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エピローグ01

「な、なん………なんだお前たちは」


「んー。虫ケラに名乗るほどの名を持ってるわけじゃないしねぇ」


 ボロボロの御影を見下ろす龍弐は、長細く独特の反りのある棒状のもので肩を叩く。


 ヘッドライトで照らされた漆黒のそれが納刀された日本刀であると理解するのに数秒は要さなかった。


「あ、龍弐。これ見てください。リトルトゥルーがこの悪い虫に報奨金をかけたみたいですよ」


 スクリーンで最近のニュースを閲覧する奏は、載せられた御影の容姿と、今の殴られて腫れ上がった顔を見比べて、それから龍弐にも見えるように移動させた。


「マジィ? おいくら?」


「生存していることを条件に百万円から、だそうです」


「どういうこと?」


「捕獲する際に怪我が少なければ少ないほど良し。ということですかね。余罪がありそうですし、取り調べる時に健康体の方がやりやすいじゃないですか。保存状態が良好ならばなおのこと良し。そういうことでしょうね」


「あー、はいはい。そういうことねぃ。ヤーさん稼業だったもんね。こりゃ大変だ。親分さんもブチ切れてるんじゃないの? 最悪、暴対法で親分さんもしょっぴかれそうだし」


「まぁ、それはこのひとが入っている組織の問題です。私たちの仕事は、このひとの捕獲ですよ」


 パンと柏手を打つ奏は、ジープに積んでいるワイヤーを取りに戻る。龍弐は少しだけ呆れて、視線だけで奏の背を追った。


「ちょいちょい。キョーちゃん捜索はどうなるのさ」


「由々しきことではありますが、京一くんはリトルトゥルーに入ることを決めてしまったようですし、また明日から配信するでしょう。一昨日までという条件だったのが無くなったのであれば、少しくらいは寄り道しても問題ないはずです」


「そりゃ、そうだけどさ。ここでボコしてスカッとしちまえばいいんじゃね? 誰の弟を狙いやがったのか、わからせた方が手っ取り早いって」


「あのねぇ、龍弐。もらえるものはもらっておいた方がお得でしょう? 百万円なんて、ダンジョンに入れば数日で稼げるとはいえです。ところが最近、価格高騰のお陰でこの車の燃費も馬鹿にならなくなってきましたね。移動ばかりしている私たちに、素材採取の時間など数分しか取れませんし。ご飯と休憩と睡眠だって必要ですし。しかし、百万円が手元にあったらどうでしょう? ガソリンがいっぱい買えますよ? なんならおいしいお菓子だって。本来必要とされる作業が省かれるなら、私は今だけ少しの手間であっても、それを選びます。い・い・で・す・ねっ!?」


「あ、はい。了解です。軍曹殿。アイ。サー」


 ビシビシと指で額を小突く奏の勢いに圧され、龍弐はいつものように屈服する。龍弐も運転できるが、その性格ゆえに危ないところがあり、最近は奏が運転している。龍弐はスクリーンでマリアチャンネルの配信を見て、行き先のナビゲートに徹していた。


 そんなふたりのやり取りに、待ち合わせていた人物ではなく、終わりを告げる人物だったと知った御影は、隠し持っていた最後のグロック17を、細心の注意で音を立てず取り出し、左手だけで構えて、親と子の説教みたいな会話をしているふたりに照準を合わせ、ついに引き金を引いた。


 パン。と乾いた銃声が鳴る。同時にキンと()()()が鳴った。



「おいおい。カタギを問答無用で撃つなんて、それがヤーさんのすることかね?」



「………え、は?」



 凶弾は奏の頭を狙っていたが、注意深く見ていたはずの龍弐が目視さえ適わぬ速度で振り返ると同時に白刃を翻す。


 ヘッドライトに照らされた銀色の刀身が不気味に輝きを放つなか、御影は銃弾が不可視な速度で抜刀された日本刀により切断されたのだと、やっと気付く。


「くそっ」


「させねぇよ」


 予備動作どころか、初動さえ見えなかった。瞬きした瞬間に龍弐は御影の目前にいて、夢に出そうなほどの能面のような無表情に変貌した。見た限り、とてもではないが強いとは思えない優男から信じられないほどの神速で接近され、グロック17の銃身を、グリップから先を斬り飛ばしていた。


「え………ガフッ!?」



「おいテメェ。キョーちゃんだけでなく、奏も狙いやがったな? 次やったら殺すぞ」



「龍弐。そこまでです。もう一回でもその悪い虫の頭をサッカーボールみたく蹴ったら、死にますよ」



 享楽的で昼行燈で怠惰をこよなく愛する龍弐とは思えない変貌。


 御影の奇襲を容易く制し、顔面を蹴り上げて意識を奪い、必要があるなら左腕さえ斬り落とさんばかりの殺意。見かねた奏が制止を呼びかけなければ、数秒後に追撃していたかもしれない。


 痙攣する御影を見下ろし、数秒後に刀を鞘に納刀すると、能面のような無表情から、いつもの人懐っこい笑みに戻っていた。


「やべ。()っちゃった。報奨金減っちゃうかな?」


「やむない処置だったと言い訳しましょう。なにせ、銃を持っていたのですから? 顎が砕けていなければ聴取に支障はありません。さ、拘束しましょう。この悪い虫には然るべき罰を受けてもらわなければ」


 奏が手にしたワイヤーを受け取った龍弐。他にも武器がないか調べてから、なぜか亀甲縛りにして後部座席に放り込む。


「太田ゲートねぇ。さぁて、この虫ケラを渡してから、どこで合流しようか」


「藤岡辺りでいいでしょう。ガソリンさえ入手できれば、すぐ追えますよ」


 御影を積んだジープは反転して、元来た道を戻った。






   ▼ ▼ ▼ ▼ ▼






 俺がリトルトゥルー所属を宣言した翌日のこと。


 陽光の差さない地下同然のダンジョンでは、爽やかな朝とは言えない環境のなかにあるとはいえ、気分だけはどうにか晴れやかにすることは適った。


 気の持ちよう(モチベーション)で成功率が異なるだろう。あるいは自分を取り巻く環境など。


「おはよー」


「あ、おはようございます。鏡花さん」


「あんた、ダンジョンのなかだと起きるの早いのね」


「寒いところじゃなければ、いつでもどこでも快眠できるのが私の特技ですっ」


「羨ましいんだか、羨ましくないんだか、わからない特技ね」


 その日、最後に起床したのは珍しく鏡花だった。なんだか目をショボショボとさせてテントから這い出てきた。


 昨日の戦いで、マリア曰く壮絶なスキルの使い方をしたので、脳を酷使したのだろうとか。確かにシンプルな俺のスキルとは違って、人間シャッフルなんていう凶悪な使い方をするタイプだ。疲れが出たのも頷ける。


 ちなみに周囲には俺たちしかいない。昨日は正式な金剛獅子団と灼熱爆雷(レッドボム)などの御影被害者の会たちと祝勝会をして、別れた。俺たちは冒険者だ。各々で目的がある。いつまでも同じところに留まったりはしない。


「ご飯できてますよ。早く食べて、出発しましょう」


「そうね。あ、ハムエッグだ」


「パンも焼けてますよ」


「ああ、バッテリーがあるからトースターも使えるんだ。便利な生活になってきたわねぇ」


「とはいえ、大半が俺の手作りだがな」


「うぐっ」


 今日の朝食は俺が作った。日本人とアメリカ人のハーフであるマリアは、和食より洋食を作るのが得意だと主張するも、最初の卵をダークマターにしたところでフライパンを取り上げ、スープ作りに専念させた。湯に粉を溶かすだけだ。誰でもできる。


「藤岡には何日くらいで着くと思う?」


「明日か、明後日かくらいか」


「そうね。多く見積もってそのくらいよ。で、ルートによっては北上するか南下するかで決まるわ。太田………うーん、伊勢崎や桐生を通るのかしらね」


「歩きながら決めようぜ」


「そうね。もう、時間の制限はないんだもんね」


 顆粒タイプのオニオンスープを飲み、パンとハムエッグを完食し終えると、食後のコーヒーが待っていた。


「気ままな旅って、いいですね」


「行き先は風に聞けってか? おいおい。勘弁してくれよ。またダンジョンの上に出るのか?」


「あんた、そんな古いネタよく知ってるわね」


「お前こそ」


「あはは」


 暗がりの洞窟に似合わない、明るい会話が続く。


 食後の食器洗浄はマリアが終わらせ、テーブルなどもすべてスクリーンに収納する。


 立ち上がった俺たちは、それぞれの装備を確認。


 最後にマリアがカメラを構え、配信を開始。





「皆さんおはようございます! マリアチャンネルにようこそ! 今日から伝説的なレジェンドさんが正式にメンバーに加入し、皆殺し姫さんとともに東京を目指して旅を始めます! ドキドキワクワクの大冒険! 未踏の地、東京にはなにが私たちを待っているのでしょうか? ───私たちはなにがあっても挫けません! 応援、よろしくお願いします!」




第一章が終わりました。

第二章はもっと波乱の予感です。面白そうと思ってくださったら、ブクマ、評価、感想などで作者を応援していただければ幸いです!

よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
(御影とかいうクソは完全に)終わったなぁ…。所詮、クズはクズなのだぁ…!!(伝説でスーパーなブロッコリー並感
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