第53話 やっちまえ伝説的なレジェンド
「あ、ああ………ぁぁぁぁあああ………っぁ」
「なんだよ。今にも泣きそうな面しやがって。そんなに俺に会えたことが嬉しかったのか?」
「不愉快極まりないだけだこのクソガキィッ!!」
御影は、イケメンが台無しになるほどの形相で感情のすべてを吐き出した。
まぁ、そうなるようわかっていて仕組んだんだけどな。
「なぜお前がここにいる!? お前は………別のところを歩いていたはずだ!」
「ああ、やっぱり配信見てたのか。───もういいぜ、マリア。戻るよう言ってくれ」
「………はぁ?」
俺が耳に手を当てて通信すると、御影は口を開いて脱力する。
「なにを、した………なんで僕が、ここに来ると………歩いていたのは………誰なんだ?」
「質問が多い野郎だ。じゃ、順番に答えてやるかな。なにをした、ってのは簡単だ。追い込み漁って知ってるか? その名の通り、お前はここに追い込まれた。根吉はな、お前のスキルの特徴を熟知してたみたいだぜ?」
「特徴………?」
「ああ。お前はどこにでも瞬間移動できるわけじゃない。あらかじめ、ポイントを打っておくんだろ? このダンジョンで記憶した場所とかな。なんでそれが判明したか。理由は簡単。元金剛獅子団の連中を捨てた場所だ。群馬の小腸なんかが多かったみたいだな。根吉はしっかりと記憶してたみたいだぜ? 構造が変わろうとな。お前が誰かに見つかった理由がそれだよ。あいつらを捨てた場所に移動した。根吉は重点的に部下を配置したらしいぜ? どこに逃げようが発見できるようにな」
「………有り得ない………何ヶ所あると思っているんだ」
「根吉たちの執念だろ。舐めてかかったお前の負けだ。それから、昨日殺した冒険者パーティだがな、根吉の部下たちがお前らを尾行して、現場を去ってから蘇生したらしい。マリアも喜んでたよ。誰ひとりとして死んじゃいなかったんだ。お陰でこの作戦を説明したら、喜んで協力してくれたぜ」
俺は直接、御影の敗走劇を見たわけではない。
だが今も継続するマリアチャンネルの配信を見ることはできる。
冒険者は配信者の動画を見ることができる。俺のように。だから移動するであろうポイントに配属された元金剛獅子団のメンバー然り、灼熱爆雷を始めとする御影の被害者の会然り、発見すればコメントで報告して情報共有ができるわけだ。
「マリアもチャンネル登録数が爆上りしてたからなぁ。視聴者全員に最初に依頼したんだよ。お前を発見したらコメントしろって。お前のスキルのことも全部話した上でな。すると動画を見てたインテリの連中が確率論とか検証し始めてよ。コメント覧で喧々諤々して、満場一致でここに来るって答えを出したわけだ。すげぇよな。うちのボスは日本で有名なメンタリストとか、大学教授まで味方に付けちまったんだ。お陰でお前みたいなクソッタレを、こうして追い詰めることができたよ。大したもんだ。日本もまだまだ捨てたもんじゃねぇな」
「う、あ………」
「ああ、そうだ。動画のことだったな。歩いてたのは根吉だよ。メンタリスト先生がお前にプレッシャーをかけるために、追いかけていることをアピールすべきだってアドバイスしてくれてな。ただただ歩いているだけの動画でも、重圧感あったんじゃねぇか? 根吉だって疲れてるはずなのに、喜んで歩いてくれたよ。で、俺はこうしてここでお前を待ってた。時間の余裕もあった。笑いが止まらねえぜ」
実際に、俺は低く笑っていた。
視界の隅には縮小化したスクリーンがあり、御影の驚愕に染まった姿を映している。
俺の方でも御影が現れてから配信を始めていた。
マリアから渡されたのはインカムとサブカメラ。そのインカムはマリアと同じもので、ダンジョンの外の、しかも西京都まで通信できるという優れもの。ただしチャンネルはマリアと固定。マネージャーとやらと会話はできないし、しない方が俺は嬉しい。面倒だし。
それを合図にして、俺が壁に設置したサブカメラで、こちらの配信が始まった。コメント覧は今までにないほどの大盛り上がり。まるで視聴者数歴代トップのドラマのクライマックスシーンを見ているようだろうな。
ここでコメントを抜粋。
《やっちまえ伝説的なレジェンド!》
《絶対に逃がすんじゃねぇぞ!》
《最後まで見てるからな!》
《マリアちゃんに乱暴した最低なひとをこらしめてください!》
《冒険者のなんたるかを、外道に教えてやれ!》
《速報。御影が今世紀最大の慌てぶり。地獄行き確定》
《そんな雑魚とっとと畳んじまいな。キョーちゃん》
《この顔たまんねぇわ》
《おばちゃんの伝言。殺さない程度に痛め付けろだって。キョーイチ》
《泣いちゃう? 泣いちゃうんですかぁ? 御影さぁん?》
《泣いてもいいよー。御影》
《いいわねぇ。こういうの。私好みの男の子だったんだけど、女の子に乱暴する子はクズよ。最高に面白いわぁ》
「ふーん。お前、盛大に嫌われたなぁ。笑える」
「笑うなあぁぁあああああ!!」
煩い野郎だ。年貢の納め時が近いって時に、まだ抗おうってのか。
そんなの無駄なのにな。
「ちなみに、逃げたとしても無駄だぜ? お前を追う連中はダンジョンに大勢いる。味方しようなんて奴はいないだろ。聞いた話じゃ、ダンジョンには政府から送り込まれた適合者部隊がいるんだってな。ダンジョンが無法地帯にならないように。逃げれば今後、そういうヤバイのにも追われることになるだろうよ」
これは本当のことだ。龍弐さんが言っていた。
なにやら、近年は外国人の冒険者も急増したらしく、そういうのに限って密売やら密輸入やらやらかす連中らしく。取り締まり対象は風紀を乱す日本人のみならず、二百年前に日本を支配できなかった諸外国たちが法を犯して純利だけを得ようとする行為が顕著となったからだとか。ダンジョンで採取できる未知な物質は、それだけ利益を生むからな。外国だって欲しくなるのは当然だ。
「けど、うちのボスも大した器だ。ともに行動したよしみで、お前が犯した罪を軽減する条件を用意してたぜ?」
「………は?」
ここまで追い詰めておきながら逃げられるのは、俺も気分がスッキリしない。
マリアは俺たちや、自分の怒りを忘れてはいなかった。
ゆえに、御影が絶対に俺と戦う条件を用意していた。マネージャーからは大反対をされたが、頑なに首を横に振り、撤回しようとはしなかった。
「俺と戦え。で、勝ったら………今回の一連の騒動の責任は追及しない、だそうだ。マリア含め、リトルトゥルー、金剛獅子団、お前が殺した冒険者パーティからの被害届は出さないってな。そうなればお前は、まぁ………無罪とはいかないまでも、罪は半減するどころか、軽微なものになるんじゃね?」
「なんだと………?」
「お前にとっちゃ破格の条件だと思うがね。どうだ? やるか?」
唖然としていた御影だが、次第に青白かった顔色に血色が戻り始める。
「ふ、ふは………あははは………あのアバズレ、馬鹿なのか? そんな条件で僕を許すなんて………ああ、いいよ。やってやる。もう戻れないんだ。どちみち、お前たちは殺すつもりだった。まず最初に鏡花を。次にお前を。最後にマリアをじっくりと………けど、順番が入れ替わっただけだ。メインは残っている。絶対にマリアを殺す!!」
「させねぇよ馬鹿野郎。お前は俺にはっ倒されるんだ。今日、ここでな」
食いついた。これでいい。
全員が俺に注目する。負けるなと応援する。
当然だ。負けるはずがない。負けるつもりもない。
お膳立て終了。追い込み漁も楽しいものです。
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