、これは桑園のただの仮説だ。


 この極限状況のなかで現実逃避し、妄執に駆られているだけ。という可能性もある。


「私が嘘を言っているとでも?」


 ギロッと桑園が鏡花を睨む。


 勝気な性格をしている鏡花は、その視線にたじろぐことなく応じた。「やる気ならやってやるよ」と。


「落ち着いてください、桑園さん。そこまで仰るなら、なにか証拠があるのでしょう? その人物の目星は?」


 双方を宥めるように尋ねるマリア。


 桑園は丸眼鏡のブリッジを指で押し上げ、しかし渋面して首を横に振った。


「今は………なんとも」


「話しにならない」


「私を信じられないあなたは黙っていていただきたい」


「あ?」


「鏡花さんっ」


 今にも噛み付こうとする鏡花を、マリアが抑える。俺もできれば桑園に一発かましてやりたかったが、鏡花の姿を見てしまっては、もう出遅れたし、なんともやる気が反れる。話しが進まないので、俺が鏡花を引っ張って下がらせた。


「ぁにすんのよ」


「いいから、聞いてろ」


 介入させるわけにもいかない。鏡花を俺の背中に押し退けた。


「桑園さん。要求は………その裏切者の特定ですか?」


「はい。私は、私なりにこのチームを愛しています。恩返しがしたいのです。ディーノフレスターによって崩壊させるわけにもいきません。それ以前に、こうなることを差し向けた何者かを、許したくないのです」


「お話は理解できました。しかし、私たちは探偵の真似事ができるほど器用ではありません。桑園さんが満足、あるいは納得できる回答を出せるか、わかりませんよ?」


「構いません。あなたたちの同行が、なによりの抑止力となるでしょう。あなたたちには余計な労働を強いてしまうようですが、何卒、怪しい動きをした人物をお知らせしてくださると助かります。報酬は、護送依頼の達成時に追加でお支払いします。では、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げて巣穴に戻る桑園。「二度と来るな」と鏡花は唾を吐いた。その唾は思い切り俺の頭や首に飛び散っているのに気付かないかなぁこいつ。


「前金受け取っちゃいました………」


 依頼主の前では凛としていたマリアだが、去ってから急に弱気になって俺たちを振り返る。その手にはしっかりと十万円が乗せられていた。


「ま、ええんでねぇの?」


「そうですね。彼は満足や納得ができる回答でなくとも、後金も払うと言っていましたし」


「ハッ。あの根暗野郎こそ裏切者だって叫んでやってろうかしらねぇ」


 面倒ではあるが、クリア条件は緩い任務に違いはない。鏡花の案を採用すれば、確実に後金は支払われないが。


「裏切者、ねぇ」


 龍弐さんは神妙に唸りながら巣穴の奥を見る。


「そういうのって、案外近くにいるんだよねぇ」


「もしあなたがそうだった場合は、即刻射殺しますからね。龍弐」


「い、いやーん。目が怖ぇですよぉ。奏さぁん?」


「嫌なら裏切らないこと。いいですね?」


「ら、ラジャ………」


 また奏さんの理不尽な威圧感に背中を丸める龍弐さん。もし本当に裏切りが発覚した場合、奏さんは容赦なく龍弐さんを射るだろう。見なくてもわかる未来だ。ゾッとする。


「護送をしながら怪しい人物を探す。無理をせず、行ってください。むしろ、これは私向きかもしれません。私は戦力になりませんし、今はカメラを止められてますし………」


 マリアはディーノフレスターによって命の危機に晒されようと、配信者魂は消えてないらしい。むしろあれをカメラに映すことができないので残念がっていた。


「いや、配信を止められてるだけで、撮影してもいいんじゃなぁい?」


「そうですよ。その方があとで確認しやすいですし。フェアリーはダメだとしても、カメラくらいならいいんじゃないですか?」


「そう、ですよね! じゃあ、オフラインで撮影しちゃいましょうか!」


 片手の重みがなくてずっと寂しそうにしていたマリアだが、仲間の認可を得て、活気が戻る。スクリーンから二代目のカメラを取り出すと、早速収録を開始した。



二回目ぇ!

ここまではいつもどおりですが、勝負はこの先です。せめて四回はやりたいところ。

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