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第80話 牛畜生風情が

 三頭のスティンガーブルは親子でした。京一さんが仕掛けると、手前の孔子が応えるかと思いきや、子供を守るべく親の牛が京一さんを刺殺すべく、通路に巨体を擦り付けるように疾駆。壁や天井、地面が激しく揺れるようでした。


「京一さんっ」


「大丈夫。あの程度なら、なんとでもなりますよ」


「で、でも!」


「むしろあの程度に手古摺るようなら………修行のやり直しですかねぇ」


 んふふ。と怪しく笑う奏さん。獲物を前に舌なめずりする蛇のよう。私たち人間と比較して、あまりにも巨体な牛を、まるで敵として認識していませんでした。


「京一くん。ノルマ。三十秒です」


「押忍!」


 信じられません。


 奏さんは、何人もの冒険者を仕留めた猛獣を三十秒で仕留めろとオーダーします。


「無茶です!」


「いいえ? ほら、見ていてくださいな」


 京一さんがどれだけ強くても、あんな怪物を相手にして、一瞬でひき肉になってしまうと不安になりましたが、奏さんは敗北するイメージを持っていません。差し伸べた手の先で、ついに京一さんと親牛の決闘が始まります。


「ブモゥッ!!」


「デカけりゃ強いってことじゃねぇんだよ牛野郎がッ!!」


「モッ!?」


 鋭利な角を突き出され、あれが貫通する寸前で紙一重で回避。頭部により接近すると、回転する勢いを利用して肘鉄を額に叩きつけました。そもそも人間という、自分より圧倒的に体格が小さい標的を突き刺すため、スティンガーブルはどうしても前傾しなければなりません。


 その前傾姿勢に渾身の肘鉄。親牛の加重は前に寄っていたため、簡単に顎を地面に擦り付けました。


 ですが、人間にとっては広くても、化物のように思える体格のスティンガーブルにとってはこの通路は狭く、転倒する寸前でお尻が天井に当たり、バウンドするように四肢が再び設置。踏ん張りを利かせてスライディングを阻止。それどころか反撃に出ました。


「おっ?」


「京一さん!!」


「まだまだ。彼はあんなものではありません」


 親牛が頭を強引に左右に振ります。するとステップで後退中の京一さんに、角が衝突しました。


 鋼鉄のバッドで打たれた人形のように壁に飛んでいく京一さん。激突すれば怪我では済みません。しかしそんな状況でも奏さんは一切取り乱しません。


 その理由がすぐにわかりました。


 打たれた京一さんの表情は、平常そのものでした。激突する寸前で両足を突き出し、壁に垂直に着地。衝撃を分散させるために左手も突き出します。そして勢いを味方に、まだ頭を低くしているスティンガーブルの頭上に躍り出ます。


「スティンガーブルの、スティンガーという名の由来ですが」


「え?」


「スティンガーというミサイル。つまり携帯式の対空ミサイルのことです。空中にある敵対勢力の排除に使われるミサイルですね。つまり………本領を発揮するのは、()()()()()()


「………まさか」


「はい。あれは悪い例です。スティンガーブルを相手に、跳躍するなりして高い場所から仕掛けるのは自殺行為と言えるでしょう」


「な、なんでそんな平然としていられるんですか!?」


「その悪い例は、私たち以外の冒険者だったら。ということですよ。あれ? 配信って、こういうアドバイスをするものじゃなかったんですか?」


「ぅえ………っ!?」


 奏さんは慌てて目線を宙に泳がせます。


 まるで、試験で絶望的な点数を記録した解答用紙を親に発見され、必死に言い訳を考える子供のように。


 その必死さが、私たち一般人と、ベクトルというか………世界が違うのだな。と理解させられました。


「アドバイスは歓迎です。鏡花さんもたまにやってます………って、そんな場合じゃなくて、京一さんは!?」


 壁を蹴って空中に跳ぶ京一さん。対するスティンガーブルは、やっと得意とする高さに獲物が自ら飛び込んだことを喜ぶかのように、これまでとは異なる速度で角を突き出します。それこそミサイルのように。


 ところが、そこはさすがに()()()()()()()()()を豪語した京一さん。


 突き出された角を、()()()()()


 全身を回転させ、遠心力をつけた蹴りで、壁に衝突する角。しかし大したダメージではなく、壁に埋没した角ごと頭を剥がし、地面に降り立った京一さんに叩き付けます。


 それをスウェーで回避。あえて重心をずらすことで可能にした加重移動。距離を詰めて、額にストレートを放ちます。これには怯んで後退するスティンガーブル。



《今日もやってんな()()()()()()()()()!》


《栃木で初めて見た時には死ぬかと思ったけど、本当こいつなにやってんの!?》


《アドバイスはいいよ。でもマジキチ奸策姐さんのアドバイスしか参考にならねぇんだけど》


《相変わらずこいつの頭おかしいよな》


《スティンガーブルよりスティンガーブルらしい()()()()()()()()()


《なんで悪い例を挙げたのに生還するどころか反撃してんだよ》


《こいつの動きはマジで参考にならん》


《マジキチ奸策姐さんも、なに平然としてるの?》


《新メンバーも頭おかしかったか》



 コメントにあるとおりです。私はどちらかといえば、()()()()でしょう。


「ふむ、どうやらスキルを使えていないようですね」


「え? あの、折り畳んじゃうってスキルですか?」


「ええ。彼が得意とするそのスキルは、まぁ………腕とか足とかを滅茶苦茶にしちゃうじゃないですか。でもあんなに太いとね。折り畳める節もない」


 奏さんの言うように、スティンガーブルの角の太さは、京一さんの身長くらいはありました。


 折り畳むにしてもあれだけ太いと困難です。言われてみれば、京一さんがこれまで折り畳んできたものは、少なくとも自分の体格より小さいものばかりでした。


 これでは勝機を失ってしまうのでは───と疑問に思った刹那、奏さんは恐るべきことを口にします。



「京一くん。()()()()ですよ」



「………押忍!」



 愕然とする他、ありませんでした。


 応援でも鼓舞でもない。


 追い込みです。


 スキルが使えない状況であっても倒せと。そう命じたのです。鬼みたいでした。


「で、でで、でも………スキルが!」


「心配いりません。そういう想定を常にせよ。というのが母の教えです。京一くんも、随分と叩き上げられましたからね。自分より大きい相手だろうが、絶対に成功させますよ」


 まぁご覧なさいな。と言う奏さん。残り三秒。


 ラッシュで刺突に応じていた京一さんの瞳が、なにかを見出します。


「頑丈な角を持って、さぞかし良い気分なんだろうけどなぁ………俺は鉄だろうとブチ折れるんだよぉッ!!」


「ンォモッ!?」


 右のフック。目を疑いました。


 スティンガーブルの右の角に亀裂が生じました。ラッシュで疲労破壊を誘発させたのでしょう。


 それが、折り畳める節となりました。



「牛畜生風情が、調子乗ってんじゃねぇえええええええええ!!」



 ボリン。と音をさせるスティンガーブルの角。


 節のある部分を京一さんに掴まれたら最後。


 そのスキルはスティンガーブルの強靭な角であっても、折り畳んでしまいました。

四回目ぇ………!

申し訳ありません。急用ができてしまい、今回は4回までとなってしまいました。ブクマ、評価、感想はいつでもお待ちしております。何卒よろしくお願いします!


明日から2回更新に戻ります。


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