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第42話 三軍の暴走

 六日目。俺のお試し期間と、金剛獅子団の第一選考が終わるまで、あと一日。


 甘楽の地下は、直線状のルートが多く、それも幅も広い。そんなものが三つほど壁を隔てて並んでいる。勾配があるルートがあれば、平面しかない道も。俺たちは平面の道を選んだ。遮蔽物がないためダンジョンモンスターの接近をすぐに察知できるし、昨日のメタルベアーのように壁を掘削して奇襲を仕掛ける敵にも、すぐ対応できるように。


 ここらは光源となる鉱物が多く、上下左右と光り、人間の視界を確保してくれる。メタルベアーのような強固な装甲を鎧うモンスターがいれば、取るに足らない雑魚も然り。


 午前中は金剛獅子団が前衛を務め、しかし午後になるとフォーメーションに一部変更があった。


 それを申告したのは御影だった。


「すみません。三軍の消耗が早かったので、二軍を出します。ただ索敵できるメンバーも前に出るため、後衛であるあなたたちに情報の伝達が遅れる可能性があると、先に申し上げておきます」


「わかりました。二軍の皆さんに、くれぐれも気を付けるようお伝えください」


「お気遣いありがとうございます」


 マリアが対応する。こうした事務的な会話くらいなら鏡花は許可していた。とはいえ極端な接近までは未だに許していないが。


 前衛の三軍が最後尾に移動し、代わりに二軍が前に出る。そんな陣営の入れ替えがスムーズに行われている時、俺はある違和感に気付いた。


「御影」


「なんでしょう?」


「二軍が、三軍の時より前に出過ぎじゃないか? それに三軍だって下がり過ぎだ。まるで俺たちを取り囲むような陣形な気がするんだが」


「二軍は仰るとおり、より前に出します。三軍より実力のある彼らなら問題ありません。三軍の後退についてはどうかお許しを。あなただって、消耗した彼らを早く歩ませようとするほど心が荒んではいないはずだ」


 しれっと言う御影。


 二軍はセンターのふたりをより前に出し、両翼を下がらせる先鋭的な鶴翼の陣。穴が開くが実力でカバーしようという魂胆。それならまだいいが、鏡花が警戒しっ放しになる三軍の後退は、俺はともかく鏡花とマリアが集中できなくなる。


 次第に後衛の陣形が、より乱れが顕著となった。午前をフルで戦い抜いた三軍は、休む時間をそこまで与えられず歩き通す。蓄積した疲労が解消できるはずもなく、時間の経過に連れて両翼が垂れて、俺たちを包囲するどころか数人が遅れ始める。


「あの、御影さん。三軍のひとたちが遅れています」


「大丈夫ですよ。まだ直線です。遅れたところで道には迷いません」


 三軍が遅れようと、一軍が本隊というスタンスの御影は簡単に見捨てようとする。


 対する三軍のひとりの横顔を見た。


 悲壮感はない。ただ、悲しみというよりも羞恥に近い感情を抱く顔をしている。


 自分が許せない。なにに? 御影に応えられず、襟首につけた金剛獅子団を証明するバッジに相応しくないと嘆くか。あるいは、なにかに対する謝罪か。それとも………そうか。罪悪感だ。


 御影………だけではない。一瞬だが目が合った。俺たちに対する謝罪と、あろうことか憐憫を湛えている。


「いけない………カメラのバッテリーを交換しないと」


 マリアが言う。手に持っているカメラはバッテリーを動力にしている。ダンジョンではコンセントに挿して常に電力を供給できるはずがない。


「では皆さん。一旦休憩にします。バッテリーが交換でき次第、配信を再開する予定ですので、少々お待ちくださいね」


 前方の、御影たちの背に向けていたカメラを反転させ、レンズのなかに自分の顔が映るよう操作。スイッチを押して配信を切り、電源も落としてからサイドポーチのなかに備えている予備バッテリーを探す。これで二度目の交換となる。


 が、


「あ………いけない。夜の内に充電したはずなのに、これ充電できてない。………参ったなぁ。充電器が壊れちゃいましたかね。去年支給してもらったものなのに、消耗が早すぎです」


 交換したバータイプの予備バッテリーでは作動せず、夜から朝にかけるまでの時間で充電できていない痛恨のミスが発覚。これでは配信ができなくなる。


 すると、鏡花が声をかけた。


「大丈夫よ、マリア。それと同じバッテリー持ってるから。すぐ出してあげるわ」


「わぁ。ありがとうございます。鏡花さん」


 鏡花は面倒見がいいだけでなく、用意もいい女だ。マリアが使っているカメラと同タイプのバッテリーを運良く所持していたなんて、いったいどれほど先の手を考えていたのやら。


 マリアへバッテリーを貸し出すため、視線をスクリーンを展開した直後。


「がぁぁぁああああああああああっ!!」


「きゃあっ!?」


「鏡花!?」


 いきなりのことだった。


 鏡花の視線がスクリーンに集中した一瞬を狙って、獣の咆哮が上がった。


 獣ではない。人間だった。それも、同行初日にマリアが回復薬を譲渡したあの少年の声。


 まともな目をしていなかった。なにか脅迫概念に駆られ、マリアに覆い被さりやがった。


「なにをしている三軍!!」


 悲鳴を聞いて激怒した御影が駆け寄る。だがその前に、鏡花の空中に芸術的な弧を描くハイキックが少年の顔面を捉えた。


 容赦のない一撃で鼻を潰された少年は、鼻血を撒き散らしながら倒れる。そして周囲の三軍たちが取り押さえるかと思いきや───


「でやぁぁぁあああああああ!!」


「うぉぉおおおおおおおおお!!」


「うわぁぁぁぁああああああ!!」


 残りの三軍九人が、一斉にマリアに襲い掛かった。


「なんだよこいつら。いきなり盛り出しやがって!」


「躾のなってない駄犬が。クソ死ね!!」


 なんの予兆もない混乱が波及し、狂ったように襲い掛かる九人を、俺と鏡花でマリアを挟んで迎撃する。


 驚くべきことに、鏡花はモンスター以外の、対人戦にも慣れていた。男と女では筋肉の量で違いが出るが、そのハンデをもろともしないスペックゆえ、常人ではストレートと比較し威力が出ないジャブでも破砕機同様の威力が出る。多い手数で五人を圧倒する。


 俺も対人戦においては龍弐さんに仕込まれている。「ダンジョンはモンスターだけが敵になるわけじゃないんだよん。あっひゃっひゃ」と笑いながら何度も放り投げられた。


 左右同時の迎撃。片手で攻防するには手の平のみならず腕や肘、密着されたなら肩も使う。


 荷重移動を意識し、しかし軸はぶれさせず。腰を落として半身になると、見様見真似の「祭刃神拳」を繰り出した。案外うまくいき、左右の男どもは攻撃を防がれた直後に盛大に宙を舞う。


「やめろ三軍!! マリアさんに手を出すな!」


 本当に遅すぎる。やっと猿山の大将が、暴挙に出た三軍のひとりを掴んで殴り飛ばす。そのまま俺たちに加勢し───



「京一さんッ!!」



 ───マリアに呼ばれた。


 振り返る。


 刹那、俺は猛烈な怒りで感情を染め上げた。


 殺してやる。まともに声が出ていれば、そう叫んでいた。


明日は日曜日なのでたくさん更新しようと思います。今のところ、いつもどおり2話はストック完了しているのですが、これから追加で執筆作業に入ります。明日も書き続けます。

3話以上書けるかどうかは、皆様のブクマ、評価、感想などでモチベーションが向上し、筆も進みますので、恐縮なのですがどうか作者に「書けやオラァ」と気合をぶち込んでくだされば、毎回のことながら幸福に浸りながら筆を進めるでしょう!

え、作者はMなのって? 違います。特殊な物乞いとでも考えてくだされば………

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