第43話 手ぇ出してんじゃねぇッ!!
「京一さんッ!!」
私は全力で叫びました。
もう、金切声に等しかったと思います。
金剛獅子団三軍の予兆なき奇襲で、一軍と二軍の進行は停止。代わりに御影さんだけが防衛に参加します。
ただ………それで終わるとは、考えていたわけではありません。
私だって、京一さんと鏡花さんと短いながらも共に旅をして、少ないながらも死線を潜ってきました。御影さんを応援していたのは事実です。けれど、信頼のパラメータまで可視化していたとすれば、やはり私は京一さんと鏡花さんの方が、何十倍もの差をつけて伸びています。
おふたりはまだベテランというわけではありません。しかし信頼するには十分すぎる旅をしました。優しいだけでなく、きちんと指摘する。それができるひとを、私は両親と雨宮さん以外知りませんでした。でもおふたりは、その条件をクリアしました。
たった数日とはいえ、私たちのなかでは絆が芽生えていたのだと思います。
だから、私は目を離しませんでした。
御影さんから。
御影さんは実績のある冒険者です。向上心があり、仲間思いで、勤勉で、優秀で、新たな分野であっても恐れることなくチャレンジする精神力があります。
でも、だからこそ京一さんと鏡花さんの言葉が合致する時がありました。
私だって、観察力がないわけではありません。三軍の男の子に覆い被さられた時だってそうです。ちゃんと分析しました。
彼は背後から私を抱きしめました。けれど、全力で拘束はしませんでした。ただ覆い被さっただけ。鏡花さんのキックで剥がされる前、苦しそうな息遣いが聞こえました。とてもではありませんが、誰かを自ら望んで襲うような、嬉しそうな呼気ではありませんでした。
三軍の方々に包囲されて、御影さんがひとりを殴って、京一さんと鏡花さんと共に戦う姿勢を見せて、そこからが勝負でした。
おふたりの注意が三軍の方々に向いていたからこそ、御影さんは勝利を確信していたのかもしれません。
笑っていました。まるで狡猾に張り巡らせた罠に獲物がかかった時の密猟者のように。
京一さんを呼ぶと、すぐ振り返ります。
「クソ!!」
四人を一気に薙ぎ倒し、私の方に向かいます。
でも、それは間違っています。もう言葉で伝えるには時間が足りません。
魔の手はすぐそこに迫っています。
「───ッ!!」
「お前………わかった。待ってろ。絶対に助けてやる」
アイコンタクトと首肯でしか、私の意思を伝える方法がありませんでした。
京一さんはすべてを察してくれました。
そして、私の前を通り抜けます。
この時、私はちょっとだけ嬉しかったんです。ちゃんと伝わったこともそうですが、男の子から面と向かって「絶対に助ける」と言われたことが。私の顔、赤くなっているでしょうか?
「鏡花ぁっ!!」
「え………っ!?」
京一さんの声に反応し、鏡花さんが振り返ります。
しかし、魔の手は彼女の眼前にありました。
「このクソやろ………ッ!!」
「クソ野郎で結構。正解ですよ」
「鏡花に手ぇ出してんじゃねぇッ!!」
京一さんよりも多くに囲まれていた鏡花さんの反応が遅れました。
御影さんが鏡花さんの顔を掴みます。これからなにをするのかなど決まっています。
スキルを使うつもりです。
京一さんは阻止するために、鏡花さんの顔を覆う御影さんの手首を掴みます。
あとはどちらが速いかが勝負です。
バシュッ───空気が鳴り、そして、
「ぐ、がぁぁあああああああああ!!」
悲鳴を上げたのは、御影さんでした。手首が本来曲がらぬ方に曲がっていました。
が、骨折を代償に得たものは、私の絶望でした。
「くは、はっ………はは、はははっ! どうせなら、左腕も折ってくれてもよかったんですがねぇ………僕のスキル《転送》に勝てるはずがないのだから。あなたもそう思うでしょう? ねぇ、マリアさん」
「くっ………」
「………へぇ。あまり動揺していないのですね。あなたのことだ。きっと泣き叫ぶと思っていたのですが。しかしこれはこれで好都合。耳障りなのは嫌いでしてねぇ」
ニタァ。と笑う御影さん。こんな笑顔、見たことがありません。
いいえ、これが本性なのでしょう。
「おふたりをどこに転送したんですか?」
「それをあなたが知って、どうするんです? そんなこといいではありませんか。どうせ、自分のことしか考えられなくなるのだから」
御影さんは折れてない左手を挙げ、一軍を呼び寄せます。
三軍は精根尽きた表情で座り込みます。
「………茶番でしたか」
「ええ、まぁ。あなたの両サイドを囲うあのふたりが邪魔でしたので。少々強引に、話し合いの場を設けさせてもらいました。さぁ行きましょう。あなたにはまだ、やってもらわなければならないことがあるのですから」
一軍から受け取った回復薬を飲み下しながら右腕のギブスで処置をしつつ、新たな合図で私の両腕を一軍に固定させます。
「話し合いですか?」
「ええ。きっと有意義なものとなるはずだ。もちろん、僕がですが」
「あなたは………配信者になりたかったのではないんですか? それとも、これは私の逆転劇の演出をして、脚本もできるという評価を得るためのパフォーマンスと考えてもいいのでしょうか?」
「あなたはおめでたいひとだ。まだそんなことを言っているんですか?」
「………残念です。本当、残念でなりませんっ。あなたを………信じていたかったのに」
「なるほど………世の闇を知らない、純粋無垢な少女をここまで騙せてしまったのですね。これはいい。次は役者を目指してみましょうかねぇ」
御影さんは私を拘束させたまま、ダンジョンの奥へと進みます。他の一軍の方々は、座り込む三軍の方々や、俯く二軍の方々を蹴って無理矢理歩かせました。
「信じてます………待ってますからね。京一さん。鏡花さん」
強気で御影さんと会話したのは、私なりのパフォーマンスに過ぎません。効果があるかは、まだわかりませんが。
でも本当は、怖くて怖くて仕方がないんです。泣きたいです。今すぐに。
泣いて済む問題ならどれだけ良かったことでしょう。それでも泣かなかったのは、京一さんの言葉のお陰でした。私はいつの間にか、京一さんと鏡花さんを無条件でどこまでも信じるようになっていたようです。
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「っ………う?」
「起きたか? どこか痛いところ、ないか?」
「いえ、別に………ぉぁぁぁああああああああああああああ!?」
やっと目を覚ました鏡花の顔を覗き込むと、両目の焦点が合った途端、モンスターさながらの咆哮をあげて、両手で俺を突き飛ばしやがった。
「げっふぁ!?」
「な、なにっ。なに、なにして、なにしてんのよォッ!? ぶっ殺されたのクソがァッ!?」
「酷ぇ………助けてやったのに、そりゃないだろぉ………」
「は? 助けって………え? ちょ、ちょっと………ちょっと、あんた。なにそれ」
「あー? 別に、なにも」
「なにもって………」
壁を背にして、膝枕で介抱してやった仕打ちがこれ。後頭部を思い切り壁に打ち付けてしまった。
最初は慌てていた鏡花だが、次第に大人しく………違うか。なにかに怯え始める。
原因はわかってる。
クソッ。光源となる鉱物は採取禁止なだけで、別に壊してはいけないって規則は………あるか。
見えてしまったみたいだ。
「なんで………なによ、その怪我」
「掠り傷だろ」
「掠り傷で済むレベルじゃないでしょ………なに言ってんの?」
どうにも痛くて仕方なかったが、鏡花から見るとそんなに酷いのか。
左半身が血で塗れているから、なんか怖くて直視できず、一応回復はさせたから血はいずれ止まるはずなんだがなぁ。
まず一回目!
宣言どおり、今日は日曜日なのでたくさん投稿します!
次はお昼くらいを予定しておりますので、どうか見てやってください!
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