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第89話 肉食の馬

 龍弐さんはいつでも鯉口を切れるよう、右手を脱力させながら、前方斜め左の岩場に跳躍する。隣接する岩場を経由せず、水面を蹴って四十メートルは走った。


 だが、そうしている間もゴブリンは動かず。


 変だ。龍弐さんの接近に焦りすら感じていない。


 微動だにせず俺たちを見ている。顎を岩場に乗せたまま。


 すぐに龍弐さんはゴブリンの前に立つ。俺と奏さんで全方位を警戒する。


 数秒後、龍弐さんは俺たちを手招きした。


 龍弐さんの代わりに鏡花が先導する。マリアを支える役は俺が。奏さんが殿を務める。


 数秒で移動を完了させた俺たちは、龍弐さんの背後に立った。


「マリアちゃんが配信してなくてよかったよ。インモラルブロック機能が働きまくってた」


「どういうことです?」


「このゴブリン、()()()()()()


「なんですって?」


 奏さんが岩場を調べる。俺も接近した。


 龍弐さんの言うとおり、俺たちを見ていたゴブリンはすでに事切れていた。


 死因は───


「ヒッ………!?」


「なにこれ………この、傷痕」


 マリアは喉を鳴らし、鏡花は愕然とする。


 理由こそゴブリンの体にあった。下半身がなかった。まるで、巨大ななにかに食いちぎられたような痕だ。


「ゴブリンの腰は………まぁ、直径二十センチかそこら。それを一気にガブリってできる馬鹿みたいな奴がやったんだ。ほら。あれもそうだ。()()()()()()()()


 ゴブリンの死骸は一体ではなかった。さらに奥にも群れがいて、すべて同じ傷がある。下半身がない固体と上半身がない固体。あるいは半身がない固体まで。


「………さっきの蹄の奴がやったんですかね」


「おそらく」


 今にも吐きそうな顔をするマリアを気遣った鏡花が少し離れたところに移動させるなかで、俺たちはしゃがんでおびただしい数のゴブリンの遺体から検分を始める。


「肉食の馬、ねえ。ダンジョンモンスターだし、あり得なくはないんだろうけどさ」


「それも、群れ単位で捕食しておきながら、毒に侵されず平然としていられる回復能力があるモンスターですね。………ほら、あれを。足跡が続いています」


「足跡に乱れがない。毒でふらつかなかったって証拠か」


「んでもって、ゴブリンを初撃で戦闘不能にしたんだと思うよ? 見て。天井にまで肉片がこびり付いてらぁ」


 俺はまだ平坦でしかヒントを得られなかったが、龍弐さんと奏さんは立体的に見てヒントを挙げる。


 おそらく、あの蹄のモンスターは急接近してゴブリンの群れを轢き殺し、そして捕食した。


 モンスター同士の縄張り争いもよくあることだが………ここまで一方的な虐殺を見ると、どう見ても狩りだ。縄張り意識もなく、ただ餌が転がっていたから食っただけ。そんな印象。


「………追いますか?」


 ゴブリンの大量虐殺で出現した血溜まりのなかにいたため、移動した形跡がしっかりと残っていた。今なら追いつけるかもしれない。


「やめておきましょう。京一くんが全快でないと、マリアちゃんだけでなく、あなたも守らなければなりませんので」


「奏さんのせいなんだけどねぇ?」


「………ごめんなさい。失言でした」


 バツが悪そうにする奏さん。俺はもう、そんなに気にしていないのに。あと一日もすれば、ギブスも取れる。実は、もう指先が動かせるようになっていた。動かすと少しだけ痛むが。後遺症もなく完治できそうだ。


「今はさ、マリアちゃんが受けたチャナママの依頼を受けようよ。チャナママも言ってたでしょ。なんかヤバめなもんに追われてるって。もしかしたら、案外すぐに会えるかもしれないよぉ?」


 蹄のモンスターが去ったとわかった途端に、砕けた口調になる龍弐さん。


 が、その視線の鋭さは変わらず。奏さんも弓を手に携えた。俺も立ち上がる。



()()()()かな?」



「紅茶を淹れてもてなしてあげましょう」



「相手の出方次第ですけどね」



 そこからは同時に、異なる軌道を描いて進んだ。


 向かった先は少し離れたマリアがいるところへ。



「上だ、鏡花!」



「わかってるわよ。引き摺り下ろす」



 鏡花は片手でマリアを抱き寄せ、もう片方の手にダーツを握ると、同時に地面に放つ。カカカッと三本が突き立ったところで、スキルを発動。置換が働き、やはり読みどおりに頭上に潜んでいた連中を入れ替えた。


「なにっ!?」


「あ、こいつ………皆殺し姫じゃねぇか!」


「じゃあまさか………っ!?」


 ダーツと置換された三人は唖然と座り込んでいたが、鏡花の正体を知るとすぐに立ち上がって離れようとする。けどもう遅い。


 俺と龍弐さんと奏さんが、その男たちの背後に立っていた。


「ヘロォ、小鳥の諸君。餌でもねだりに来たのかねぃ?」


「女性を狙う男はクズと知りなさい」


「テメェらどこのもんだ? もし俺らのボスを狙ってやったんなら、酷い目みるぜ? とりあえず、うちの凶悪顔面兵器の人間シャッフルとかいうのを受けてみろよ。世界感変わるだろうぜ?」


「アハハ。愉快なこと言うじゃない馬鹿犬。なんならあんたのお腹のなかで()()()()()()()をかまして、わからせてやってもいいのよ?」


 まぁ、あれだ。調子に乗った俺も悪かった。でも、俺たちを狙ってた連中がいる前で、早速仲間割れを誘発させようとするのもどうかと思う。


 てか、なんだよ()()()()()()()って。怖ぇな。不可能そうじゃないところも含めて。


 にじり寄る鏡花の手を掴んで止めるも、片手だけじゃ止められない。逃げようにもマリアを置いていけない。どうすんだこのチンピラ。


 すると、動きを抑えられた男たちは、平伏して謝り出した。


「も、申し訳ありません!」


「まさか、マリアチャンネルのマリアさんたちだとは思わなくて」


「俺たち、今は団長の命令でここらを警戒してるんです!」


 マリアではなく、圧倒的な実力者だと肌で感じ取ったのだろう、龍弐さんと奏さんに土下座している。これにはピタッと鏡花の動きも止まる。


「警戒ですか? なにからです?」


「あのクソモンス………ディーノフレスターからです」


「ディーノフレスター?」


「あのクソモンスに、俺たちの仲間が何人も殺されて………だから、今度こそ仇を取ってやろうって!」


「ふむ。それで、そのディーノフレスターなるモンスターを見張っていたと。………では、あのゴブリンを襲ったのも、同一個体だと?」


「はい! 奴はなんでも食います。肉なら、なんでも。その場で食ったり、連れ去って食ったり………団長は絶対に報復してやると俺らに誓ってくれたんです!」


「なるほど」


 聴取は奏さんが行う。


 マリアチャンネルを知っているなら、俺たちの配信も見たはずだ。つい最近の、奏さんが俺の手を粉砕骨折させたシーンも。あれを見てビビらない奴は、そういないはずだ。きっとこいつらもビビってる。だから奏さんの質問には嘘偽りなく答える。


「そちらの事情は把握しました。私たちとしては、これ以上の敵対行為はしないつもりです。実際、実害があったわけではありませんし。どうぞ、楽にしてください」


「はい。失礼しますっ! マジキチ奸策ねえ」



「あ゛?」



「………か、奏、さん」


「よろしい」


 可哀想に。こいつらにしてみれば親しみを込めて、コードで呼んだだけなのに、座り直した途端に睥睨され、強制的に正座になって畏まった。


そういえば、この作品を投稿してから一ヶ月が経過していました!

いつも応援ありがとうございます!


不気味な空気もあってこそのダンジョン!

オネエと色々あったのが嘘のよう。今作はシリアス七割、ギャグ二割、その他一割の配分でやっていきます。期待していただけるようでしたら、ブクマ、評価、感想で応援していただけると嬉しいです! よろしくお願いします!

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