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第232話 強くなる必要がある

 ついに飯能市跡地を抜けて、秩父市跡地に到着しました。


 その頃には京一さんは七歳になっていて、泣くことも笑うこともなく、電源が切れた機械のような沈黙を続ける人形と化しました。


 そんな京一さんを背負って移動するのは鏡花さんでした。彼女のスキルはこれまで私を防衛するためにありましたが、私もスキル持ちに覚醒した身。自己防衛を得意とするスキルゆえ、鏡花さんの力は京一さんの防衛のために使うべきだと具申したところ、奏さんもそのとおりだと納得してくれました。


 私の『防壁』のスキルと、鏡花さんの『置換』のスキルが揃うと、私のパーティもこれまで不可能ではないにしろ得意とはしていなかった防衛に、より注力するようになります。


「作戦を確認しよう。前衛は龍弐と迅がやる。殿は奏と利達。中心六衣と俺。このポジションを維持して進む。以前の進路よりまだ下層だが、いずれ戻るにせよ………なんか空気が澱んでるな。十分に注意して進もう」


「はい」


「あいよぅ」


「了解しました」


「キモ」


 奏さんは憔悴して、判断力が鈍っているため、まだ平常心を保てているアルマさんが舵を取ります。奏さんのフォローには利達ちゃんが務めることで敵影を逸早く発見することが可能でしょう。


 各々が了解の旨を発するなかで、またもや六衣さんが辛辣な反応をします。アルマさんはまたガックリと肩を落としました。


 しかし、意気消沈してばかりでもいられません。


 アルマさんが言うように、どこか空気が澱んでいました。まるで動くことなく沈滞しているような。あるいは肩にずしりと荷重をかけるような重圧感も感じます。


 これまでモンスターの急襲も何度かありましたが、退けられることには変わりはなかったのですが、以前と比較するとタイムレコードが伸びているようにも思えます。


 決して苦戦を強いられるような戦いではありません。超攻撃特化のパーティに、私と鏡花さんのスキルの応用さえあれば防御も両立できるからです。その上で交戦時間が長引く理由があるとすれば、おそらくダンジョンモンスターのレベルも上がったことが原因でもあるでしょう。


 そしてもうひとつ。これは欠かせない、重要なことでした。


「くそっ………!」


 アックスホーク、ウッドアームコング、二種類のモンスターを吸収したキメラなどなど、多種におけるモンスターを群れ単位で撃破した直後、ゴンと鈍い音を響かせて、岩の壁を殴って陥没させた迅くんが唸ります。


「本当………思い知らされるっすねぇ。俺のレベルの低さってやつをよぉ」


「でも、迅くんはワン郎ちゃんたちのレベルをもらって、龍弐さんと同格のレベルになれるじゃないですか。私なんて、まだレベル30なのに」


 毒づく迅くんのフォローをしますが、それでも納得のいかない様子でした。


 これまで守られるだけで、非戦闘員として戦いに参加できなかった私が得られる経験値など微々たるもので、そりゃあ群馬ダンジョンから埼玉ダンジョンまでの進攻撃でレベル10ほどだったのがレベル20ほどに上がりはしましたが、最近になって防壁を担当することで得られる経験値が倍増し、短期間でレベル30ほどになりました。すでに全国でも上位にランクインするのですが、このパーティと比較してしまっては最下位です。


「いや、迅が悔しがる理由はそこじゃない。ゲームで例えるなら………そうだね。プレイヤーキャラクターのレベルじゃなくて、プレイヤー自身の技量の低さを嘆いてるってとこかな。だろ、迅?」


「………うす」


「プレイヤー自身の技量?」


 私もいくつかゲームをプレイしたことがあります。小学生の頃、お父さんに買ってもらったゲーム機で、クラスで流行っていたRPGを少々。それでも龍弐さんの言っている意味がわかりません。


「いくらキャラクターのレベルが高かろうが、それを操るプレイヤーの操作技術が足りなければ、無用の長物ってわけさ。迅は確かに強いよ。このパーティでも前衛として、マリアちゃんの護衛としても体を張れる。全国のレベルのランキングなんて、もう参考にならないくらいにね」


「なら」


「でも、まだ足りない。こいつ、本来ならまだ中学生だしね。人生の経験だって足りてないし。小さい頃から冒険者になるための訓練も受けてない。………それが、()()()()()()との差になったってわけだ」


「………あ」


 やっと理解に達しました。


 迅くんが嘆いているのは、京一さんが抜けた穴を埋めようとも、どうしても至らず、結局は龍弐さんのフォローに頼ってしまっている部分だったのです。


「京一の兄貴………最初はスキルだってすっげぇ破壊力だって驚いたけど、このパーティと比較すると、その」


「応用性が足りないからねぇ。壁を折り畳んだり、光を屈折させる程度。でも、ならなんで迅が追いつけないと思う?」


「俺との差………龍弐の兄貴との阿吽の呼吸っすか?」


「ま、それもある。こちとら奏さんとの命懸けの鬼ごっこで鍛えてるからねぇ。でも肝心なのが抜けてるぜ。キョーちゃんはなにがあっても前に出る。判断を誤らない。んでぇ………スキルに全振りしねぇ戦いも選べる。特に最後のがな。お前に足りてねぇとこだよ」


「………押忍」


 やはり、顕著となったのはそこでした。


 京一さんが抜けたことにより前衛がどうしても手数が足りなくなるのです。


 京一さんは不器用で、言葉足らずで、粗暴で、どこか破壊神みたいなところがありますが、いつでもグイグイと前に出ます。


 命をかけて、突破口を切り拓く突撃隊長。そして主力級の実力。なにがあっても敵を退ける技術。


 私はこれまでの旅で、何度も目にしました。そんな京一さんの背中に憧れました。だからスキル持ちになって賞賛された際、認められてとても嬉しかったのです。あの背中にまた一歩近づけたことが。


「とは言っても、いきなりスキルに頼らない戦い方をすんじゃないわよ?」


 やり取りを見ていた鏡花さんが釘を刺します。


「あんたの場合、スキルありきを想定した前衛なんだから。スキルが無きゃ、私よりレベルも低いし。このエリアのモンスターどもと対等にやり合えるわけがない。………京一を参考にした戦い方をするってのは、ある意味で不正解なのかもね。あんたなりの正解を見つけなさい」


「押忍。鏡花の姐さん」


 こういう時、迅くんはとても素直です。いくら自分よりも歳がいくつか上でも、超絶な上から目線での物言いにカチンと来るひとだっているでしょう。そうならないのは迅速くんがひたむきに強くなろうとしているからであり、鏡花さんを尊敬している証拠でもありました。


「とかなんとか言ってるうちに、次が来やがった。お客さんだぞ、迅。今は余計なことは考えなくてもいい。できることをやれ。尻ならいくらでも拭いてやるよ」


「けど」


「忘れんな。外界の連中や、ここよりも下層にいる連中は埼玉ダンジョンだろうが群馬ダンジョンだろうが本番に違いねぇけど、俺たちの場合は東京ダンジョンが本番だ。だから東京ダンジョンに到着する前に、なにがなんでも強くなれ。そうすりゃ俺も文句は言わねえよ!」


 次の群れを目視した瞬間、龍弐さんが加速します。迅くんも遅れて飛び出しました。


 そう。強くなる必要がある。


 迅くんだけではありません。これは演習です。龍弐さんたち最年長組がそうしてくれました。私も対象です。


「ぅあああああ!」


「マリア? ………無理しないようにね。ポイントを常に意識して。なにができるか探るの。マリアのスキルだって応用性が高いんだから」


「はい!」


 私が手をかざすと、鏡花さんが教官になってくれました。


 距離が開いていようが、私のスキルは届きます。密度を上げて、辛うじて目視できる色彩に変色できるよう工夫もします。半透明のボックスがモンスターの群れと龍弐さんたちの間に出現すると、それを利用した龍弐さんが「ナイスアシストォ!」と叫んで蹴り飛ばし、先頭を巻き込んで多くを吹き飛ばしました。


 これも応用のひとつです。鏡花さんも「やるじゃない」と評価してくれました。


評価ありがとうございます。

そして先日は………リアルガチで更新を忘れていました。

ということで、本日と明日、連続で更新することとなります。


作者からのお願いです。

皆様の温かい応援が頼りです。ブクマ、評価、感想、いいねなど思いつく限りの応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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