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第48話 やっぱり狂ってるなぁ

「………あなたは面白いひとだ。でも、もうここまでです」


 御影は部下から受け取った私のカメラを受け取り、そしてスキルを使って半分に裂いた。


 私の視界の隅で、配信が停止したと縮小化したスクリーンに表示が出る。


 だが、そんなことは関係ない。



「うわぁぁああああああああああっ!!」



「おっ?」



 ポケットに入れておいた、かけがえのない仲間からもらったものを出し、投げる。


 しかしそれは、御影に当たることもなく、横を通過して地面に落下した。


「あはっ………ハハハ! それがあなたの抵抗ですか。本当に愉快だ。なんなら、そのまま突き刺しに来ればいいのに。初心者どころか、投げたこともないんですね。普通、ダーツを指すべてで握って投げようとしませんよ?」


「煩い………黙れ!」


 鏡花さんから預かった黒いダーツと私を交互に見て、一軍とともに哄笑する御影。


「なんなんだよお前………こんなことして………いったい、なにがしたいんだよ!?」


「ああ、そういえばもう配信は終わっているんでしたっけ。ならいいか。ト・ク・ベ・ツ・に、教えてあげます」


「ウィンクするな! 気持ち悪い!」


 本当に気持ちが悪い。鳥肌が立った。


 御影はそれ以上の抵抗があろうと無かろうと、私が無力化できていることがわかっているので、愉快そうに語り始めた。


「金ですよ」


「は?」


「だから、金。マネー。リトルトゥルーは確かにまだ小さい。しかしあなたたちは、最近になって偉業を達成した。二百年の時を経て、初めて鮮明な光景を映像で全国に届けた配信者。事務所は、それはもう素晴らしい収益となったでしょう。あなたの同期たちや先輩もインタビューや出演依頼があったんじゃないですか? あなたを語るために。なんなら西京都から報酬だって出たはずだ。僕たちはね、それが欲しいんですよ」


「………なんのために」


「まぁ、これでも色々やってましてね。なにより裏社会の繋がりは金が必要ですし………」


「じゃあ、非公式なゲートを繋げたとか、宿に通じてるとかっていうのは………」


「ええ。僕が入っている組織が管理しています。なんか、上の方でゴタゴタがあったそうで。上納金の額が跳ね上がったんですよ。ハァ。本当にいい迷惑だ。冒険者稼業も稼げるっちゃ稼げるんですけどね。でも額がおかしい。で、白羽の矢を立てたのがあなたというわけだ。あなたはとても素晴らしいひとだ。まさに金の成る木。僕にとっては金を無限に生産する聖母だ」


「………ざけんな………そんな、くだらないことのために………」


「あなたにとってはくだらなくても、僕にとっては真剣です」


 裏社会の人間だったとは。


 だが、そうなるとわからない部分もある。いや、多分………


「じゃあ、お前の母親の入院費は………」


「あはっ。まだそんなこと信じてたんですか? もう死にましたよ。父が殺しました。酒に酔ってね。殴り殺したところを見て、ブチ切れた僕はスキルを覚醒。で、父を殺しました。八つ裂きってやつですよ。傑作です。泣きながら四肢がもがれていくんです。あの悲鳴は………ああ………清々しくなるほど、笑えた」


「最低だ」


「ええ。父は最低な奴です。事業に失敗し酒に溺れ、僕と母を殴り、果てには変な組織から金を借りて………でもまぁ、その組織に拾われた僕は、こうして大成するのですが」


「お前が最低なんだよっ! その父親と同じか、それ以上だ!」


「………不愉快なひとだ。僕をあんな男と同じと言うなんて」


「黙れ! 同じ殺人者だ。そこになんの差がある? あるわけないだろうが!」


 渾身の力を込めて叫んだ。


「どうせ、同じ手口で犯罪を繰り返してたんだろ。御影。お前本当にどうしようもない奴だな」


「………煩いなぁ。苛々させてくれるったらもう………はいはい。そうですよ。そうやって稼いでいました。僕はこのダンジョンで、三十を超えるパーティを壊滅させ、金に換えました。適合者って便利ですからね。頑丈だし。洗脳すれば良い兵隊になるんですよ。それを僕は、川西木組に売りました。どうです? 満足しましたか?」


「反省は無しかよ………」


「してほしいですか? まあ、しませんけどね。今さらですし。あなたは変なひとだ。僕の感情をここまで揺さぶったのは、あのろくでもない父以来です。どうも、余計なことまで喋ってしまう。悪い癖だな………癖?」


 御影は、ハッとした。まるで電気が走ったかのように。


 そしてその手でスクリーンを操作する。


「本当、どうしようもない。その癖を利用させてもらったよ」


「まさか………いや、そんなはずがない。だって、カメラは壊して………」



「本当にか? いや、なにも知らないよな。配信者になるつもりはなかったんだもんな。じゃあ知らなくて当然だ。教えてやる。私たち配信者が、いつも持ち歩いているカメラがひとつだけなんて限らないだろうがっ!」



 ここで、最大の現実を突き付ける。


 御影はやっと気付いた。私の報復は、カメラを壊されて配信が止まってからも続いていた。


 まさに、今この瞬間もだ。



「嘘だ………なぜ………なぜ、あなたが投げたダーツが、サブカメラに変わっている!?」



 やっとだ。やっと、御影が狼狽した。これ以上とないくらいに。


 こいつが言うように、私が投げたダーツは、小さいキューブ型のサブカメラに変わっていた。まるで、見えないなにかに()()されたように。


「まさかあなたは………あなたまでもが、スキル持ちなのか………?」


「さぁ。それはどうかな。試してみればいいでしょ」


 これは嘘。私は仲間に頼った。最後の報復は仲間の能力だ。


 スキル持ち同士の衝突は、稀にあることだ。ただでさえ人数が少ないことから、遭遇する確率が極端に低いという。


 前例がないので、衝突すればお互いにどうなるからからない。


 なにより御影のスキルはしっかりとカメラに収めたとおり、どんなものかは知れている。対する御影は私がどんなスキルを持っているのかわからない。一騎当千とも呼ばれる能力だ。軽率な行動は命取りとなる。警戒する御影は動けなくなる………はずだった。


「いや、これはあなたのスキルではない。自在に使えるなら、こんな回りくどい方法など選ぶはずがない。あはっ。冷静になりさえすれば、あなたにもう陥れられることはない 終わりだマリアさん。やはり馬鹿な女だ。スキルを使えないあなたは、相変わらず無力だというのに逃げも隠れもしない。殺されるとわかっているはずなのに!」


「う………くぁ………」


 瞬時にブラフを見抜いた御影に捕まった私は、手を振り解こうとするも、首に絡まった五指の絞めつけに、呼吸が詰まり、持ち上げられる。震える両手で首を絞める御影の腕を解こうとするも、爪ですら傷を付けられなかった。


「生きていれば人質として身代金が狙えたが、すべてが暴露されたなら仕方ない。あなたはもう用済みだ。配信者として悲惨な末路をファンの前に晒すといいさ」


「かふっ、ぐ、ぅ………」


 意識が遠退き始める。殺されるとわかって報復した。これで私にできることはすべて終わった。


 ………でも、やはり未練はある。


「ぁ………」


 抵抗する力を失い、両手が落ちる。


 未練。会いたいひとがいる。両親もそうだ。雨宮さんも。


 けどもうふたりいる。


 鏡花さん。それから、京一さん。


 初めてダンジョンで得た仲間。とても大切な友達。


 ………助けて。会いたい。


 ………京一さん。鏡花さん。






「マリアァァァァアアアアアアアアアアッッッ!!」






「な、っにぃ………!?」





 咆哮が炸裂した。



 ひとつはキューブ型のサブカメラが姿を変え、知った女の子の姿に。



 もうひとつは、なんとメタルべアーのごとく壁を突き破って現れた男の子。



 確かに助けてくれるって言ってたけど、こんな登場方法を選ぶなんて思わなかった。



 やっぱり狂ってるなぁ。



ブクマありがとうございます!

そして、かか、感想だぁぁああああ!

熱い気合いをいただきました。書いちゃう。もう書いちゃいます。作者は欲張りですが、ブチ込まれた気合いに対する感謝は忘れないのです。てなわけ六回目の更新を、今週も完了することができました!


やっとここまで来ました。焦らしました。お待たせしました。ここからが第一章のラストバトルです。

最高の盛り上がりだと思います。面白いと思ってくださるなら、ブクマ、評価、感想で応援してくださると幸いです!


これで今日の更新を終わります。六話書きました。疲れたぁ。

明日から元のペースに戻ります。

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