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第4話 ダンジョンゲートへ

 昨夜のことだ。



「いいかクソガキ。この軽井沢は閑散としちまったが、ある意味で西京都から送られる冒険者どもにとっちゃ、ホットスポットみてぇな場所でもある。なんでかわかるか?」



 私物をできるだけ詰め込んでいた俺に鉄条が言った。



「俺らの時代に群馬、栃木、茨城で初めてダンジョンの一部を占領───いや、そうじゃねぇか。奪還した場所があるのは知ってるな? そうだ。群馬で言えばここらだ。そこはダンジョン化した土地と、まだそうじゃねぇ土地の境目だ。色々な機材を使って、壁の向こうに空間があることを確認してから壁を穿ち、ダンジョンモンスターどもを滅ぼして拠点にした。それ以降、それがダンジョンへの入り口となったんだな」



 それは俺も知っていた。映像化された資料がアーカイブにあったからだ。


 ダンジョンの入り口はある日突然に現れる。境目で壁の崩落を確認した日など。


 原因は地震だとか、ダンジョンモンスター同士が暴れて穴が空いたとか。


 当時は今のように冒険者業が盛んではなかったので防衛省が管理し、境目は自衛隊が二十四時間に渡る厳重な警戒網を敷いて監視していたという。


 多くの被害者を出しつつも日本を守ってきた先人たちがいるから、俺たちがここにいる。


 そして鉄条たち時代の先駆者たちが冒険者業を世に知らしめ、一大ビジネスとして認知されるようになった。



「テメェのマッピングは悪かねぇ。北軽井沢方面から攻めに行くなんざ、初心者のするこった」



 鉄条が引退してから、ダンジョンの入り口は増えた。それも各地でだ。


 内訳としては、ダンジョンを管理できるだけの実力者が増えたことにある。


 戦闘機や戦車ならともかく、小銃ではダンジョンモンスターなど相手になるはずがない。


 湧出する度に戦車を導入していては予算がかかる。削減の意味でも効率化を求めた。鉄条が軽井沢を管理するように。引退した冒険者を主幹に添えて司令官とした。兵隊は西京都の新政府が結成したエリクシル適合者部隊。彼らは一般人と比べて専用の訓練を受けたエリートで、能力値パラメータを戦闘に特化させている。並のモンスターなら数人で倒せるほどに。



「北軽井沢方面は守りが厚い上に、初心者どもの巣窟と化した。なにやら配信者とかいう職業の、訳のわからん連中まで蔓延って稼いでるようだがな。だからひとが密集して、逆に動き辛い。特にテメェは、最初こそ人目を避ける必要がある。よって、テメェの決めたルートどおり、下仁田から行け。あそこは俺が三回目に開けた入り口がある。初心者どもが挑戦するにゃレベルが高いが、比例して人数も少ねぇ。埼玉も近い。ま、やれるとこまでやってみな」



 鉄条のお墨付きをもらった俺の初期ルートは、旧時代的の地図と照らし合わせることで抜群の精度となるだろう。


 200年前は碓氷峠なる群馬県にすぐ入れる山道があったらしいが、県境はすでに隆起してしまって使い物にならない。


 ゆえに俺は車道のなかでも確実性のあるルートを選んだ。


 過去に存在した高速道路である。碓氷軽井沢インターがあった上信越自動車道。今は隆起した地表の上にあるだろうから、その下を通過すればいい。あわよくば下仁田から上野村方面に出られる。




「よし………っ!」


 エリクシル粒子適合者と自覚して数年。


 俺は昔と比べて、様々なことができるようになった。その体が完成しつつある。


 力の配分や、全身にエリクシル粒子が循環したことを確認し、旧車道の傍にある巨木の、高い場所にある枝まで跳躍した。


 十メートルは跳んだ。全力も要らない。半分ほどの力だ。


 そして木々を跳躍する。止まることなく連続で。


 軽井沢は昔は東京から出る新幹線が停車する駅として知られ、広大な土地には郊外までゴルフ場が建設された。自動車がなければ移動が難しくなるほどの距離にまで。


 碓氷軽井沢インター跡地は郊外からだとしても距離がある。俺には自動車なんてものは無い。歩いて行けば日が暮れる。


 よって、効率的な移動法を選んだ。緩やかなものからきつめなカーブのある車道ではなく空中を直線で跳躍する。


 元から閑散としていた場所に市井などはない。障害物を逆に足場にしてしまえば山も越えられる。


 木々を跳躍すること三十分。俺は予定どおり県境のダンジョンゲートに到着した。


「ライセンスを拝見」


 ダンジョンゲートは鉄門で硬く封鎖されていた。北軽井沢方面は往来が激しいためオープン状態らしい。


 門番を務める引退した元冒険者の中年の男にライセンスを提示し、その門番が手を振ると別の男が重い腰を上げ、鉄門を人間がひとり入れるくらい開けた。


「新米かい?」


「まぁな」


 ライセンスが返却されると門番が声をかけてきた。


「へぇ、度胸があるのか、無謀な馬鹿か。ここの難易度を知ってのことか? 知らないなら無理は言わねえ。戻って北軽井沢から入りな。誰も文句は言わねえよ」


 この愉快な門番は品定めでもするような目で俺を見ながら、挨拶代わりに早速脅しにかかる。


「俺は別に、自分が天才だなんて思っちゃいねぇよ。だが事前に調べてはある。無謀でもなんでもねぇ。俺ならやれるって信じてるからな。通るぜ」


「ヘッ………お前みてぇな無鉄砲なガキは嫌いじゃないぜ。ま、精々死なねえくらいに頑張りな」


「あいよ」


 案外、いい奴なのかもな。


 鉄門を通るとすぐにそれが動き、俺はついに外界から遮断された。


 ゴゴォン。と重たい鉄のぶつかる音が響く。まるでゴングのように。



「これが、関東ダンジョンか………まるで洞窟のなかにいるみたいなのに、案外明るいんだな」



 俺の知らない世界が広がっていた。


 深く息を吸って、吐く。何回か深呼吸を繰り返す。


 気分が高揚していた。恐怖や緊張などではない。ワクワクしている。


 ここは日本だ。日本の国土なのに、ダンジョンのなかはまるで異国───いや異世界のようにも思える。


 空気がやけに重い。深呼吸でリラックスした途端に肩に重圧を感じた。


 重力が強いのかつま先まで重い。湿気過多か、あるいは汗のせいか前髪が額に張り付く。


 鉄条が現役の時代に開いた三つ目のゲートは、地上にあるはずにして地下を思わせる空間となっていた。


 軽井沢の町の学校跡地にある荒れ果てたグラウンドと同等の広域に、百人ほどが活動している。北軽井沢ゲートは千人いて、往来があるから毎日追加で数十人とか。まるで大きめな村のようだ。


 比べてこのゲートは集落だ。冒険者を支えるためのアイテム屋が規模を縮小して営業している。一昔前なら繁盛したが、技術の発展とともに粒子化を可能にした今、現地調達あるいはスタート地点に戻って補給をする必要がない。衰退の一途を辿るだけ。


 唯一、ギリギリ黒字なのは宿屋くらいだ。ゲートが閉じてしまってはライフラインも遮断され、ガス水道電気が無い。自力でなんとかしながらも、しかし有料とはいえ清潔そうな寝床が確保できるなら、冒険者は躊躇いなくそれを選ぶだろう。


「………行くか」


 俺の登場と同時に、なにやら先程から露店の連中の目の色が変わり始めている。どうにかして金を落としてもらおうという魂胆だ。変に絡まれる前にここから離れなくてはな。


もし面白そう、期待できると感じてくださったら評価とブクマを叩き込んでくださると作者が泣いて喜びますのでよろしくお願いします!


以後、本ダンジョンは盛り上がった関東平野の下を移動するので、もしかしたら関東にお住まいの方、旅行をしたことがある方が知っている場所が出るかもしれませんので、「ああ、ここ知ってる」などの感想もお待ちしております。

(注意:桐生落陽の妄想の世界が関東平野の地下にありますので、実際に地上にある既存の建造物や特徴までは出ないかもしれませんのであしからず)

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