第54話 セカンドスキル
「京一さんが御影と接触! 戦闘を開始しました!」
「これでうろちょろと逃げ回る腐れネズミも終わりってことね。………で、あんたたちはどうすんの? このまま続けても意味はねぇわよ」
メインカメラを破壊されようと、サブカメラさえあれば配信者は撮影を継続できます。
私は鏡花さんと、本当の金剛獅子団の皆さんの庇護下に入り、遠隔操作で撮影と実況中継に集中しました。
こちらの様子はサブカメラを根吉さんというひとに預けたままなので配信はできませんが、視聴者が見たいと切望するのは御影の末路。まったく問題ありません。私はインカムによって京一さんへ逐次報告をするだけです。
人数はこちらの方が少ないですが、スキル持ちの鏡花さんがいるだけで戦力差は覆すことができます。こちらができる仕事も、いよいよ大詰めとなりました。
私たちに敵対し、トカゲのしっぽ切りに遭いながらも、報われることのない努力を続ける御影の私兵たる一軍と二軍の面々は、抵抗を試みる度に鏡花さんの壮絶な人間シャッフルによってシェイクされ、体力をごっそりと奪われていきます。
ただ、敵はただ倒れるだけではありません。群馬ダンジョンでも凶悪なモンスターを仕留められる実力があるゆえ、耐久力が並外れているだけでなく、人間シャッフルの対抗策も講じるようになりました。
鏡花さんがスキルを発動する寸前で回復薬を開け、上に投げます。
鏡花さんのスキル、置換は瞬間移動ではなく、入れ替えることにあります。入れ替える場所をずらすことはできず、広範囲に拡散した回復薬を浴びた一軍と二軍は、起き上がる速度が増し始めました。
「面倒くせぇわねぇ」
生ゴミを見る目をする鏡花さん。カメラがなくて良かったです。こんな顔、映したら放送事故です。
「へへっ………もう終わりか? 皆殺し姫ちゃんよぉ」
「俺らはいい感じで温まってきたところだぜ?」
「万策尽きちゃったかなぁ? こっちにはまだ、大量の回復薬があんだよぉ」
「テメェのスキル、あと何回使えるんだぁ? こっちの回復薬が尽きる前に俺らを倒さねえと、御影さんに突き出す前にブチ犯しちゃうぞぉ?」
まるで某ゾンビ映画さながらの執拗さです。
そして、スキル持ちと呼ばれる覚醒者の弱点をよく心得ています。
聞いた話によると、スキルを使うにも回数制限があるとか。
私たちのステータス値の他に、隠れたバーがあり、そのポイントを消費してスキルを発動できるといいます。鏡花さんは何十回とスキルを使っています。もしかすると、もう限界かもしれません。
「マリアさん。皆殺し姫さん。下がってください!」
「ちょっと。なに勝手に前に出てんのよ」
「あなただけが頼りなんだ! 俺たちが壁になって時間を稼ぎますから、回復に専念を!」
金剛獅子団の皆さんが鏡花さんより前に出て、これまで無理矢理従事させられた一軍と二軍の前に立ち塞がります。その距離、十メートル。
「はっ。いい度胸じゃねえかカスども。じゃ、こういうのはどうだ?」
「え………ちょ、なにそれ」
一軍の全員がスクリーンから丸いなにかを取り出します。
その鋼鉄製のなにかは、見ただけで危険だとわかるほどの威容を発していました。これには金剛獅子団の皆さんが青ざめて硬直してしまいます。私もそうです。
「御影さんからもらったんだよぉ」
「こんなのでも、モンスターの口のなかに突っ込んで起爆すればぶっ殺せるからなぁ」
「あとはぁ………テメェらみてぇな跳ねっ返りの処理をする時とかに便利だしなぁ」
汚く笑う一軍たちは、あえて見せびらかすように握った手りゅう弾を掲げ、もう片方の手で安全ピンを弄びます。いつでも殺せるとアピールするように。
このダンジョンに現代の兵器や武器が持ち込まれるのは、なにもこれが初めてではありません。
関東ダンジョン開拓史における最初の一ページ目から登場しています。
なにもかもが未知で溢れていた超立体的構造物にモンスターの存在が確認され、当時の日本は自衛隊を派遣。未知なる害獣駆除の名目で出撃を果たし、モンスターを銃器の火線に晒して掃討。多大な犠牲を払いつつも、やっと人類が支配していた土地の地下の一部を取り返したのです。
しかし銃火器が用いられた時代は短いものでした。
エリクシル粒子適合者の超人ぶりに、銃火器を用いる方が非効率であるとされたのです。銃は弾が無ければ撃つことができません。冒険者は短期の攻略をすることがあれば、長期の攻略を挑むパーティもいます。
ですが最近になって銃火器も再評価を受けました。スクリーン内での物資の送信です。重たいガトリングガンも運搬可能。弾も購入したりストックすればすぐ取り出せます。よって、ダンジョン内の人間の治安を維持するための政府公認の部隊のみを、試験目的で銃火器の装備を許したとか。
その他で銃や兵器を持ち歩けるとすれば、非公式なルートで不正売買をした者たち。御影が組織を通じて購入したのも頷けます。
しかし、
「ナンセンスねぇ。今さらそんなおもちゃを持ち出したところで、私に勝てると思ってるとか………笑っちまうわぁ」
鏡花さんは九個の手榴弾を目前にしても、まったく怯む様子がありませんでした。
「強がっても無駄だぜ? 皆殺し姫ちゃんよぅ」
「あ? 強がり? 笑えない冗談だわ。………いいわ。投げてみなさい。ほら、そのピン抜いて。さっさとしなさいよ」
この期に及んで、とんでもないことを言い出す鏡花さん。
確かにスキルを使えば簡単です。
しかし、距離が近すぎる上、彼女のスキルは置換。手放した手榴弾を一軍と二軍を入れ替えたところで、敵は全滅するでしょうが、私たちも無傷とはいきません。
そんなことは一番わかっているはずの鏡花さんですが、あろうことか挑発に出たのです。
「もしかしてよ。俺たちが投げられるはずがないとでも思ってんのかぁ?」
「上等だ。なら精々あの世で一緒に後悔するとしようぜぇ!」
一軍は自棄になって、ついに安全ピンを抜いた手榴弾を投擲しました。金剛獅子団はわっと叫んで逃げます。
「鏡花さん!? なにやってるんですか!?」
「マリア。ここにはカメラはないわよね?」
「ありませんよ! そんなこといいから───」
「なら問題ないわ。これはまだ、大勢に見られるわけにはいかないもの」
宙を舞う九個の手榴弾を見上げつつ、鏡花さんはスクリーンを光速でタップします。
そして、私たちの目の前で、とんでもないことを始めたのです。
「セカンドスキル───解放」
操作していたのはスクリーンでした。まだ私が見ていない、最下部にある項目を。
そこにあったのは、置換というスキル項目でした。それを右から左へスワイプし、まったく別のものに変化させたのです。
「このゴミ野郎ども。調子に乗るんじゃねぇわよ。私がいつ限界だって言った? 私はまだ、半分しか力を使ってねぇわよッ!!」
走り出す鏡花さんは跳躍し、炸裂寸前の手榴弾を掴みました。
閃光と熱を撒き散らすはずの手榴弾は、閃光はそのままに、熱とサイズを時間が停止したように圧し留め、鏡花さんの手のなかに収まりました。そしてダーツを投げて自分を置換し、九個すべての手榴弾を爆発する直後に留めた状態で回収したのです。
「なっ………!?」
「なんだよ………それは」
「あんたたちが知る必要のないものよ」
オレンジ色の光を手に収め、それどころかギュッと内側に向けて圧縮していく鏡花さんの手には、ついにゴルフボールサイズの火球が誕生していました。
セカンドスキル………信じられません。
まさか。そんなものがあったなんて。
御影と勝負をする前に後片付けを兼ねて鏡花の実力をお披露目しました。
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