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第59話 これまでの道のり

「ハァ、ハァ、ハァ………」


 激しく息をしながら唾液を垂らす鏡花。美人が崩壊。幼い子供の悪夢に登場しそうな形相。


 壁際に追い詰められたソニックピューマどもは、狩猟本能以外にも知能を備えていたのか、どう足掻いたとしても逃れられない絶対的な危機に怯え、威嚇も無駄だと察して、成獣であるはずが子猫のごとく身を寄せ合って鏡花の異様な好意に戦慄する。


「抱きしめて、あげるわ………ハァ、ハァ」


「ィィィギィィニャァァァアアアアアア!!」


「怖がらなくても、いいのよ………ハァ、ハァ………ぁぁぁぁああああああああ可愛いぃぃいいいいいい!!」


 鏡花が仕留めにかかった。


 あの小柄な体躯から信じられない脚力で一瞬で距離を詰め、十匹をまとめて抱きかかえた。


「この子たち持ち帰る!! ペットにする!! 可愛い! ハァハァ。モフモフ。可愛い!」


「ニャァァァアアアアアア!!」


「キスしてあげるわぁぁあああああ!!」


「ゴボ、ギャ、ッ………」


 これ、動物にやったら確実に愛護団体に訴えられる案件だ。モンスターだから許されるという謎理論を振り翳しているだけだ。


 十匹が万力で締め上げられるかのように、鏡花の腕に収まっていく。


 なんていう膂力をしてやがるのだろう。ソニックピューマの胴が、リボンで結ばれた花束のごとく細くなっていくではないか。


 十匹が泡を吐き、血を流し、鏡花に近い固体はせめてもの抵抗、あるいは一矢報いるために鼻先に噛み付こうとするが、首の筋力だけで迅速に横に移動した顔は、キスのオーダーと勘違いして、頬に唇を押し付ける。デスキッス。


「ガファ」


 断末魔が連続した。ついに鏡花のデストロイハグが、十匹のソニックピューマの胴を切断した。


「あ………ネ゛コ゛チ゛ャ゛ン゛!?」


 なに悲壮感たっぷりの表情で喚いてやがる。まるで自分のペットが目の前で撃ち殺された時のような、悲しみに溢れた顔だ。自分でやったくせに。


「ネコチャン………いなくなっちゃった。命って、なんて儚いんだろう」


「おい。そろそろ黙っとけよサイコパス。あと、テントのなかで着替えてこい」


「頑丈なネコチャンが欲しい………」


 それはきっと、鋼鉄のモンスターでなければ難しいだろう。


 十匹のソニックピューマをちぎり殺した鏡花は返り血どころではない汚れ方をしていた。


 もう目も当てられないくらいの惨状。これについてコメントは騒然となる。


 鏡花のソニックピューマの討伐劇は、もちろんマリアが配信している。最後だけはグロテスクなシーンとなったためフィルターをかけた。モザイクで隠そうにも、全面赤黒く染まっては、多分意味はないだろうが。


「それにしても、ソニックピューマがこんなところにいるなんて珍しいですね」


「そうなのか?」


「はい。ソニックピューマは埼玉ダンジョンに出現すると言われています。レベルも高く、それに名称のとおりとにかく速いんです。群れを倒すのは困難で、技術を要するとされていますが………鏡花さんのアレは」


「アレは規格外だ。参考にしない方がいい」


「ですね」


 マリアは勤勉だ。ダンジョン専門の配信者となるために事務所で一通りの勉強をしたという。なかにはダンジョンモンスターについてや、効率的な倒し方もあったそうだが、今のところ役に立っているのは前者だけだ。彼女は戦闘に向いていないので仕方ないが。


「埼玉ダンジョンのモンスターなので討伐数も少なく、爪や牙は研究対象とされていますので高値で取引されるはずですよ」


「一応、採取しておくか。………骨が貴重だったら、終わってたな」


「全部、背骨がお釈迦ですもんね」


「イカレてやがる」


 鏡花が自分のテントを立てて、なかで着替えている間にソニックピューマの素材の剥ぎ取りを行う。ナイフやペンチなどで剥ぎ取ると、軍手をはめたマリアが受け取ってスクリーンに放り込んだ。


 ダンジョンモンスターに限って、遺骸は残らない。命が尽きれば数分で黒い霧となって消えてしまう。その前に剥ぎ取りを行えば、切除した部分だけは保存が可能だ。


 この関東ダンジョンは、現実味を帯びているようで、ファンタジー感に溢れている。生きるか死ぬかの厳しいサバイバル環境のなかで非現実的な要素を楽しめるかが、ダンジョンで長く過ごせるコツだ。


 マリアも最初はモンスターの遺骸から素材を採取するのに抵抗感があり、グロテスクなほど触りたくないのか拒否反応を示していたが、こうしてともに行動するようになって二週間もすれば、ある程度の抵抗感は薄れて、防刃の軍手越しなら触れても平気になっていた。成長している証拠だ。


「ところで京一さん」


「うん?」


「藤岡に来たわけですけど、本当にいいんでしょうか?」


「なにが?」


「伊勢崎に行くはずが、高崎に行くことになってしまって」


「いいさ。別に、今すぐ最短で行かないと死ぬってわけでもねぇし。俺もマリアのパーティに入ったんだ。依頼はこなすさ」


 このやり取りは二回目だ。三日前にも話したかな。


 これまでの俺の旅は群馬の南を横断するような道だった。


 軽井沢から入り、うねったルートで安中、富岡を経由。南下して下仁田に来ると、群馬ダンジョンと埼玉ダンジョンを結ぶ上野村ゲートを目指すが、噂にあったとおり封鎖され、ふたつ目のゲートが存在する太田へと足を向けることになった。


 その道中で色々なことがあった。


 マリアと鏡花と出会ったのが大きかった。


 俺は特殊な経緯で冒険者の許可証(ライセンス)を審査無しで入手した。養父の鉄条が、かつて有名な冒険者で、そのかつてパーティの仲間が日本の新たな首都、西京都(せいきょうと)で働く、冒険者のライセンス関連の職の上役にいたため、依頼の報酬のひとつとして特別に発行してもらったとか。


 俺は、極力目立つことなくダンジョンを行動しなければならない制限が課された。マリアからパーティ入りの打診をもらったが、断ってソロに戻り、行動するも───結局はマリアと鏡花に再会してしまった。


 それから一週間だけのお試しパーティ編成の要望に妥協し、共に行動してみれば、なぜか居心地の良さに気付いてから、一緒にいるのが当然のような認識になってしまった。


 それはきっと、俺がいた村というか集落のような場所に、同年代の子供が少なかったからかもしれない。あと、鉄条が経営する会社に雇われ、日雇い労働に駆り出されながらも、ダンジョンに挑戦する準備を長年にわたり計画していたから、遊ぶ暇がなかったからか。


 おそらく、一週間一緒にいたとしてもなにも変わらないと考えていた旅は、初日から歴史的快挙を達成してしまう。関東がダンジョン化し、日本が死の国から超進化を遂げた先進国に戻った二百年のなかで、鮮明な映像を遺せなかった関東ダンジョンの地表を撮影したからだ。


 言葉には出せなかったが、いや、どう形容すればいいのかわからなかったが、あれは心に響いた。


 偶然か、必然か。ともあれ俺はこのパーティに入って良かったとだけはわかった。


 鉄条の言いつけを守れずに過ごす背徳的な日々。されども詫びに、あるいは親孝行として仕送りは忘れず。


 そして、三日目に訪れた、平和を乱す出来事。あれだけはどうにも忘れられない。今でも頭にくるくらいだ。


ブクマありがとうございます!

ぬぉぉ………こんなにぶち込まれると、書かないわけにはいかなくなりますね。書きます。今日は最低でも4回は更新を目指します!

皆様、作者に力を!


鏡花がイカレております。このマジキチっぷりに笑っていただければ、ブクマ、評価、感想などで応援していただければ幸いにございます! よろしくお願いします!

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