第90話 チーム流星
「コホン。………それで、あなたたちの所属は? どのパーティですか?」
ビビリ散らかして失禁しそうになっていた連中に、これ以上の恐怖を与えぬよう徹した奏さんは、誤魔化そうとして誤魔化しきれない咳払いをして話題を戻す。
「チーム流星っす」
「へぇ。なんてタイムリー。ねぇ、マリアちゃん?」
「へ? どういうことですか?」
男たちは龍弐さんの発言に首を傾げ、次いでマリアを見る。
「あ、私たちはストロングショット………」
「ぃぎぃいいいいいいい!?」
「え、あ、ちょっと!」
ストロングショットと聞いて後退る男たち。だがこのままでは岩から落ちて水にダイブしかねない。丁度俺と鏡花が近くにいたので、退路を阻む。
「なんだよお前たち。あのクソゴリラたちに可愛がられたのか?」
「そ、そうだよぉ………なにも悪いことしてないのにぃ………」
わお。本気で泣き出した。
こりゃ相当な悪夢を見せられたはずだ。
同情する。なにせ、俺も危うくそうなるところだった。
「安心しなさい。私たちはチャナママの手先じゃないわ。依頼を受けて来たのよ」
「依頼ぃ………?」
「そ、そうです! チャナママからの封書を預かってきました。チーム流星団長、四牙名都さんに面会できるよう、掛け合ってもらえませんか?」
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
俺たちは桐生の地下を歩き続けた。ディーノフレスターとやらに狙われないため、色々と工夫を凝らしたらしい。薄暗い空間であることを利用して、閃光団を常備し、体臭で追尾されないための匂い消しを浴び、迂回し、やっと到着する頃には一時間半も要した。
そこは岩が密集する場所で、サイズ的に例えるならストロングショットと防壁を構える前橋跡地の丘に似ている。
ただ拠点としたのは岩の山の上ではなく、なかだった。
「名都さん! ただいま戻りました!」
「お客さんを連れてきました」
「あのゴリラ………じゃなくて、ストロングショットの店長から依頼を受けてきたそうです!」
俺たちを案内した三人が報告しながら拠点に入る。俺たちは当然、外で待たされた。
数分後、目に痣や頭にたんこぶを作った三人が出てくる。
「ど、どうしたんですか?」
「そういうことなら事前に報告しろって怒られちゃって。団長、かなり苛立ってます。あ、でも許可はもらいました。どうぞ、なかに入ってください」
確かにのっぴきならぬ事情のなかで、周囲を警戒しなければならない任務を請け負った三人が、任務を放棄して俺たちを案内させてしまった。負い目を感じる。だが事前報告をしなかったのはこの連中の落ち度だ。あのモンスターがなにをするかわからないから籠城するわけで、無暗に俺たちを連れて大勢で歩けば尾行されるかもわからない。
マリアは回復薬を手渡して礼を言い、チーム流星の巣穴に入る。俺たちも続く。
「………へぇ」
早速の歓迎に、俺は心が躍った。
久々だった。こういうピリ付いた空気は。
大半を紹介任務に当てているのか、巣穴にいるのは十人ほど。だが誰も俺たちを快く思っていない。表情、瞳がそう語る。
屈強な肉体をする男の不自然でしかない笑みや、死線を潜り抜けた女の鋭い眼光を受けて、俺はつい両手を広げて「かかって来いよ」と挑発しそうになった。もしそんなことをすれば、奏さんのバックドロップの餌食になるが。
「マリアチャンネルの、マリアです」
「………四牙名都だ」
名都という男は、印象で言えば猟犬を思わせるタイプだ。聞いたとおり長身痩躯。短く刈り上げた赤い髪。双眸は甘さを余計なものとして切り捨てたかのような、一切の油断を無くした代わりに濁って見える。
座っているが手足が長く、無駄がない。俺たちが変な動きを見せればすぐに立ち上がって制圧しそう。
だが相当な目に遭ったらしい。悲壮感と疲労が、目に湛えられていた。
「………用件は?」
「ストロングショットのチャナママから封書を預かりました。これになります。どうぞ」
マリアがチャナママから預かった封書をスクリーンから取り出し、もう一度割り印が壊れていないか確認してから名都に接近する。
微細な変化は肌で感じ取るものだ。マリアは気付いていないだろうが、俺と龍弐さんが片足を引く。理由としては、俺たちを歓迎していない空気を発する流星とかいうメンバーの馬鹿どもが、俺たちのボスにやらかそうとしたからだ。
敵意はないと示すため、武装解除した途端にこれだ。もしかしなくても舐められてんのか?
ビュッ───と周囲の馬鹿ども四人が、握っていた石ころを親指で弾き、マリアへの狙撃を試みる。
と同時に俺は蹴りで、龍弐さんも外で握ってきた石ころを弾いた。
マリアの左右でバチバチッと音を立てて弾ける。一発で二発の石ころを弾いた。俺たちが蹴ったり弾いたりした石ころは、最終的に名都の両サイドの壁にめり込む。
「へぇ………これが噂に名高いチーム・流星さんのご挨拶ってやつぅ?」
「お上品な連中だ。喧嘩の作法を習得してやがる。いいぜ? 買ってやる。来いよ」
敵意を持たず、依頼目的で接近した非武装かつ非戦闘員を狙う狡猾さを評価して、もう遠慮することはやめた。
俺は左手のみ。龍弐さんは刀を持たない徒手空拳。明らかに戦力の低下を招くも、良いハンデだ。
挑発を挑発で返された連中は俺に応じる。各々が不気味な笑みを浮かべて、得意な獲物を引っ提げて───
「待て」
───名都の野郎が止めやがった。俺にではない。部下の連中をだ。
さながら猟犬のボス。部下を全体的によく躾けてある。自分も猟犬の分際で人間様の真似事をしているよう。
「おいおい。そっちから仕掛けてきたんだろうが」
「まさか、やっぱやめまーすなんて寝言を垂れ流すわけじゃないよねぇ?」
俺たちはマリアを追い抜いて背に庇い、名都を挑発的な目で見る。龍弐さんはいつもの精神攻撃モードに入っていた。これがまたえげつないくらいの効力がある。
すると、名都はぬっと立ち上がる。マリアを探させた鏡花と奏さん。このパーティの号砲を鳴らす役目を所望しているなら、存分にやらせてやるつもりだ。
「その、やはりだ。許してほしい」
「………へぇ?」
意外にも一番獰猛そうな名都が、ゆっくりと頭を下げた。
龍弐さんは面白そうにしているが、手を出さないし、まだ精神攻撃を仕掛けるつもりもないようで、じっと名都を観察していた。彼の教えのなかには相手を観察してよく知るようにとある。龍弐さんが今そうしているように、俺も名都の側に立って第三者の目で緊迫した空気を観察した。
おそらく………今の奇襲を命じたのは名都だ。理由はまだ不明。魂胆………俺たちを試したかった?
「納得できる理由が無ければ、ここにいる連中は皆殺しになるけどいいかぃ?」
「龍弐っ」
「じょーだんだよ。あっひゃっひゃ」
いや、今の龍弐さんは冗談で済ませるつもりがなかった。奏さんに止められていなければ、見せしめに数人倒していたかもしれない。龍弐さんは時々、危険思想が表に出るが、そういう時は大抵仲間や友人が危機に陥ったからだ。マリアを大切な仲間と認識しているからこそ、投石しやがったこの連中を八つ裂きにしようとしている。
名都は頭を下げ続けた。顔には汗が滲んでいる。龍弐さんの危険性を悟ったからか。
さて後半に突入して、やっとキーとなる連中が出ました。新キャラの連続。
でもまだ重要な人物は出していません。これからゆっくりと出していきます。面白いと思ってくださいましたらブクマ、評価、感想で応援していただけたら作者は寒いなかで必死にパソコンをパチパチしている甲斐があったというものです。よろしくお願いします!




