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第86話 極上の耳かき

「思ったとおり、マリアちゃんの髪はふわふわですねぇ。ふふっ。まるでお人形さんみたい。ほっぺももちもちしてて可愛いですねぇ」


「ふあ」


 奏さんは私の髪を撫でつつも、頭皮に指を這わせてマッサージしてくれます。


 極上の至福、ここに至れり。


 完全にリラックスしていました。手足に力が入りません。


 けれど、なぜでしょう。マッサージのお陰か血流がよくなったためか、頭のなかがジンジンします。届かない場所に指を挿れて掻きたい気分です。


「じゃあ、お耳なんてどうでしょうねぇ。触らせてくださいねー」


「あ、う」


「んふ。なんて小さいんでしょう。バランスもいいし、すべすべしていますね。けど、うん。やっぱり何週間もダンジョンにいたせいで、ちょっとばっちぃですね」


「うぇ?」


「お掃除しましょうねー。さぁ、体を横にしてください」


「ふぁい」


 なにもかも言われるがまま。操り人形同然の私は、奏さんの指示に従って、膝枕状態から体を横に向けます。


 お掃除っていったいなにをされるのだろう。掃除機でも押し当てられるのかな。なんて考えていたのも束の間、インカムを外した左の耳は、奏さんの繊細な指遣いで揉み込まれていました。


 洗髪の際、髪を傷めないよう意識された丁寧なマッサージに、私の意識は宇宙の彼方に旅立とうとします。


「ふむふむ」


「なんか、眩し………」


「あ、ごめんなさいね。ペンライトです。マリアちゃんの耳を調べていました。やっぱりお掃除が必要ですね」


「おそ、うじ?」


「はい。マリアちゃんはこのままで大丈夫。任せてください」


 ゆっくりと目を開けると、奏さんの右手には細い棒が握られていて、狙いを定めると、ゆっくりと降下させ、先端で耳に触れました。


 すると、これまで甘美とも言える快感のなかに、ピリッとした刺激が脳髄から足の爪先に至るまで走り抜けます。


「ぁう」


「ふふ………心配しないで? このまま走らせていきますからねー」


 耳に触れた棒は、耳のくぼみに沿って宣言どおりに先端を走らせます。


 たったそれだけの行為。たったそれだけなのに、私の意識はすべて耳を走る謎の棒に集中しています。


 外側のラインを走ると往復して、また別のくぼみへ。


 その動きは、とてもではないですがお掃除とはかけ離れています。まるで私の耳を弄ぶかのような、そんな先端の運びでした。


 棒はラインの途中で停止すると、これまでの動きとは違って細かな一方通行の運動を始めます。こうなる前から気付いていましたが、これは間違いなく耳かきです。冷たくもなく、温かくもなく。独特の感触のそれは竹でできていて、尖鋭な鉄とは違う丸みを帯びた部分や、スコップ状の部分で、まんべんなく私の耳を蹂躙したのです。


「そろそろですね。マリアちゃん。心の準備はできていますか?」


「ふぇ?」


「欲しくて欲しくてたまらない部分があるんじゃないですか? 今からそこに触ってあげますからね」


「え………んぁあっ!?」


 竹の耳かきが、ついに私の耳道に侵入します。


 つい咄嗟に耳道の壁面に遠慮なく先端を突き立てるのでは、と警戒したものの、実際には予想を超える動きをしました。促された覚悟とは違うイレギュラーに、つい私は声を上げてしまいます。


「ぅあ!?」


「んふ………まだ始めたばかりだというのに、可愛い顔をしますね」


 もう恥ずかしくて気が気ではありません。しかしその羞恥心に勝るほどの衝撃かつ未知の快感に、頭が痺れてきました。


 挿入した耳かきは一度も耳道に触れることはありません。ですが、確実にそこにいることはわかります。耳の毛です。その毛をあますことなくすべてを撫でていきました。ジャミジャミと音をさせて、回転しながらのピストン。それの無限ループ。


 毛を撫でてくすぐる。たったそれだけの行為。ただたったそれだけでも、私の欲求をより向上させるイレギュラーと化します。こんなの知らない。こんな快感を、これまで一度たりとも受けたことがありません。お母さんの耳かきとは全然違います。


「かなで、さっ………あ」


「物欲しそうな顔をしちゃって。普段ならもうちょっとじらすんですけど………今日は特別ですよ? 痒いところを掻いてあげましょうね」


「んぁああ………ひぅ、ん、あ、ぅ………」


「可愛い………」


 奏さんの操る耳かきが、やっと耳道に触れました。


 これまでとは格段に違う刺激。ミヂミヂと音を立てて欲しかった部分に触れると下から上へとスコップの先端が動きます。


 コリコリ、バリッ、ミヂヂヂッ………不可視な部分に蓄積していた汚れが固まっていたのを、丁寧に剥がしていく感触。


 たまりません。


 以前、ダンジョンに潜る前に健康診断のついでにイヤーエステサロンのお店に立ち寄り、プロの手による耳垢除去と疲労回復を目的とした施術を受けましたが、あの時のプロたちになんら遜色のない技術力に、つい私の声は止まらなくなりました。穴の空いた風船のように声を吐き出し続けます。


「ダンジョンのなかなので耳の毛は剃らないでおきますが、普段できないような深い場所もお掃除しましょうねー」


「ぅひっ………は、ひ」


 異物侵入を阻止するために毛は残しておく───それはわかります。でも、剃ったらどんな快感が待っているのでしょう。考えただけでゾクゾクします。


 代わりに耳かきがより奥へと侵入します。皮膚も薄くなり、過敏となった部分へと。思い切り引っ掻けば痛くて泣いてしまいそうになりますが、奏さんの技術だと痛みはまったくなく、撫でる度に脳にダイレクトに信号を送るようでした。


 なんの信号か。


 決まっています。先程の京一さんの発言にもあったとおりでした。



「お姉ちゃぁん………」



「はぁい。さ、左は終わりましたよ。次は右をお掃除しましょうねー」



「ふあぁぁ」



 耳かきの逆側の、繊細でふわふわしている綿毛の部分、梵天でくすぐられ、仕上げに「フゥ」と微弱な吐息が走り抜けます。耳道のみならず鼓膜まで侵入し、優しく撫でていきました。


 ああ、私は抵抗もせず、奏さんの妹になっちゃいました。






   ▼ ▼ ▼ ▼ ▼






「ほら、妹になった」


「なんて恐ろしいの………!?」


 もう()()()()()結末に、特に驚きもしない。どうせマリアは耐久せずに堕ちると思っていた。で、実際に堕ちた。


 左だけでなく耳の耳も掃除されたマリアは恍惚そのもの。座布団から転げるようにして全身を痙攣させていた。


「唯一の救いは、配信してなかったってことね。マリア、なんだかえっろいわ」


「なに他人事みたく言ってやがる。次お前だからな?」


「は? 冗談じゃねぇわよ。骨抜きにされてたまるか───え」


 逃走を計る鏡花だったが、踵を返した途端に次の足を踏み込めなくなった。


「どこに行くんですか? ()()()()()()()? 鏡花ちゃん」


 奏さんは鏡花の速度を上回る俊敏性で、これまで座っていた座布団から移動して、鏡花の背後に立っていた。俺もやられた。あの時も逃げられなかった。


「さぁ、見ていたのでなにをするかはわかっていますね? お掃除しましょうね鏡花ちゃん」


「い、いや………マリアみたいにえっろい顔するのはイヤだぁああああああ!!」


 腕を掴まれて座布団まで連行される鏡花。どうあっても逃げられない。


「可愛いですねぇ鏡花ちゃん。心配しないで? 痛くしませんよぉ」


「わ、私にもプライドってものがんぁぁああ!!」


 耳かきを挿入された鏡花は、マリア同様、すぐに妹の仲間入りを果たした。


 なんか、エロかった。

ブクマありがとうございます!

くぁ………いつもより一時間遅れてしまいました。すみません。


耳かきは作者も大好きです。でも野郎が悶えていても面白くないので、女の子にやってもらいました。

路線変更するつもりはないのですが、描写にはちょっと力を入れたつもりです。気に入ってもらえましたら、ブクマ、評価、感想で応援していただけると嬉しいです。よろしくお願いします!

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