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第47話 このファッキンシットども!!

 陽がないと時間の移ろいがわからないので不便なものでした。


 恐怖に囚われた私は、雨宮さんの激励で少しだけ勇気を取り戻し、眠ることができました。


 しかし朝の目覚めは最悪でした。



「起きろ荷物がぁっ!!」



「あ………がぁ」



 またドラム缶を蹴られ、鼻を打ち付けて出血したことで溺れかけました。


 髪を掴まれて持ち上げられ、地面に叩き付けられます。こうなると荷物以下の扱いです。


「テメェ、荷物の分際で所有者よりも遅く起きるたぁ、どういう了見だ。ァアン!?」


「う、くぅ」


『頑張って………頑張って、マリア!』


 蹴られ、踏まれ、また蹴られて。


 ついに嘔吐したところで暴行は止みました。


「おはよう。荷物(マリア)さん。ここでは僕の言うことは絶対だから、逆らわないでね? 逆らったら………そうだな。裸で歩いてもらおうかな。こんな風に」


「ひっ………」


 肩を掴まれた次の瞬間。背中で生地が破れる音が耳に響きました。


 怯えた私の反応を見て、御影さんは大層嬉しそうに笑っていました。


「大袈裟だな。ジャケットを破り捨てただけじゃない。ゲロで汚れてたし。でも次逆らったらシャツとズボンも破るからね?」


「………はぃ」


「よろしい。じゃあ、行こうか」


 御影さんの合図で、私はまた担がれます。


 それから、今何時なのかもわからないまま、歩き続けます。


 ただ、出発から数時間後に一瞬だけ希望が芽生えた時がありました。


「敵襲!」


 二軍の索敵をする方が叫びました。


 モンスターかと思いきや、いつもと反応が異なりました。


「なんだぁ? おい。人間じゃねぇか」


「御影さーん。なんか、冒険者が敵意剥き出しでこっち来ますぜー」


 冒険者と聞いてハッとします。


「十人か。うん。あれは………灼熱爆雷(レッドボム)だね。全軍停止。僕がやる。お前たちじゃキツいだろ」


「お願いしますぜ」


 十人という数で、私の求めるひとたちではないと知りました。


 けど、それが雨宮さんが依頼した金剛獅子団討伐のために差遣された冒険者パーティだとわかりました。


「止まれ! 金剛獅子団だな? そこのお前。山代御影で間違いないな?」


「ええ。そのとおりです。しかし、彼の有名な灼熱爆雷(レッドボム)の方々が、いったいなんの御用でしょうか?」


「恍けるな。そこのデカイのが担いでいる少女はなんだ。………下衆め。女を暴行したか。それはリトルトゥルー所属、五反マリアだ。彼女の拉致監禁と、暴行を確認。よって貴様らを拘束する!」


「………へえ。なるほど。()()()()()か。自分では間に合わないからって、リトルトゥルーに連絡したってところかな」


 灼熱爆雷(レッドボム)といえば三年前に名を馳せたプロの冒険者です。その実力はモンスター戦はもちろん、対人戦においても上位にあります。


 ですが、それを知っている御影さんは、やはり飄々としていて、まるで危機感を感じていません。


 目隠しをしているせいか、感覚が鋭敏になり、灼熱爆雷(レッドボム)の方々の敵意がより激しくなるのがわかります。空気が張り詰め、そして、


「下衆にかける情けはいらんっ。金剛獅子団を討伐しろ───」



「残念だけど、あなたたちでは僕の敵にはなれない」



「───なん、だとぉ」


 人間が倒れる音がしました。


 その数、十。


 御影さんの不敵な声とともに聞こえた断末魔。


 ああ………なんということを。御影さんには躊躇いがありません。この水の流れ、滴る音。充満する血臭。メタルベアーの時と、同じです。


「うひょー。流石は御影さん」


「この馬鹿どもの心臓を一突きですかぃ」


「これを食らって立ってる奴は、まずいねぇわなぁ!」


 殺してしまった。御影さんは、モンスター同様、人間を殺せるひとでした。


 カチカチと歯が鳴ります。力が入りません。吐き気がしてきました。


 それからまた進行する金剛獅子団。


 その間にあった戦闘は六回。


 内、二回がモンスター戦。四は人間でした。


 人間はすべて御影さんが応じました。気配でわかります。


 そして差し向けられた冒険者、計六十八名を、ひとり残らず惨殺してしまったのです。


 普通ではありませんでした。こんなの、あってはならないことだと思います。


 ダンジョンは命のやり取りをする場所。戯言も甘言も泣き言も許されません。しかしそれはモンスター戦であるゆえで、対人戦においては殺人を禁じているはずです。それなのに、御影さんはまるでゴミのように殺し続けました。………信じられない。それとも私の価値観が狂っているのか。


「はは、は………」


「おぅ、荷物。次喋ったらテメェ、ブチ犯すぞ」


「ひとの法を犯しているひとが、私を犯すのですか………?」


「わかった。この欲しがり女め。寂しかったろ。下で俺のを咥えて精々元気に声出せや」


 もうまともに食事が喉を通らず、ぐったりしている私の声を聞いた男のひとが、両手で私を持ち上げます。


 この惨劇に、心が疲弊して、自棄になってきているのかもしれません。


『い、いけない………やめてマリア! 正気に戻って!』


 ごめんなさい雨宮さん。


 もう、そんな余力がないんです。


 今、私のなかにあるのは、私を助けるために駆け付けてくれたのに、御影さんに殺されてしまった方々の無念。そこにあったはずなのに、あっけなく散ってしまった。もう二度と戻ることはない尊い命。


 それを許してしまったのは誰か。


 他でもない私だ。


 許せない。無力な私。


 そして、



()()ぇ………」



「………へぇ。そんな声も出せたんですね」



 喉の奥で磨り潰すような声が出たことに、私は驚いた。


 今まで私はなにをしていた? 拉致監禁され、救助を見殺しにして、今はのうのうと生きている。


 そんなことが、あっていいはずがない。



「私は………お前を………」



『ダメ! 殺されるわよマリアァッ!!』



「絶対に許さない………必ず、後悔させてやる」



 禁じられたそれを、つい口にしてしまった。


 だが後悔はない。


 私は決めた。私が決めた。この男を、絶対に、二度と外の世界を堂々と歩くことがないように抹殺すると。


「後悔? ………へぇ」


 御影は興味を示す声音で言う。それから合図をしたのだろう。私を降ろして、目隠しを外させる。久々に目にした光源で目が焼かれる痛みがあったが、そんなもの、私のために散ったあの勇敢な冒険者たちの痛みに及ばない。及んではならない。


「………思えば、腑に落ちないことばかりだ」


 久しぶりに見た御影は別人だった。


 ああ、殺人犯はこんな顔をしているのだろうな。と憎くなるくらい歪んでいる。不愉快だ。


 見ていろ。絶対にその余裕ぶった顔を、悲痛に染め上げてやる。


「今日、モンスター以外に………冒険者の襲撃が何回あった? そう、五回だ。どれも腕利きとされ、そして僕たちの名前を知っていた。マリアさんをこうして連れ歩いていることも」


「だから………なんだって言うんだよ」


 口調まであのふたりに似てきてしまった。まるで憑依されているみたいだ。


「………」


「黙ってないで、なにか言えよぉっ」


「………そのカメラを没収しろ」


「あ、か、返せ!」


 御影は一軍に命令して、私の手からカメラを奪う。


「あ………これ、動いてやがる! バッテリーが切れてたんじゃなかったのかよ!?」


「マリアチャンネルを確認しろ!」


「くっ………チクショウ………この女ぁ………やりやがった! やりやがったなぁテメェッ!!」


 一軍が動揺し、怒鳴り散らす。



 なんて耳障りな声。心地いいくらいだ。



「………なるほど。あのふたりが通報したわけではなかったか。昨日のアレは嘘で、ひとりになってもずっと配信し続け、僕たちの場所を常に報せていたんですね。あなたは」




「そうだよ。ざまぁみやがれっ。このファッキンシットども!!」




 初めて御影の眉が寄せられた時。



 私は渾身のファックサインを突き付けて、笑った。


マリア、壊れる。

本当ならこんなに壊すはずがありませんでしたが、つい筆が進んで………

激変したマリアに応援するついでに、作者にもブクマ、評価、感想などで応援してくださると励みになります!

やっと終盤です!


もう一話、更新しようかなぁと思いますが、体力がぁ………でも応援を下されば、マリアみたくぶっ壊れて加速すると思います!

皆さま私に力をっっっ!!

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