第223話 チャンネル登録者数一億人突破
「正気ですか雨宮さん!? それは………あまりにも………」
『わかっているわマリア。こうしてインカム越しにも聴こえてくるもの。その………ね?』
あの雨宮さんでさえ及び腰になるくらいの声が聞こえてくるのでしょう。
「かわ、んがわいぃぃぃいいいいいい!!」
「キャアアアアアアアアア! キョウちゃんこっち向いてぇ!」
「ネ゛コ゛チ゛ャ゛ン゛!!」
「ダメだよぉ、鏡花ちゃん。抱きついたら京一ちゃん死んじゃうよぉ」
………まぁ、こんな感じで。
こんなのを配信すれば、完全に放送事故でしょう。
ちなみに奏さんたちが発狂しながらスクリーンのカメラ機能を起動し、連続でシャッターを押して黄色い悲鳴を上げる理由としては、迅くんがテイムしたモンスターの幼獣たちとともに並んでいるからでした。京一さんはワン郎ちゃんが特にお気に入りで、抱きついたり軽く叩いたりしています。
ワン郎ちゃんたちは原種よりも賢く、ご主人様のお連れ様かつ絶対死守的存在であると認知しているのか、それよりも自分たちより幼いと悟ったか、赤ちゃんになった京一さんが体毛を軽く引っ張ろうが我慢していました。ダンジョンモンスターゆえに頑丈だからでしょう。体毛を引っ張られた程度では幼獣であろうと痛くないのかもしれません。嫌な顔はしていましたが。
雨宮さんから、以前から私のパーティのビジュアルの評判を聞きます。女性陣のレベルの高さについてです。普段から「激しい」という表現が生温く感じるほどの動きをしているためか、どれだけ食べても太る余裕がありません。私もソロだった時代は壊滅的な食生活だったのですが、ダンジョンモンスターと日々熾烈な鬼ごっこをしていたためか、外界にいた頃より痩せました。
グラビアアイドルを超えるバストと、モデル級のスタイルと優れた美貌を兼ね備える奏さんを筆頭に、鏡花さんや私、最近では利達ちゃんも見直されてファンが増えたとか。六衣さんは………多分「安全ピンを抜いた手榴弾を握っているようで怖い」などというコメントの方が多いのでしょうが。
とにかく、東京ダンジョンを目前に控えた私たちのうち、半数が再起不能になる事態だけは避けたかったのです。なんとしても雨宮さんには妥協してもらう必要がありました。
「私に盗撮しろと言うんですか?」
『物騒なことを言うものじゃないわ。流石に親しき仲にも礼儀ありを遵守させるし、許可を得てから撮影してもらうつもりでいたから、そこは話し合ってもらう必要があるんだけど………』
「許可を得て撮影? ………そうか。その手がありました!」
『どうしたの? マリア。なにか妙案でも浮かんだ?』
「雨宮さん。思い出してください。私が配信者になる前、なにをしていたのか」
『んー? ………ああ、そうか。確かにその手があったわね。いいわ。それでいきましょう。私は引き続きうるさい連中を引き受けるから。あなたは思う存分にやりなさい!』
「了解です!」
雨宮さんは厳しい面の方が多いですが、私の身の危険を案じ、御影に拉致された際はずっと励ましてくれました。なにより頼れるお姉さんです。私でも億劫に思う存在を一挙に引き受けてくれました。
「みなさん。聞いてください。リトルトゥルーの要請です。これより、とある大会を始めます!」
私がパンと柏手を打って注目を集め、趣旨を説明した一時間後のことです。
また雨宮さんから連絡が入ります。
『見事よ、マリア。やるじゃない』
「いえいえ。雨宮さんの方が大変じゃないですか。………ということは、やはり?」
『あなたの予想を遥かに上回ったわ。社長命令で、ホームページにまで『今日のキョウちゃん特集』を急きょ貼り付けたところ、五分で何十万というアクセスがあったわ。SNSでも大バズり。あなた、本当にこの手のジャンルになると強いわねぇ』
「えへへぇ」
私は配信者になる前は、インフルエンサーをしていました。チャンネル登録者数もそこそこいたくらいです。
パーティの全員にお願いして、撮影大会を催すと、全力で撮影する女子たちと、控えめに撮影する男子たち。龍弐さんは早々にふざけ始めて奏さんに殺されかけました。でも羨ましかったです。京一さんのふわふわなお腹に顔を埋めて「ブー」と息を吹きかけると、キャッキャと笑うのですから。あれはやっている方もやられている方も幸せでしょう。奏さんの制裁は、嫉妬が八割くらいを占めていると思います。
撮影は写真に留まらず、ショート動画も貼りました。
その瞬間を収める写真は私の得意分野にして、受け取った写真のブレを修正して鮮明化する技術もリトルトゥルーで習得済み。パーティのクラウドにどんどん保存されていく写真のなかから、特に京一さんが可愛かったものを厳選して修正しては雨宮さんに送ります。
同時進行でショート動画も雨宮さんに送ります。こちらはあまり編集する必要がありません。十秒から二十秒以内の短い動画ですし、写真とは違う魅力があります。
私たちはとにかく可愛いを集め、リトルトゥルーに送っては特集を更新してもらいます。SNSでは大バズり。アクセス数もすでに何千万に到達したのだとか。
『それと………これは個人的な祝福なのだけど』
「はい。なにかありましたか?」
『京一くんが驚かないよう、大声を出さないようにね。ついにあなたやったわよ。これはリトルトゥルーの快挙………っていうのも変に聞こえるわね。あなたは日々、快挙を成し遂げているのに。でもあえて言わせてもらうわ。あなたは配信者で、世界の強豪と渡り合えた。おめでとう。マリアチャンネル登録者数、一億人を突破したわ』
「い、いちおくっ!?」
『こら。叫ばないの。昨日のあなたの覚醒の時点で鰻登りだったしね。………でもこれはもう、日本人や外国人関係なく、毎秒何十人が登録してるの。今もよ? すごいわ。止まらないの。もう一億飛んで一万人になった』
スケールがとんでもないことになってきて、なんだか目が回ってきました。
確か、この業界でチャンネル登録者数の世界ランキングは、四億人だったような覚えがあります。これはダンジョンでの配信者に限ったわけではありません。過去、ダンジョンができる前、外国の方の登録者数です。
ついにここまで台頭しました。来てしまいました。
『でも、考えてみれば当然だわ。あなたたちは今、全冒険者、全配信者が目標としているゴール地点エリアを目前としているんだもの。誰でも入れるところじゃない。努力したからって報われるわけでもない。今や、あなたたちこそが伝説なのよ。胸を張りなさいマリア。でも、だからって気負う必要はないわ。ありのまま………って伝えると、若干二名が暴走しそうだから伏せておくけど、自然体で行きなさい。ファンはみんな、それを望んでいるわ』
「もちろん、そうします。………というよりも、自然体というか………私のパーティは全員がフリーダム過ぎるので、今さら私がどうこう言えるわけではないのですが」
例えば戦闘であれば、個性豊かな面々が自由に暴れ回っています。序盤こそ連携を意識していますが、中盤に差し掛かるとそれぞれが最適解を理解したりして、奏さんやアルマさんの最低限の指示を守って自由に敵を破壊していました。
もうひとつは………そう、拷問でしょうか。西坂さんへの罰は本当にえげつなかった。あれでよくインモラルブロック機能が働かなかったものです。
こうして、新たな一ページを開いた私たち。本当に、もう………新しいページが何枚あるのでしょうか。
注目度ランキングに載っていました。びっくりです。ブクマもありがとうございます。
作者からのお願いです。
皆様の温かい応援が頼りです。ブクマ、評価、感想、いいねなど思いつく限りの応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!




