第60話 リビングメタル採掘依頼
俺と鏡花とマリア。三人が「今すぐ殴りたい奴の顔」と問われれば、満場一致で可決するあの野郎。
山代御影というクソッタレ野郎だ。
こいつはマリアに同情してもらうため身分を偽って近寄ってきた。
金剛獅子団という最近になって台頭した冒険者パーティが配信者に興味を持ち、リトルトゥルーに所属させてくれないかと。新たな話題作りとしてリトルトゥルーはマリアの下で研修をさせたが、それがすべての失敗の原因だった。
御影は西京都で勢力を広げ、この関東ダンジョンにも手を伸ばそうとした暴力団の構成員だった。
末端組織の一員であったが、上に献上する金が必要だと、ダンジョンで非合法な商売をするために送られたという。
奴は金剛獅子団を支援する名目で近づき、支配した。リーダーを追放し、返して欲しければ兵隊を寄越せと命令。多分、これまでそうやって利益を得てきたのだろう。
だが俺たちに唾をつけたのが間違いだったと教えてやった。
マリアは意外と根性があった。俺と鏡花が離れてしまっても、たったひとりで屈強な男たちに道具扱いされても耐え、最後には御影自らに悪事を供述させ、しかもそれらすべてを全国放送してしまった。
悪事を自ら暴露してしまった御影の末路は目に見えていた。ダンジョンを食いものにしようとした件で、すべての冒険者を敵に回し、ダンジョンの外では自分の組織が制裁を加えようと首を長くして待っている。逃げる場所などどこにもない。
で、合流した俺と鏡花がボコボコにしてやったと。
逃げられはしたが、ニュースで捕まったとあったのでひと安心。
いったいどこの誰が捕まえたのか気になった。右腕は俺のスキルで使いものにならなくなっているし、全身打撲や骨折もあるだろうが、一応はスキル持ちだ。レベルも高く、初心者冒険者では捕縛が難しい。
しかし記事には俺が与えたダメージに加え、顎を損傷した程度とあった。捕まえたのは相当レベルが高い冒険者だ。おそらくスキル持ち。少し会ってみたくなった。
───で、今に至る。
新たな出発をして五日目。俺たちは藤岡に到着し、本来なら横断を継続するため伊勢崎へ向かうはずが、北上ルートを進んで高崎を目指した。
「リビングメタルの採取、ねぇ」
「グレードは問わないそうです」
「当然だな。マックスグレードなんて、いったいいくらするんだか。最低のグレードでも何百万とするんだし」
高崎には依頼が入ったので向かうことになった。
依頼とは、個人から企業、政府が発注するものである。
今回は大手企業から舞い込んだ。リトルトゥルー宛てに。
リトルトゥルーは設立してからまだ新しい事務所だが、マリアを担当する雨宮というマネージャー含め、優秀な人材が揃っており、ダンジョンのなかや、外に限らず有名な配信者を輩出している。
で、マリアの世界初の偉業で、より有名になり、御影の事件で拍車をかけた。
たった三人のパーティでこそあるが、その内のふたりがスキル持ち。確かに着目はする。
スキルとは、エリクシル粒子適合者のなかでもたった一握りが覚醒する能力だ。人体に定着し、克服したのが日本人。その先の進化をした者が適合者。さらに先のステップへ進んだ者が覚醒者。分類するならこの三つになるだろう。
ダンジョンに潜るなり、政府お抱えの組織の一員なり、配信者になるなり、全体の適合者の一割弱の人数が覚醒者と呼ばれている。滅多になれるものではない。
そんな珍しい人材をふたりも揃えたマリアチャンネル。リトルトゥルーの期待の星と呼ばれているらしい。
「リビングメタルねぇ。………本当に、そんなのあるのかしらね」
着替え終わった鏡花がテントから出た。
ちなみに事務所に所属し、ダンジョンに入るとクリーニングサービスも受けられる。私服であろうとスクリーンで粒子化して送れば、専門のスタッフがクリーニング店に配送、後日綺麗な服となって返ってくる。初心者は回数が限られているが、マリアは別枠ですべてが無料だ。俺も何回か使ったが、なかなか質のいいクリーニングをするようで、俺がいつも使う一般大衆向けのクリーニング店の仕上がりとは質が違った。
「あるぞ」
洗髪もしたのだろう。濡れた髪をタオルで拭いている鏡花に、俺は答えた。
「なによ。もしかして見たことあるの? そんなオーパーツっぽいの」
「ああ。あるぜ」
「あっ………も、もしかしてそれって、三内楓さんの装備ですか!?」
マリアが瞳を輝かせながらにじり寄る。小動物っぽい仕草と、近まる顔と、柑橘系の香りにクラッとして、顔を背けた。
三内楓とは、俺の師匠だ。
伝説的な冒険者のひとりとされる女性で、それを知る前の印象は、もっぱらどこにでもいる近所の世話焼きなおばちゃん。知識を授かる時だけはただ者ではないと思っていたが、偉人だったとは驚くばかりだ。
「いや、先生じゃない。装備であることには違いないだけどな」
「じゃあ誰のよ」
「………先生の他に、俺を教えてくれたひとだ。俺の姉と兄のようなひとでさ」
「へぇ。そのひとたち、冒険者なの?」
「いや、大学生だ」
「は? 大学生?」
「通信制のだけどな。実は俺、そのひとたちとパーティを組もうと思ってたんだ」
「………へぇ。あんたはおバカだけど、腕は立つ方だし………そのあんたが欲しいって言うんだから、強いのね」
「馬鹿は余計だ。………ああ。強いぜ」
「ふーん」
鏡花の反応からして、あのひとたちと戦ってみたいとでも考えたのだろうか。
もし仮に、あのひとたちが目の前にいて「喧嘩してください」と乞われれば───おそらく、鏡花は丸め込まれる。コネコネと。時間をかける必要はない。
「でも、リビングメタルって………ダンジョン由来の新鉱物で、加工技術にとんでもない工程が必要な、通称《職人泣かせ》って言われてるものですよね? 武器に加工できるんですか?」
日々研鑽しているマリアの知識に冴えが目立ち始める。
「ああ。一応、できるらしい」
リビングメタル。別称《生き続ける鋼》は、その名のとおり死なない鋼だ。朽ちることはない。つまり錆びない。
耐久性はもちろん、錆びないのであれば鉄製品を手掛ける誰もが喉から手が出るほどの素材だが、その分加工技術やコストがとんでもないことになる。
釘やネジ一本作るために、工場の年間予算の何割を食い潰すかと言われているほどなのだ。
生きる。つまり成長する。
人間で例えれば簡単だ。赤子が大人に成長する。精神や体格のことを指す。
リビングメタルも成長する。年々肥大化、あるいは形状が変化する。
そんなものを武器に加工などすれば、最初こそ形状は目指したそれになるだろうが、日に日に形状が変化する。剣に加工すれば柄を内側から破壊し、槍に加工すれば重心がよりずれる。銃に加工すればいずれ銃口が閉口する。
武器に誂えたところで、なんのメリットもない。
というのが、一般論。
なかにはいるんだな。とんでもない技術者というか、鍛冶場職人が。
日本刀や弓に加工したあと、形状を変化させない変態技術で、死なない鋼の特徴を活かした異端児が。
俺はそのひとを、たった一度だけだが目にしたことがある。
というか、軽井沢郊外のあの集落の出身だし。なんなら鉄条の幼馴染だし。
今日はあと………2回は更新………できるかなぁ?
というところです。とにかく頑張りますので応援お願いします!
リビングメタルは、どこでも出てきそうなファンタジー素材ですよね。一度は出してみたかった。
日本刀と聞くと、あのキャラですよね。つまりそういうことです。
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